学士修士5年一貫制、大学院の評価方法等検討へ

中教審第120回大学院部会開催
分野ごとに課題など洗い出し
大学院修了者受け入れ企業処遇改善も課題
中央教育審議会大学分科会大学院部会(部会長=和田隆志・金沢大学学長)は9月30日、オンラインで第120回部会を開催した。この日は、(1)各分野における大学院教育の現状について改めて振り返りつつ、(2)学士・修士5年一貫制における教育課程の編成、大学院入試、社会が大学院教育の価値を再確認する契機となるような大学院の評価方法等を検討していくことを確認した。
このうち(1)に関しては、初めに文部科学省の石橋晶・大学振興課長が課程別・設置者別の大学院在学者数(令和6年度)、分野ごとの修士課程入学者数と博士課程入学者数の推移、博士課程における標準修業年限からの超過年別修了者数、各課程修了者の進路と就職先(人文・社会科学/理・工・農/保健/その他)、大学院への進学希望、博士課程学生の経済的支援状況、大学院における海外からの学生の受け入れ・送り出しの状況等を説明。
続いて両角亜希子・副部会長(東京大学大学院教育学研究科教授)から人文・社会科学系に関して、大竹尚登委員(東京科学大学理事長)から理・工系に関して、和田隆志部会長から医学系に関して、それぞれ大学院に対する現状認識等の意見発表があった。
このうち石橋課長は、人文・社会科学系大学院の在籍者数においては私立大学の占める割合が大きく、理・工・農の特に修士・博士課程においては国立大学の占める割合が大きいこと、分野ごとの修士課程入学者数の推移(2003年→2024年の伸び率)では人文科学系が19%減、社会科学系は29%減、とりわけ教育は64%と減少が著しいこと、また博士課程(同)では人文科学が44%、社会科学が47%、理学が30%、工学が18%、農学が33%、家政が50%、芸術が11%と、それぞれ減少。反対にこの約20年間に伸びていたのは、その他(の分野)26%、教育9%、保健1%のみだったことを説明。
また博士課程においては、全ての分野で標準修業年限での修了者の割合が減少していて、各課程修了者の進路と就職先で、人文・社会科学系の博士課程では「就職でも進学でもない者」(就職活動中、1年未満の短期雇用等)が半分以上を占めていること、また理・工・農系の進路と就職先では就職でも進学でもない者の割合は減少傾向にあり、就職先としては、研究者、技術者等、大学等教員が多いこと、大学院における海外からの学生の受け入れ・送り出しの状況に関しては、我が国ではともに低調で、特に米国への留学生の送り出しは大学院段階の留学生が韓国やイランに比べ大幅に少ないこと等が説明された。
3人の委員からの意見発表では、両角副部会長が、人文・社会科学系大学院の修了後の進路ではアカデミック以外で職を得る機会が少なく、不安定な職に就かざるを得ないため、学部から修士課程に進学しない要因となっていること、ただし一定の資格が取れる課程では社会人が増えていること、私立大学では学部4年間の学費負担が大きいため(国立大学と比べ)大学院進学に二の足を踏んでいること、また近年、博士課程学生への経済的支援が充実してきているが、修士課程学生への経済的支援がないため、そこで躓き、更に博士課程に進学してもキャリアを狭めるだけと学生は考えていて、また人文・社会科学系は各研究室の規模が小さく、博士を輩出したことのない研究室もあるため、博士課程の学生の増加につながっていないことなどを指摘した。
続いて大竹委員は理・工系の状況に関して説明を行い、理・工系では修士課程進学を前提としていること、東京科学大学(国立)では学士課程に約1100人が入学、うち9割が大学院に入学すること、修士課程には学外からの進学者を合わせ2000人が入学、そのうち10%が博士課程に進学、学外からも含め450人の博士課程のうち310人が修了等、アカデミアには90人が進むが、外国人留学生もいるので進路不明者がいること、大学院の修了年限については、現在、在学中の学外経験の機会が増えていることや、留学もあり、また社会人学生が博士課程から入学した場合、在学期間は伸びることもあって、標準年限を超える人が多いこと、博士課程の学生に関しては近年経済的支援が改善されてきているが、社会における処遇面では、博士課程を修了してもメリットのない職場(企業)が全体の85・1%もあり、また専門以外に、近年、期待の高い研究遂行能力や課題設定能力、データ分析力といった力を博士課程修了者は持っているので、一緒に仕事をする機会があれば企業関係者にも博士の能力を知ってもらえる、と、処遇改善への期待感を語った。
和田部会長は、医療系大学院の状況について補足説明を行い、入学者数は横ばい状況だが、外国人留学生、社会人が増加していること、医学生に対する調査で約半数が大学院への進学を希望しているが、進学を希望しない理由としては、「大学院に魅力を感じない」が47・6%、「研究に魅力を感じない」が41・0%、「経済的負担が大きい」が40・4%あることを紹介し、大学院生(博士課程)の平均的な週当たり(7日間)の大学での研究時間は「週1~10時間」が31・3%と最も多く、特に臨床医学系は0時間と併せると10時間未満の割合が4割を超えていることなどを説明した。
こうした説明に、委員からは「学部新卒で大学院に進学した学生にとって大学院を何年で修了しているかは、人生設計上重要だが、社会人学生は既に職を得ているので、両者の標準修業年限を分けて公表するなどミスリードにならないようにしてほしい」「大学院の修業年限は分野や教員によって違う。大学院生を海外留学に送り出すことと標準修業年限内に修了することがトレードオフになる可能性がある。分けて考えているか」「大学院に進むことで、その間、就職して得られる社会人経験をロスしている。大学院は学部卒と給与に差をつけるだけの力が育っているのか」などの意見が出された。また企業出身の委員から企業での大学院修了者の処遇の実態が報告されたが、「博士号を取っても年収が高い訳ではない。しかし若手の抜擢人事では博士号取得者も多い」「博士号取得者の採用は全て理系。修士では物足りない。トランスファラブルスキルは非常にあると思う」「学生に分かるように博士と修士で処遇を変えた」「技術があっても社会に受け入れられないといけない。人社系のマスター、ドクターへの期待がある。大学院と企業との連携の在り方を示してほしい」といった意見が聞かれた。そのほか「大学教員の研究は社会とのかかわりが必要」「大学院生は人生設計が難しい。ライフイベントをすべて手放す覚悟が求められるので、生活面の細かなサポートがないと大学院進学に踏み切れない」といった意見も聞かれた。
(2)に関しては中教審の別の部会で学士・修士5年一貫制の検討が進められているが、大学院部会にも関係する事柄のため、この日は、頭出しという意味で議論の概要が簡潔に同省から説明され、委員からは、学士・修士の切れ目、修士・博士一貫との整合性や国際通用性を担保できる内容にする必要性などが指摘された。また「アカデミックルートなのか、職業人養成ルートなのか」「企業から(5年一貫は)優秀な学部卒と見られないか。修士を1年で修了しているのだから優秀な修士修了者と思ってもらえるか」といった意見も聞かれ、関連して大学院入試をきちんと行う必要性が強調された。そのほか大学院の評価についても今後検討していくことが文科省から説明された。 学士・修士の一貫制、大学院の評価については次回以降本格的に検討していくこととなった。


