第23回教育データ利活用有職者会議
新しい学びの中のデジタルの役割など
3人の委員からヒアリング
文部科学省は7月10日に第23回教育データの利活用に関する有識者会議(座長=堀田龍也・東京学芸大学教職大学院教授)を対面とオンラインで開催した。
今回は3人の委員からヒアリングを行った。
奈須正裕委員(上智大学教授)は、学びにデータを活用するに当たり、今後の学びの在り方をどう考えていくか、新しい学びの中でのデジタルの役割という、大きな視点からの発表があった。
奈須委員は「今後は学力論の拡張と多様性への対応を意識することが重要」と述べた上で、現行の学習指導要領では、内容中心から資質・能力を基盤にしたものへと、学力論の大幅な拡張が図られた。新しい学力論ではカリキュラムや教育方法の在り方、その基底にある子供、学習、知識をどう捉えるかに抜本的な見直しと刷新が求められる、と指摘。また、幼児教育で主要となる、環境を整え、子供たち自らの意思と力で環境に関わり、自立的に学びを進める「環境を通して行う教育」の考え方を小学校以降でも採り入れることを提案。環境を通して行う教育では学習環境の量と質が学びを大きく左右し、一人一台端末、クラウドの活用は量的、質的に学びの飛躍的な向上をもたらす、と語った。
また教育DXで今後重要な論点となるのは、デジタルコンテンツの在り方で、現状では民間のコンテンツは、丸ごとそのまま使うしかないようになっている。これは、教師の省力化にはなるが、目の前の子供に即した現場の工夫や努力をそぎ、今後広がりが予想される学校教育のアウトソーシングに向けて議論が必要と述べた。
さらにデータの利活用を行いやすいものから行うことは、学力論の矮小化につながりかねないため、できるとことだけで終わらせないよう注意を促した。
次に平田郁美委員(群馬県教育委員会教育長)が、群馬県の教育データ利活用に関する取り組みを発表した。群馬県の教育DX推進は、県が主導し、県市町村のゆるやかな連携が特徴と話した。情報共有のために令和3年からICT教育推進協議会を設置。実務的な指導のためデジタル教育推進アドバイザーを任命、オブザーバーとして、文科省教育DX推進室室長補佐、群馬県DX推進監を置き、専門的な助言を受けている。
令和4年に教育DX推進センター設置事業を始め、県内5教育事務所にICT機器の運用管理・活用の知識・経験を有するコーディネーターを各1人配置。その後、教育DX推進リーダーを5教育事務所に各1人、推進アシスタントを中学校区を中心に全県で25人置いた。推進リーダーとアシスタントは公立小中学校を巡回し、県が作成した「ICTを推奨する教育DXリスト」に基づき校務のデジタル化、保護者との連絡手段の設定、遠隔学習に関する環境整備や機器操作などの直接的支援を行い、市町村や学校の教育DX化の自走を促している。これまでの取り組みから平田委員は、「市町村を見渡すことができる都道府県が市町村や学校の独自性を尊重しつつ、主導し、共通することと独自性のバランスが大切」と話した。
小﨑誠二委員(奈良教育大学准教授)は、平成6年5月に発足した奈良県域学校教育DX推進連携協議会の活動について話した。同協議会内には学びのDX、校務DXなど六つのワーキンググループ(WG)から成る戦略コア会議とDX担当者連絡会が置かれ、WGでの話し合いの議事録はサイト上で公開するオープンガバナンスを基本に、令和6年度は小学校の学びの履歴のID(身分証明)で高校受験の手続きができるようになったなどの成果を披露した。
3人の発表を聞いた委員からは、「民間のコンテンツは従前の教育観のままの内容で、それは現場の先生が求めているからだ。テストや受験という出口が変わらないのが問題」「向かうべきゴールは明確になっており、できることから始める取り組みが進んでいるが、システム構築やデータの標準化の面ではそれが現場の混乱を招いている。更に論点を絞ったプロジェクト化を提案したい」などの意見が出された。