甲南大学の取り組み

中高生対象に新素材を用いた再生医療について講義
工学的・化学的・生物学的研究で医療に貢献
甲南大学ネットワークキャンパス東京(東京都千代田区)は7月30日、同キャンパスで、今年度から首都圏の中学生・高校生を対象に開始した「体験キャンパスin Tokyo」を開催した。今回は同大学フロンティアサイエンス学部の長濱宏治教授が「新素材を用いた世界でオンリーワンの再生医療について」をテーマに講義を行った。
当日は中学生・高校生、保護者40人が参加し、熱心に聴講した。
再生医療は、本人もしくは他人の細胞・組織を培養等加工し、障害のある臓器の代わりに用いることで、失われた組織や臓器を修復・再生する医療。長濱教授は体温に温めると液体からゲルに変化する新素材を合成し、その温度応答性を利用して、細胞を注射移植できるゲル(インジェクタブルゲル)を開発し、このゲルを用いた細胞移植によって、さまざまな損傷組織の再生に取り組み、筋肉、腱、軟骨などで高い成果を挙げている。
講義で、長濱教授は再生医療の基本プロセスについて(1)多様な細胞に分化できる幹細胞を準備する(2)幹細胞を患者が必要とする細胞に変化させる(3)変化した細胞を患者に移植・投与する―という3ステップがあり、各ステップで研究が進められていると説明。幹細胞の研究については、ヒト体性幹細胞、ヒト胚性幹(ES)細胞、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞が再生医療への応用済み、または応用の可能性のある幹細胞であるとした上で、ES細胞、iPS細胞は人間の体内の細胞全てに変化できることなど、それぞれの優位点や問題点を解説した。
細胞移植による組織再生に関しては、患者の体に優しく、体内の深い部分まで細胞を投与できる方法として、幹細胞などを生理食塩水に懸濁した細胞懸濁液の患部への注射投与が現在の主流になっているものの、▽関節軟骨への間葉系幹細胞移植治療では、関節という閉鎖空間にもかかわらず、移植細胞の40%は生着せずに流出・壊死する▽心臓への心筋細胞移植治療では、胸腔という体液に富む開けた空間に位置するため、移植細胞が容易に流出し、生着率が約10%にとどまる―ことを例示し、移植細胞をその場にとどめること、移植細胞が生着するための環境(足場)を構築することの重要性を説いた。
その上で、「こうした状況を改善するために、インジェクタブルゲルを研究している」と述べ、体温によって液体からゲルに変化し、約1カ月で体内で分解する、同素材を使用し、細胞を生体内の移植部分に固定化することで、組織・器官を再生する新しい医療技術について説明した。
講義では、同素材を体温付近の温度に温めた湯に注射器で注入し、同素材が液体からゲルに変化することを示す実験も行った。講義に参加した中高生2人も実験を行い、同素材の性質を確認した。
続いて長濱教授は、大腿筋損傷モデルマウスへの同素材を用いた細胞移植による筋組織再生、アキレス腱断裂モデルを用いた細胞架橋ゲルの腱組織再生などの実験結果を示したほか、組織工学の今後の展望などを解説した。
また、大学院2年生の川島颯真さんが自身で研究している、がん治療法を紹介した。
最後に、長濱教授は「他大学の医学部や製薬会社と協力して、1日でも早く、インジェクタブルゲルを患者に届けるために研究を進めている。工学的、化学的、生物学的な研究から医療に貢献する甲南大学はミディアムサイズで手厚い教育を行っている。今の社会の状況に合わせて理系を進化させている」と話した。


