甲南大学の取り組み

理工学部学科新設記念進化型理系シンポジウム
伊藤公平慶應義塾長「私立大学4・0における理系の役割」
甲南大学(兵庫県神戸市)は3月8日、岡本キャンパス内の甲友会館で「理工学部 学科新設記念 進化型理系シンポジウム『未来をつくる高度理系人材養成の最前線』―進化する『甲南理系』の可能性―」を開催した。当日は、伊藤公平慶應義塾長(慶應義塾理事長兼慶應義塾大学長)が「私立大学4・0における理系の役割」をテーマに基調講演を行ったほか、伊藤塾長と甲南大学の教員、卒業生によるパネルディスカッションを実施した。
甲南大学では現在、「グリーン」「デジタル」「マテリアル」「宇宙・量子技術」「バイオ」を中心とした各専門分野の研究に変革をもたらす「進化型理系構想」を推進している。令和8年4月には理工学部に大学・高専機能強化支援事業(支援1)の採択を受けた「環境・エネルギー工学科」を新設。同学部の物理学科を「宇宙理学・量子物理工学科」、機能分子化学科を「物質化学科」に改組(以上、設置構想中)し、生物学科を含めて4学科体制とする。また、知能情報学部とフロンティアサイエンス学部を合わせ、理系学部を3学部6学科体制に発展させる。
さらに、令和9年には岡本キャンパスに理系棟が新たに完成する。
今回のシンポジウムは、理工学部への学科新設を記念して、イノベーションで創造する未来を見据え、私学として成長分野に貢献する理系人材の在り方について議論を深めることを目的に開催した。
基調講演で伊藤塾長は「これまで幾つかのバージョンを経て進化してきた大学は現在、社会貢献を軸とするバージョン4・0に移行しており、世界のさまざまな大学で研究、教育が社会に与えるインパクトを指標として教員の評価につなげる動きが出てきている。こうした中で、私立大学がどのように社会貢献していくのか問われている」と説明。テクノロジーが数年間で陳腐化する時代には、学びと教えが交流する「半学半教」が重要であり、慶應義塾大学を創設した福沢諭吉の教えに通じるものがあるという。4年制大学のうち約80%近くを占めるのが私立大学であり、最も人数が多い日本を支える中間層(ボリュームゾーン)が、希望を持って、社会を良くしていこうと考えていけるような意識を持つ市民を育てることが私立大学の役目であると強調した。
また、甲南大学の環境・エネルギー工学科の新設に当たっては、総合大学の強みである文系の知見も生かしながら、次世代の正しい理系の道をつくっていくことが必要になってくるとし、AIの進化が社会に与える影響などにも言及した。
さらに、慶應義塾大学のAIに関する三つの取り組みとして▽学生がAIの使い方を教員や学生に教えていること▽米カーネギーメロン大学との最先端のAI研究パートナーシップの締結▽文系と理系、医学系の教授らがAI時代の尊厳の価値を考究し、その成果を世界に発信する「X(クロス)ディグニティ(尊厳)センター」の設立―を解説した。
最後に「AIを使っても答えの出ない問題もあることから、甲南学園の創立者である平生釟三郎先生が話している通り、人物教育が大切になってくる」との考えを示した。
基調講演の後、甲南大学の中井伊都子学長が進化型理系構想の趣旨を説明し、「同構想は、特定成長分野など社会的ニーズが高い分野を強化して高度理系人材を養成すること、工学分野を志向する受験生や、高度理系人材を目指す受験生にも魅力的な学部学科に進化させることなどを骨子とする。これによって、理学と工学で未来をつくるイノベーション人材をしっかりと輩出していく」と意欲を示した。
「理工学のチカラで創造する未来と次代の理系人材の役割について」をテーマとするパネルディスカッションでは伊藤塾長、甲南大学理工学部の池田茂教授、同大学フロンティアサイエンス学部の石川真実助教、テックタッチ㈱Webフロントエンジニア(同大学知能情報学部平成31年卒業生)の松本彩樹氏をパネリストとし、科学ジャーナリスト/東京農工大学特任教授の須田桃子氏がコーディネーターを務めた。
石川助教は「フロンティアサイエンス学部では1年生から、幅広い分野の教員が行う基礎的な講義や実験によって自分の土台を作ることができる。多様な学問が関連する再生医療分野で新しいことに挑戦するときに、同学部での経験が生きる」と説明した。
松本氏は「AIを活用して企業の電子システムの導入と効果的な運用を支援するサービスを提供する会社でウェブエンジニアを務めている。大学の研究室ではチームでプログラムの開発に取り組み、その過程で身に付けた知識を応用することで仕事に役立っている」と述べた。
伊藤塾長は「チームということでは、理系の学生が文系の学生と当然のようにチームとなり、その中で議論することなどは重要になってくる」と語った。
池田教授は「発見や開発にはポジティブシンキングが大事だ。無駄な実験は絶対にない。実験結果から次の方法を考えることを積み重ねるプラス思考の人材こそが高度理系人材だ」との考えを示した。