こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2022年8月3日号二ュース >> VIEW

記事2022年8月3日 2586号 (2面) 
令和4年度第2回読書活動推進会議開催
4人の専門家が読書活動推進策発表
“読書は非認知能力、リテラシー 双方にポジティブな影響がある”

 文部科学省の第2回子供の読書活動推進に関する有識者会議(座長=秋田喜代美・学習院大学教授)が7月26日、オンラインで開催された。4人の専門家が子供の読書の実態や環境整備、読書活動の推進策などについて発表した。


 佐藤賢輔・東京大学大学院発達保育実践政策学センター特任助教はデジタルメディア時代の子供と絵本・本との関わりについて話した。その中で2021年7月に行われた幼児の読書とデジタルメディア利用に関する保護者調査(1596人回答)によると、家庭での1日の読書時間が10分以下の子供は全体の過半数を占め、1日のスクリーンを視聴する時間は平均で120分を超える。読書とスクリーン視聴の、非認知能力(コミュニケーション能力など数値化することが難しい内面的なスキル)とリテラシー(かな/カナの読み方)との関連を分析したところ、読書は非認知能力、リテラシーの双方にポジティブな影響があり、スクリーン視聴はリテラシーに若干のネガティブな影響が見られたこと、紙とデジタルの絵本を読む比較実験では、紙の絵本の方が集中しやすかったが、内容の理解は、デジタルは紙の本に劣らなかった、と説明。デジタル絵本は障害者や多言語対応など豊富なアクセシビリティ機能があるというメリットをもつと評価した。


 佐藤氏は、「紙とデジタルのそれぞれの特徴を生かし、楽しく読書ができるように、本に親しめる環境の構築、子供にとって魅力的な電子書籍コンテンツとプラットフォームの整備などが重要」などと語った。


 続いて同会議の島弘委員(日本図書館協会児童青少年委員会委員長)は公立図書館での読書活動の支援事例を報告した。


 コロナ禍で休館を余儀なくされた公立図書館では、図書館作成の紙芝居などの動画配信や録画のお話会など、独自の読書活動が行われたことを紹介。交付金制度を利用して電子書籍を導入する図書館も増加したと報告。ICTの時代の読書として、乳幼児期には紙媒体で読み、年齢と共に少しずつデジタル媒体を加えていくことを提案し、電子書籍は子供の発達に沿って提供していくことが大切だと述べた。


 野口武悟委員(専修大学文学部教授)は読書環境・読書活動の現状に関して、特別な支援が必要な子供への対応を中心に話した。


 野口氏は、特別支援学級を利用する児童生徒の増加に伴い、小・中・高校でもバリアフリー資料の整備が求められているが、小・中・高校の学校図書館では、ICTを活用した録音図書、マルチメディアデイジー図書(読むことが困難な人々のためのアクセシブルな電子書籍)などの整備率はまだ非常に低いと報告。


 特別支援学校の図書館の設置率は、教室不足等から100%に達していない状況で、図書館の予算は年間19・4万円にとどまり、小学校の予算額52・6万円と比較すると大幅に少ないこと、予算0円という特別支援学校が8・2%もあること、資料総数は4928冊で、小学校10335冊と比較しても大幅に少なく、視覚障害特別支援学校12338冊、知的障害特別支援学校2815冊と障害種の違いで資料数が異なることにも課題があると指摘。


 今後、ICTを活用した既存のバリアフリー資料の共有化の仕組みを構築することが望まれ、著作権法の改正により、こうした共有化が可能となったことを周知させることも重要だ、と語った。


 白井哲委員(特定非営営利活動法人ブックスタート代表)は、本を開く体験と絵本を贈る「ブックスタート」の活動を紹介した。イギリス発祥のブックスタートは、日本では2000年に紹介され、現在は全国の市区町村の約63%が実施している。


 自治体と協働して0歳児健診時などの機会に絵本と体験をセットでプレゼントする。活動は本に親しむきっかけづくり、図書館の利用促進といった読書支援の要素をもつという。外国語を母語とする親子のためには多言語版の資料を用意し、ブックスタートの活動を分かりやすく紹介。障害のある赤ちゃん・保護者には点字、音声デイジー版の説明があり、点字付き触る絵本も用意されている、という。


 続いて行われた委員等による意見交換では、電子メディアが視力や脳に与える影響を懸念する意見が出された。


 その意見に佐藤氏は、「電子メディアの視聴は、視力には確実に影響を与えるだろうが、学習能力に不可逆的な影響を与えるとは思えない。何十年も前からテレビを長時間見る子供は既にいるが、大人になったときに、大きな問題は起きていない。電子メディアの使い方、提供の仕方などの研究は、これから検討していきたい」と答えた。


第2回子供の読書活動推進有識者会議

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞