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記事2022年11月13日 2595号 (1面) 
中教審大学分科会第5回大学振興部会
前回に続き「出口の質保証」を議論
卒論やゼミなど焦点に

 中央教育審議会大学分科会の第5回大学振興部会(部会長=永田恭介・筑波大学学長)が10月28日、オンラインで開かれた。この日は、前回(9月14日)に続いて「出口の質保証」に関する審議を進めたが、その中で京都橘大学の西野毅朗・経営学部経営学科(教育開発・学習支援室)専任講師からゼミナール教育や卒業研究・論文の教育実態にについてヒアリングを行った。


 初めに事務局(文部科学省)から、(1)前回における主な意見の概要、(2)学生の学修時間、卒業論文等に関する関連データ等が紹介された。前回の部会では、成績評価への信頼性の確保や学修成果の把握・可視化、ST比の改善等による教育体制の充実、「密度の濃い主体的な学修」を促す観点からの工夫等、卒業論文・卒業研究、ゼミ等の必要性、産業界との連携・協力等が議論されている。


 また(2)に関しては、事務局から全国学生調査(第2回試行実施)の結果が報告された。この調査は令和6年度の本格実施を前に試行実施を重ねているもので、第2回試行実施は大学2年生と4年生以上、短期大学の最終学年を対象に、今年2月に実施、約12万人の学生から有効回答を得た。その調査結果で分かった学修時間に関する傾向では、大学2年生は、授業への出席時間が長い一方、予習・復習・課題など授業に関する学修が短く、履修単位の上限設定(キャップ制)が十分機能していないため、学生が過剰な単位登録をして結果として密度の濃い学修が十分に行われていないこと、4年生以上(最終学年)の学生は大学2年生に比べ授業への出席時間、授業に関する学修時間ともに短い傾向にあり、卒業論文等に多くの時間を費やしている学生がいる一方で、これらにほとんど取り組んでおらず、実質的に学修時間が極めて短い学生も一定数いることが分かった。


 ただし学修時間や卒業論文等に対する取り組み状況は分野によって異なり、資格試験の勉強も影響を与えていることなどが分かった。


 一方、西野専任講師は「ゼミナール教育・卒業論文等から考える『出口の質保証』」と題して報告した。報告の根拠としたのは、2019年78月に実施した全国の人文・社会科学領域等の学科責任者を対象とした調査(有効回答数694件)と、2020年3月に実施の、全国の人文・社会科学領域等の学部4年次生を対象にした調査(有効回答数1030件)。


 その結果、汎用的技能や態度の育成に効果的と期待されている専門ゼミが必ずしもそうした目標を掲げておらず、かつ学生の成長実感も低く、教員側は学士課程教育の最終成果物にするという意義を認識しているが、学生は通過儀礼という認識で、卒業研究・論文の質は、研究論文として適切な中身に達していないものが過半数と多く、評価基準が曖昧で、専門ゼミの在り方に大学や学部の教育方針が影響を与えることは少ないことなどを問題点と整理した。


 その上で目的・目標の再確認、評価方法の見直し・評価基準の作成と活用、カリキュラムの見直し(ライティング教育や研究教育の充実、PBLやインターンシップとの連携等)、公開性の向上、統一性と多様性の両立(教員間で議論し組織的な統一を図りつつ、教育や学修の多様性にも配慮する)を課題として指摘している。


 こうした西野氏の発表に委員からは、「卒論はある程度優秀な人が書き、他の人は書かないということについてどう思うか」との質問があり、西野氏は卒論は学生を限ってもいいが、一方でゼミの評価をどうするかが課題と答えた。また委員から「卒論でもゼミ論でも発表会は非常に効果的」との報告も聞かれた。 最後に行われた議論では産業界出身の委員から「卒論、ゼミの重要性をしっかり議論してほしい。評価も明確に社会に伝わる評価だとありがたい」といった意見や、「一人で行う卒論、チームで進めるPBLなど各学年でいろいろな学びの仕掛けが必要」「分野の違いを見ていく必要ある。大学間の相違も相当ある」「総合的思考力に評価を与える評価基準が明確になることが大事」といった意見などが聞かれた。

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