東京薬科大学の取り組み

単離した乳酸菌で高尾ビールとコラボ商品開発

ビール造りを通じて地域の活性化へ

東京薬科大学(東京都八王子市)と高尾ビール㈱(同)は6月13日、コラボビール第5弾となる「高倉ダイコンから単離した乳酸菌を使ったサワーエール」の販売を開始した。

同社は2017年に操業を始めた小規模ビールメーカーで、地場の農作物を生かしたビール造りを行っている。高尾駅前には直営店舗として「高尾ビールタップルーム」、八王子市下恩方町には醸造所として「高尾ビールおんがたブルワリー」を構えている。

同大学生命科学部食品科学研究室(担当:志賀靖弘助教)はこれまでも、同大学キャンパス内から単離した微生物を用いたクラフトビールを同社と共同開発してきた。2022年には、同大学内の薬用植物園内で栽培された「カラハナソウ」から単離された乳酸菌を使用したクラフトビールが発売され、すぐに完売になるほどの人気となった。

今回、コラボビール第5弾のサワーエールの素材となった「高倉ダイコン」は八王子市特産の伝統野菜の一つで、「江戸東京野菜」としても登録されている。非常に細長い大根品種で、たくあん漬けにすると特に味が良いため、大正時代後期から市内高倉地区で盛んに生産された。

高度経済成長期以降は生産、流通、販売におけるコスト重視によって生産は次第に減少した。現在は八王子市内の2軒の農家で、限られた量しか生産されていないことから「幻の大根」とも呼ばれている。

同研究室では、この貴重な高倉ダイコンの葉から、複数種の乳酸菌を単離することに成功し、八王子市七国に研究所「明治イノベーションセンター」を置く㈱明治の協力を得て、乳酸菌種の同定、官能試験を行い、サワーエール醸造に適した乳酸菌株を選定した。完成したビールは使用したホップ品種由来のかんきつ香と、高倉ダイコンの乳酸菌が作り出す爽やかな酸味が特徴で、飲みやすく、これからの季節に最適な味わいとなっている(ビールの副原料として、高倉ダイコンをはじめとした大根類は使用していない)。

2018年4月のビールの定義変更や、2020年10月のビールの税額引き下げ、さらには世界的なクラフトビールブームも追い風となり、国内のクラフトビール市場が近年右肩上がりで成長を続ける中、「八王子」というキーワードの下で研究開発されているコラボビールのシリーズは八王子地域への研究成果の還元という当初の目的のみならず、原料として使用する地域特産の農産物の生産者との新たな連携や、八王子市を訪問する観光客向けの土産品としての需要など、八王子地域全体の振興へ寄与することが期待されている。

また、今回の高倉ダイコンのように消えつつある伝統野菜の存在を世の中に紹介することによって、これらの品種の存在意義の見直し、品種の維持や復興、これらの品種を使用した郷土料理の発掘や開発など、八王子地域の食文化の継承や発展につながっていく可能性がある。

両者は、同大学が単離した微生物を用いたクラフトビールのシリーズを継続していくとともに、八王子地域に根差したコラボレーション商品の開発を促進していくこととしている。

その目玉として、同社では、同大学キャンパス内から単離した微生物と、八王子産のビール大麦・ホップと副原料(フルーツ等)を使用した、東京・八王子産原料100%ビールの醸造を計画している。

今後も、両者はビール造りを通じて、八王子地域の活性化に貢献していく考えだ。