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記事2023年8月13日 2621号 (2面) 
障害のある学生の修学支援検討会
障害持つ大学院生が合理的配慮に関し情報提供
京産大などの大学が取り組み報告

文部科学省の「障害のある学生の修学支援に関する検討会」(座長=竹田一則・筑波大学教授)は8月3日、第4回検討会をオンラインで開催した。


 まず、2人の障害当事者の学生から大学・大学院での合理的配慮に関する情報提供があった。


京都大学大学院で学ぶ油田優衣さんは脊髄性筋萎縮症U型で、着替え、トイレなど日常生活動作にほぼ全て介助が必要で、授業中の小リポートなどは、支援ルームの貸し出し品のiPadでフリック入力し、その場でモバイルプリンターにより印刷し提出する。紙の本をめくるのが難しいので図書館でデータ化を依頼。学内では、アルバイトの学生サポーターがテキストをめくる、飲み物を飲むなどの介助を行っている。学生生活は合理的配慮だけでは足りないので、授業と授業の間の移動などは、大学支援室の協力を得て、既存の京都市の移動支援サービスが使えるようになり、ヘルパーがスポット派遣されている。プライベートと大学生活をはっきりと分けることは難しいが、行政サービスが学内でも使えるようになり、生活の自由度は高まった、と油田さんは話した。


続いて筑波大学大学院の視空間認知に困難のある学生が発表した。字の読み書きに時間がかかるのが最大の困難で、大学では配布資料の読み上げデータの提供を受け、提出物は全てパソコン入力で可能になっている。


筑波大学では障害種別ごとに支援グループがあり、コーディネーターに依頼し、チューターによるノート取りなどの配慮を受けている。大学と大学院受験時は、パソコンでの音声読み上げの配慮が通りにくいことや、私立大学は大学ごとに申請書類が異なることに困難さがあり、また大学側は障害者に適した試験の形式や必要な配慮を全て分かっているわけではないと課題を指摘した。


次に障害学生に合理的配慮の提供を積極的に進める京都産業大学と筑波大学から情報提供があった。京都産業大学は、以前は障害学生への対応で、ボランティア活動室を設置し、障害学生の支援も行っていたが、障害を持つ学生の入学が増え、今までの対応では難しくなり支援の組織化のため教職員研修会などで全学的な対応や合理的配慮への理解を求めた。2016年に障害学生教育支援センターを立ち上げ、17年には教職員対応ガイドラインを制定した。


支援を必要とする学生は増加、多様化したが、スタッフの数をすぐに増やせないので、役割を見直し、事務スタッフと専門スタッフの境を曖昧にして、全体で支援するようにした。課題としてセンター内のミーティングを定例化、障害学生との面談要領を作成、学部との連携フローを設け、業務の可視化、共有を図っているが、それぞれの内容と連携がなく未整理の状況だ、とした。


次に筑波大学のアクセシビリティ支援チームでスーパーバイザーを務める大村美保助教が障害学生支援部門の持つべきキャンパスソーシャルワークの機能について報告した。木村助教は、キャンパスソーシャルワークは、修学を含む生活を、障害学生が社会資源を活用してコントロールするのを支えるものだと説明。障害学生の支援は短期的な問題解決だけでなく、総合的、中長期的なプロセスを意識した対応が必要で、支援部署や担当者は、学生との対話が最も重要、学生自身の自己決定を尊重する態度が必要で、地域資源を有効に連携させ、既存の資源では足りない部分は開発することもソーシャルワークには重要だ、と話した。委員との質疑応答では「相談室に配置されているカウンセラーとソーシャルワーカーとの連携はどう考えたらよいのか」との質問があった。木村助教は、「カウンセラーを配置する大学は多いが、ソーシャルワーカーは大学の中では認知度が低く育成が進んでいないので、職務や技能の違いを知る必要がある。カウンセラーは感情や心理の生活への影響の知見が深く、心理テストを行うこともある。一方、ソーシャルワーカーは社会資源の開発や調整などの知識や技術を持っている」と話した。


会議では同検討会の「第三次まとめ」の骨子案が示され、委員が了承。これに沿って原案が作成されることになった。

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