第4回初等中等教育段階における生成AI利活用検討会議
新井国立情報学研究所教授から教育への影響聞く
生成AIのファクトチェックの困難さを指摘
文部科学省は9月24日に第4回初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議(座長=石川正俊・東京理科大学学長)をオンラインで開催した。
2件のヒアリングが行われ、最初に国立情報学研究所情報社会相関研究系・新井紀子教授が生成AIの教育に及ぼす影響について話した。
新井氏は、初めに生成AIの出力で問題になっているハルシネーション(=事実と異なる情報を出力する現象)は本質的に解消できない、と述べた。それを前提とすると、出力を正確に解釈する高度な読解力とファクトチェックをするための高度技術が必要で、また生成AIが学習できるデータは基本的にネット上に無償で公開されている情報に限定され、特定の情報を学習しがちになる偏りが生じている、と説明。
ChatGPT―3・5以降の出力は高度になり、読解力がありファクトチェック技能が高く、専門性のある人が自らの専門分野を読む場合以外は、ほぼハルシネーションに気づけなくなっていると話し、従って教育で扱う場合も教員が気付けない場合がある、と述べた。
新井氏は、自らが開発したリーディングテストの結果に基づいて、児童生徒・教員は生成AIを使いこなせるかという問いを解説した。このテストで計る能力は国語科で意図する読解力とは区別して「シン読解力」と呼び、「知識や情報を伝達する目的で書かれた自己完結的な文書(初出の専門用語の定義が書かれているような文書)を自力で読み解く力」と定義している。すでに50万人以上が参加し、テストの結果で「シン読解力」が高かった児童生徒は自学自習力が高く、全般的に学力が高いという仮説を立てて、テスト結果を分析したところ、リーディングテストは学力テストなどと高い相関性があるとの結論を得た、と語った。
新井氏はこれまでのテスト結果の蓄積から、現状の児童生徒の「シン読解力」では生成AIのファクトチェックは極めて困難であり、教員が行うとしても多忙さに拍車をかけるだけで事実上不可能ではないかと述べた。
また、生成AIを用いた不正入試は発覚しづらいこと、生成AIのビジネスモデルはまだ見えておらず、無償で提供を続けるのは難しく、教育で活用する場合、課金分を各自治体の教育予算から支払うことに妥当性があるのかなど、生成AIが教育にもたらす課題も提起した。
続いて同検討会議の森田充委員(つくば市教育委員会教育長)が、つくば市での実践とAI時代の教師の重要性について話した。つくば市では生成AIの教育への導入に対して、使いこなすための力を意識的に育み、必要な資質能力の向上を図るという考え方をとっている。そのための方策として、各校の学校ICT教育推進委員の先生と連携し、授業案や活用法を考案し、モデル校で実践、成果と課題をクラウドで共有し、授業案を再考案し、全校で実施した。実践は事例集も作成し共有している、と説明。
また英語の授業では生成AIと即興で生徒が英会話をし、話す、聞く力を養っていること、生成AIは話すテーマや難易度などを生徒自身が選択できるメリットがあり、教員は会話を長く続けられるよう「もう一度言ってください」「簡単な英語で話してください」などのフレーズをまとめた「Magical Phrases」を作成して支援しているなどと語った。
森田委員はそうした実践から、AI時代に教員に求められる役割は、どんな問いを持たせて、どの場面でどのようにAIを活用するかという授業デザイン・カリキュラム・マネジメントと、自律的に学ぶ力を育む伴走支援者であることだと述べた。普段から探究的な学びの機会を増やし、疑問や気付きを大切にし、情報を活用することが重要だ、と述べた。
2人の報告の後の意見交換では、新井氏の生成AIの教育利用を論じる前にシン読解力をつける方が大切という意見に対して「ファクトチェックは、これから子供たちが生きる力として重要になる。負担になるものではない」「生成AIはアイデア出しには有効」など反論の意見が聞かれた。
また、同会議で審議中の「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の改訂に関し、「日本ではまだ大きく論じられていないが、AI使用で電力を大量に消費することによる環境負荷や、画像生成などについての課題の記載が必要」という意見も出された。