全国私学教育研究集会大分大会開催

研究目標 新しい時代の創造に向けた私学の挑戦

~多様性と包括性の実現に向けて~

492人の私立中高校長等参加全体会や5部会等で研鑽

一般財団法人日本私学教育研究所(吉田晋理事長、平方邦行所長)は、令和6年10月31日と11月1日の2日間、大分県大分市のiichiko総合文化センターiichikoグランシアタ、ホテル日航大分オアシスタワー、ソレイユを会場に、令和6年度全国私学教育研究集会大分大会を開催した。「新しい時代の創造に向けた私学の挑戦~多様性と包括性の実現に向けて~」を研究目標に掲げた当大会には、全国各地の私立中学・高等学校・中等教育学校の理事長、校長、教頭、教員ら492名が参加した。

初日の全体集会で始めに開会式が行われ、小幡克己・運営総括委員長(柳ヶ浦高等学校校長)による開会のことばの後、主催者を代表して吉田理事長が挨拶に立ち、「小山実行委員長、小幡運営総括委員長の下、大会参加者492名に運営関係者116名を加え、600名を超える素晴らしい大会を開くことができた。多様性の時代に活躍できる子供を育てるのは私立学校だと思っているので、私立学校がより発展するために、この大会が参加者一人一人にとって大切なものとなることを願っている」と語った。続いて、小山康直・九州地区私立中学高等学校協議会会長が実行委員長として挨拶し、「大会の中で他の参加者と話し合い、交流していけば、それを機に新しい学校づくりができていく。頑張りましょう」と参加者に呼びかけた。

続いて、来賓による祝辞では、公務で欠席の佐藤樹一郎知事に代わり尾野賢治副知事が知事のメッセージを代読し、「本県では教育県大分を目指して、公立学校と共に公教育を担う両輪として魅力ある私立学校づくりに取り組んでいる。県内の私立学校においても一丸となって私立学校振興プランを策定し、学力の向上、就職対策、スポーツ・文化活動の振興、不登校支援対策等に積極的に取り組み、成果を上げておられる。県としては引き続き大分県私学協会など関係団体と連携しながら私立学校の特色を活かした多様な教育を推進してまいりたい」と語った。

続いて、公務で欠席の足立信也大分市長に代わり清水久子副市長が祝辞を述べ、「全国私学教育研究集会の意義を評価するとともに、大分市内の名所や郷土料理を堪能してほしい」と歓迎の挨拶を行った。

その後、令和7年度全国私学教育研究集会神奈川大会の紹介を兼ねて、関東地区私立中学高等学校協議会の工藤誠一会長が挨拶し、「全国私学教育研究集会神奈川大会は、令和7年10月2日・3日に、『生徒とともに未来を拓く私学教育~近代私学発祥の地から新たな発信~』を研究目標に、神奈川県横浜市で開催する。本日の大分大会を糧として素晴らしい大会となるよう精いっぱい準備を進め、多くの方に参加していただきたい」と語った。

最後に井上倫明・副運営総括委員長(東九州龍谷高等学校校長)が閉式の辞を述べ、開会式を締めくくった。

その後の全体会では始めに、大分高等学校書道部が力強い書道パフォーマンスを、日本文理大学附属高等学校チアリーディング部がダイナミックな演技を披露した。

続いて、吉田会長の報告では、出生数の減少から日本の人口は2050年には約1億人まで減少する見込みで、15歳から64歳の生産年齢人口比率は約5割に低下すること、都道府県別出生数は平成21年から令和4年までの間に軒並み約30%減少していること、そうした状況の中で高等学校の全日制・定時制課程の生徒数は全体として減少傾向にあるが、通信制課程の生徒数は増加傾向にあり、特に私立の通信制課程の生徒数は平成12年からの20年間に約3倍に増加し、さまざまな課題が指摘されていることなどを紹介した。また、在留外国人が2022年末に過去最高を記録し、訪日外国人旅行者数も増加を続けているなどグローバル化も進展しており、デジタル化も進んでいるものの日本のデジタル競争力は世界で29位と低迷している。そのため、政府はデジタル人材育成を目指してGIGAスクール構想を進め、高校で「情報Ⅰ」を必修化し、DXハイスクール事業が実施されていることなどを説明した。更に令和7年度政府予算に対して中高連が文部科学省等に要望した内容(私立高等学校等経常費助成費補助金の拡充強化、私立中学・高等学校の就学支援金等の拡充強化、教育費減税の創設、ICT環境整備や施設の耐震化・高機能化等)等を説明するなど私立中学高等学校を取り巻く情勢を様々な角度から報告した。

続いて、平方所長の報告では、新学習指導要領では知識を記憶することに偏りがちな学習から主体的・対話的で深い学びに変わることを宣言しており、欧米諸国では先の見通せない状況の中でいち早く創造性を重視する教育に転換している。新学習指導要領にはじめて創造性という言葉が登場した。したがって、すべての教科において、豊かな創造性を養成しなくてはならなくなった。とその重要性を力説した上で、そのためには自由を尊重した校風が必要で、同時に多様性を受け入れる受容力、寛容性が必要で、最も大切なのは実行力を生み出す精神(学校としての精神と教員としての精神)だと指摘した。

また、21世紀型教育を更に一歩進めるには、プレ22世紀型教育が必要で、思考コードの作成が不可欠となる。そのほか共感的なコミュニケーションやCEFRのC1レベルの英語授業、PBL、STEAM教育、探究・グローバルプロジェクトが重要であること、アントレプレナーシップやエンジニアリング等を取り入れた「未来社会創造」に参加する教育を推進することの重要性を熱く語った。

全体会の最後には地元酒造メーカーで焼酎「いいちこ」など全国的人気ブランドを持つ下田雅彦・三和酒類株式会社取締役会長が「麦焼酎いいちこの挑戦と宝言葉」と題して記念講演を行った。後発のブランドがトップに立てたのは強みと弱みに向き合ってきたからであり、今や存在意義を問われる時代であり、下田会長の造語である「宝言葉」(人生、運、笑みに影響を与えるような特別な言葉、オリジナルな言葉など)が挑戦を鼓舞し、組織の風土、人を創ること、「宝言葉」に巡り合うために、「言葉の力」を知り、出合った瞬間を逃さず、大切な言葉と位置付ける感性を養うことで人生が豊かになると語った。

初日研修プログラム終了後には教育懇談会が開かれ、大分県の佐藤知事が駆け付け、全国からの研修会参加者を歓迎する旨の挨拶を行った。

大会2日目は、参加者が私学経営、教育課程、法人管理事務運営、生徒指導、進路指導の5部会に分かれて、パネル・ディスカッションや講演・ワークショップ、実践発表等を通じて、変化が激しく先の見通せない社会の中で個性や能力を輝かせる生徒の育成にどう挑んでいけばいいかなどを考えた。

このうち私学経営部会は「新しい時代の創造に向けて~子供たちの様々な個性や能力を大きく伸ばすために~」を研究目標に、300年以上続く有限会社糀屋本店代表取締役による糀の魅力等についての講演、また、学識経験者による「創造性2050 AIと共生する時代の創造性教育」と題した講演・ワークショップ、パネル・ディスカッションが行われた。

教育課程部会では、「新しい社会を生き抜く若者の育成~課題への挑戦を実現する開かれた私学教育~」を研究目標に、創造性を育む教育的アプローチなど2つの講演・ワークショップ、2つの実践発表を通してこれからの教育課程について考えた。

法人管理事務運営部会では「これからの私学教育を支える校務運営を考える」を研究目標に、働き方改革と教育活動の充実の両立など2つの講演、校務運営改革に関する実践発表、参加者同士の意見交換の場として研究協議が行われた。

生徒指導部会では「学校コミュニティの協力体制を構築して『自己解決力』を支援する生徒指導」を研究目標に、生徒の自己決定を支える環境づくりなど2つの講演と未来のネット社会を豊かに生きていくことをテーマにした講演・ワークショップが行われた。

進路指導部会では、「生徒の多様化に対応した進路指導のあり方」を研究目標に、これからの地域を意識した生徒へのキャリア意識の育成など2つの講演、2つの実践発表が行われた。