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記事2022年7月13日 2584号 (1面) 
質保証等にこれまで以上に関与の姿勢
第8回通信制高校会議を開催
文部科学省「論点整理案」を提示
教員数の基準等見直しへ

 文部科学省の「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議(座長=荒瀬克己・独立行政法人教職員支援機構理事長)は6月24日、オンラインで第8回会議を開催した。審議まとめのたたき台である「論点整理案」が事務局(文科省)から示され、委員による意見交換が2時間にわたり行われた。「論点整理案」では、通信制課程においても高校学習指導要領を着実に実施すること、全日制・定時制課程にも増して生徒一人一人の実態に応じた伴走・支援や、関係法令等の順守徹底による質保証、所轄庁の指導力の向上等が必要だと指摘。同省としては、関係法令やガイドラインで定められた内容が実施できているか各学校が確認できて、また所轄庁の指導・監督、点検調査の円滑化に寄与する「自己点検チェックシート(仮称)」の作成、各都道府県に設置されているサテライト施設の情報(施設名、収容定員、生徒数、教職員数、校舎に係る情報、学校評価の実施状況等)など各学校に関する情報を一覧で確認できるウェブサイトの構築など、通信制課程の質保証等にこれまで以上に関与していく姿勢を強調している。


 通信制高校は、自立して自学自習する勤労青少年を主たる対象として設けられた制度だが、現在は不登校経験者や特別な支援を必要とする生徒が全体の約60〜70%を占めるなど制度の前提が大きく変化している。


 昭和から平成初頭にかけて3%前後だった高校生全体に占める通信制課程在学者の割合は、現在7%近くまで拡大、多様な生徒の学びの場である通信制高校の役割、存在感が大きくなってきている。しかしそうした中にあって一部の広域通信制高校では違法・不適切な学校運営や教育活動が行われている事例が見られ、その監督に当たる所轄庁(都道府県や特定市町村)の職員の多くが教職経験・教育行政経験がなく、専門的見地からの監督が実質的に困難であり、広域通信制高校のサテライト施設は所轄庁の圏域を超えて教育活動を展開しているため認可した自治体だけでは監督が物理的に困難といった深刻な課題を抱えている。


 このように行政の目が届きにくい状況の中で関係法令を都合よく解釈したり、関係法令に疎いなどから、過去、しばしば問題点が指摘され、警察による捜査が行われるといった事例も生まれている。特に前述の理由から指導・監督が難しい広域通信制課程の質保証の必要性が指摘されており、今回の「論点整理案」の中核部分に当たる「考えられる対応策」の章では、(1)指導方法の在り方、(2)指導体制の在り方、(3)質保証の方策(通信教育連携協力施設の在り方を含む)、(4)所轄庁の在り方に関して、具体的な改善策を挙げて、取り組む重要性を指摘している。


 このうち、(1)指導方法の在り方では、1単位当たり、面接指導と添削課題(これに類するものを含む)に要する学習時間の総計が35単位時間以上となること、添削課題に関しては、思考力・判断力・表現力を育む観点からも一定量記述型を取り入れること、試験に関しても同様に一定量記述型を取り入れること、年間にわたり計画的、体系的な指導を行うこと、各教科・科目の面接指導等時間数を短縮できるメディア利用学習に関して、利用態様について例えば少人数かつ同時双方向型で行うなど、個別最適で協働的な学びを実現する形で利用を推奨していくことを提言している。


 (2)指導体制の在り方では、教員数の定めが、平成16年に、それまでの生徒数に応じて教員数を算出する規程から大綱化されて、「実施校における通信制の課程に係る副校長、教頭、主幹教諭、指導教諭及び教諭の数は、5人以上とし、かつ、教育上支障がないものとする」とされた。


 しかし大綱化後に設置された私立の通信制高校では、大綱化前の規程を満たさない学校が58%に上るとの研究結果もあり、生徒一人一人に寄り添った伴走・支援がより求められている中にあって、設置者の判断に委ねるだけでは十分な教員配置は実現できないことから、生徒数当たりの教諭等の数を設定していくこと、また通信制高校は学校機能に加えて、社会的機能や福祉的機能を果たしていくことが重要なため養護教諭やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど専門・支援スタッフの配置の徹底を求めていく。


 特に、狭域通信制では特別な支援を必要とする生徒、心療内科等に通院歴のある生徒の比率が広域通信制と比べて高く、社会的、福祉的支援が重要だ。


 (3)質保証の方策では、自己点検チェックシートの作成・活用、サテライト施設等を含め通信制課程の情報を一覧で確認できるウェブサイトの構築等を求めている。


 (4)所轄庁の在り方では、自己点検チェックシートの導入・活用で行政による点検調査をより容易かつ実効的に実施可能とすること、文科省が通信制高校に関する専門家(通信制高校の管理職経験者や教育行政経験者)等をアドバイザーとして所轄庁に派遣するなど点検体制の充実に向けた方策を講じること、所轄庁間の連携協力をより深化させる方策の検討、当該方策をガイドラインに規定することを求めている。


 こうした論点整理案に対して委員からは、教員数の見直しや高校教育としてふさわしい学習量の確保に関して、大幅な変更が予想され対応を懸念する意見も聞かれたが、添削を指導するためには適正な教員数が必要だとの意見や、新たに必要となる教員数の中にはスクールソーシャルワーカーなどの専門家も含めてほしい、といった意見もあり、全体としては現行の5人以上という基準の見直しは必要との意見に収れんしそうだ。


 別表の注釈にある通り、令和2年度現在、広域通信制高校のうち収容定員が1万人以上の学校が6校、5千人以上1万人未満の学校が8校、1千人以上5千人未満の学校が44校、1千人未満の学校が51校となっている。


 また第8回会議では必要なスタッフの確保に関して、公立高校では財政措置が行われるが、私立高校は必死にやりくりしているとの意見も出され、荒瀬座長は「本当に真剣に考えていかなきゃいけないなと思った」と語っている。また「メディアを利用した学習」との表現に関してもう少し分かりやすく書いた方がよい、とする意見が聞かれた。文科省は改善の意向。教員数に関しては、委員から通信制高校のST比はどのくらいかとの質問があり、文科省も資料を整理して新たな教員数に関する議論に供したいと語っている。


 同会議の第9回は7月15日に開催予定。

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