文部科学省の「高等教育の修学支援新制度の在り方検討会議」(座長=福原紀彦・日本私立学校振興・共済事業団理事長)は令和4年12月12日、オンラインで第5回会議を開き、「高等教育の修学支援新制度の見直しについての報告案」を審議した。2日後の14日に同省から「報告」として公表された。
報告は全体で14ページ。所期の目的である機関要件の見直し(厳格化)を図りつつも、一定程度の定員割れがあったとしても質の高い教育等を行う大学等は対象校となるよう一定の配慮が示され、また課題となっていた中間所得層への支援の拡大については多子世帯と理学・工学・農学系学部の学生等への支援の拡大が提言された。
このうち機関要件に関しては、(1)経常収支差額や外部負債の超過に関する要件と、(2)収容定員に関する要件とが切り離され、(1)(2)のいずれかに該当する場合は、対象機関とはしない、とされた。
(1)収支差額や外部負債の超過については、(1)直前3年度全ての収支計算書の「経常収支差額」がマイナスであること、(2)直前年度の貸借対照表の「運用資産―外部負債」がマイナスであること。(2)収容定員に関しては、大学・短大・高専の場合、直近3年度全ての収容定員充足率が8割未満であること。
ただし、直近の収容定員充足率が5割未満に該当しない場合であって、直近の進学・就職率が9割を超える場合は、確認取消を猶予する。専門学校の場合は、直近3年度全ての収容定員充足率が5割未満であること。ただし、地域の経済社会にとって重要な専門人材の育成に貢献していると設置認可権者の都道府県知事等が認める(※国として一定の判断基準を示す)場合は確認取消を猶予する。
また、教育未来創造会議が第一次提言(令和4年5月10日)で求めた「総合知」育成の取り組み(入試科目の見直し、入学後の文理横断型の教育、複線的・多面的な学び、全学的なデータサイエンス教育等)を審査に反映することについては、多種多様な目的を持つ大学等に、これらの取り組みを必須要件として求めるのは妥当ではないとして、機関要件の確認申請書の様式に新たに記載事項欄を追加し、それらの取り組みを実施している場合は記載することとするとした。
中間所得層への支援の拡大については、負担軽減の必要性の高い多子世帯とし、デジタルやグリーンなど成長分野の振興の観点からは理学・工学・農学系の学部で学ぶ学生(以下、理学等)とする。
中間所得層への支援に向け、現在の3段階の支援区分に加えて、新たに4番目の支援区分を設ける。4番目の支援区分の具体的な所得基準や支給額については今後財源と併せて政府で検討する。
ちなみに高等学校等就学支援金における私立高校等の加算の年収上限は約600万円(世帯構成による)。また現在、新制度の第3区分(年収目安380万円まで)は私大自宅外通学の場合で満額の3分の1となっており、第4区分を設ける場合、満額の4分の1(私大自宅外の場合)と想定すると40・2万円となる。
今回の提言では、支援対象とする多子世帯とは、学生本人を含め扶養される子供が3人以上いること。
また、理学等の範囲については、文理融合系等も含めて、実質的に理学等と判断できる学部等も対象とする。
具体的な理学等の特定方法については大学・短期大学・高等専門学校の場合は学部または学科を単位とし、学位の分野が「理学」「工学」「農学」の学部・学科を対象とする。学際分野については設置認可の際の審査情報も活用し学位の分野に「理学」「工学」「農学」が含まれていれば対象とする。専門学校の場合は学科を単位とし、その分野が「工業関係」「農業関係」の学科を対象とする。
今後の検討課題の一つとしているのが機関要件についてで、急速な少子化の進展のなか、定員充足率だけで判断すれば、特に地方では高等教育の選択肢を狭めかねないとの議論もあり、状況に応じた見直しが望ましいとしている。また、多子世帯へは所得制限を設けることなく支援を進める声が上がっているが、財源の確保が必要となるため、政府での検討を求めている。