甲南大学の取り組み

公開講座で「ケルン」の壺井代表取締役が講演

経済循環型販売システム「ツナグパン」の仕組み

甲南大学(兵庫県神戸市)は2023年11月16日、同大学ネットワークキャンパス東京事務所(東京都千代田区)で、公開講座として同大学ビジネスイノベーション研究所第38回研究会「スイーツなマーケティング論―パンの魅力、その可能性の追求:神戸の老舗ベーカリーの試み」を開催した。当日は会場に30人、オンラインで70人が参加した。  

今回は多くの組織で社会課題解決への貢献が必要となり、食料品業界でも健康・安全・安心志向や、環境負荷削減に基づく製品提案が求められている中、1946年創業の神戸の老舗ベーカリー「ケルン」の壷井豪代表取締役が、食品廃棄ロス削減と社会的弱者支援を同時に実現できる経済循環型の販売システム「ツナグパン」について解説した。  

ファシリテーターを務めた同大学ビジネスイノベーション研究所長で経営学部教授の西村順二氏は、世界の労働人口の75%がミレニアル世代・Z世代になり、日本でも、これらの世代が労働力の50%を超える「2025年問題」について、社会価値の訴求に敏感な若者が主流派となり、新しい価値観が定着する中で、企業は社会価値を示し、社会目標を達成した上で、経済価値、経営目標を実現することが求められると説明。「こうしたパーパス経営にいち早く取り組み、信頼を得て事業を展開している壷井代表取締役に講師を依頼した」と述べた。

壷井氏は大阪阿倍野辻調理師専門学校を卒業後、大阪や京都の老舗ベーカリーや日本パン技術研究所、ドイツはバイロイト市にあるベッカライ&コンディトライのマイスターの下、技術と文化を学び、2013年9月に㈱ケルン3代目代表取締役に就任。神戸とのつながりを大切に「知育・食育・教育」を軸としてイベントの企画運営、中学、高校、大学等の教育機関での講演、国内外の製菓製パン専門学校での技術講師の仕事も請け負っている。2021年12月にはツナグパンをケルン全店でスタートさせた。  

ツナグパンは売れ残ったパンの中から食中毒リスクが低く傷みにくいパンを10~20個詰め合わせて製造翌日に定価の約6割の価格で販売し、購入者にケルン全店で使える木製の「エシカルコイン」(100円相当)をプレゼントするとともに、支援先の福祉施設を介して同額のエシカルコインを支援対象者に贈る仕組みになっている。  

購入者も支援対象者もエシカルコインを共有することで区別が無くなり、ケルン全店でエシカルコインによるパンの購入を可能にしている。

提携支援先施設は神戸市の母子生活支援施設や児童養護施設などで、現在、3~18歳の福祉施設利用者約350人がエシカルコインを使用。2021年12月20日から2023年10月31日の累計は1万4241袋の販売、142万4100エシカルコインの送付、14万2410個以上のパンの廃棄ロスの回避となった。  

エシカルコインは手に持つことができ、取り扱い説明書が不要で子供から高齢者、視覚や聴覚に障害のある人も利用できる。福祉施設利用者が来店して購入するため、地域社会とのつながりを強め、社会的弱者の自立支援になる。  

講演で壷井代表取締役は「使用方法が限定されているエシカルコインだからこそ、今後、使用目的を自由に設定し、通貨価値を高めることができる」と述べた。  

また、「福祉施設の子供たちが将来的にケルンの顧客になり得るため、未来のファンづくりにもつながっている」とし、「ツナグパンは『売れ残ったパンを安く購入したい』『自身が得しながら何かに貢献したい』という心理を共に満たすことで、食品廃棄ロス削減と社会的弱者支援のサイクルを持続かつ加速させることができる」との考えを示した。