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記事2021年7月23日 2551号 (1面) 
特定分野に特異な才能のある児童生徒指導・支援在り方等会議
才能の見いだし方や指導の在り方等検討
児童生徒が抱える困難解消がカギ

 「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」(岩永雅也座長=放送大学長)が文部科学省に新たに設けられ、7月14日、初会合がWEB会議方式で開かれた。学校外ではスポーツや音楽等の分野で特異な才能を伸長するシステムが既に作られているが、小・中・高校や特別支援学校等の学校教育では特異な才能をどう定義し、見いだし、その能力を伸長していくかという議論はこれまで十分に行われてこなかった。そこで専門家を集め、(1)特定分野に特異な才能のある児童生徒の対象となる分野や才能の見いだし方、(2)特定分野に特異な才能のある児童生徒が学校において抱える困難とその支援方策等を検討するもの。


 初会合でははじめに文科省から検討課題等が説明された。検討課題は前出の(1)と(2)に加え、(3)特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する教育課程や指導の在り方、(4)大学や民間団体等の学校外の外部機関との連携による学校での指導・支援の在り方、の計4点。


 続いて委員からのヒアリングが行われ、岩永座長が専門とする教育社会学の見地から概念を整理した「才能教育の諸類型〜日本型才能教育を巡る検討資料〜」を発表。


 その中で、最先進国・米国の才能児(者)への教育には「早修」(=既存の教育プログラムの早期履修または速修)、「拡充」(=高能力者に対する通常の範囲を超えたより広く深い内容の教育)、「2E」(=学習障害や自閉症スペクトラム障害等の発達障害を持ちながら特定領域での高い才能も併せ持つ二重に例外的な児童生徒への教育)があり、それぞれのメリットと課題等を説明した。


 その後、発達心理学が専門の松村暢隆委員(関西大学名誉教授)が「才能教育の在り方に関する論点の共通認識のための基盤(私見)」と題して、「2E」や「GDF」(=不協和感のある才能児)への学習・社会情緒的問題の認識と支援の必要性等を指摘。特別な指導・支援が必要・適当な才能児集団は発達障害児と同じ位の比率(全体の数%以上)でいる可能性があるものの、才能教育という新たな制度は社会的合意形成を得にくいため、才能教育の位置付けを特別支援教育や生徒指導の在り方とも関連させて検討すること、学習・社会情緒的支援ニーズの高い才能(2E、GDF)児の困っている状況を打開することが重要で、通常学級での個別最適な学び(=個性化教育:指導の個性化・学習の個性化)と連携することが必要、などと語った。


 2人の意見発表を受けて11人の委員による意見交換が行われた。


 委員からは、「特異な才能を持った子の話にも聞こえるが、もっと広く子供たちのニーズに応じる一環として捉えるべきだ。実施は大学や民間を中心にして、学校はそれを支援する方が現実的だ」(市川伸一・帝京大学中学校・高等学校校長補佐)、「30年くらい発達障害の診断、早期教育をしているが、一部の人だけが取り出されれば全体として変な雰囲気になる。まず文化の問題から手を付けないと解決できない。通常のクラスの中でいかに多様な子が学べるか、特別な才能のある子に特別な教育をどう保障するか、2段構えでしっかり議論する場にしてほしい」(本田秀夫・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)、「嫉妬の目は厳しい。社会に賛同されるような見え方が必要。リソースの獲得は地方自治体任せでは難しい。民間の活用が必要」(今村久美・認定特定非営利活動法人カタリバ代表理事)、「専門は機械工学。STEAM教育に取り組んでいる。才能の発揮できる機会、場づくりが必要。大学ももう少し開放してもいいと思う。オンライン教育などで教育プログラムは提供できると思う。メンタルな部分は教育プログラム外でサポートが大事」(大島まり・東京大学大学院情報学環・東京大学生産技術研究所教授)、「日本は多様性が少なく目立つ。米国のように分母を広げて考えるべきだ。ある種の自尊感情につながればいい。私自身も国際数学オリンピックという場があったことがすごくありがたかった。いろいろなコンテスト、投稿する場が乱立してもいい。他の人の考えを知ることができるのはいい」(中島さち子・株式会社steAm代表取締役)、「子供のニーズはさまざま。才能が複数の領域にまたがることもある。環境とのマッチングが大事で、環境がたくさんあり、いろいろ試せるのがいい。始まりは子供のニーズ、何に困っているかだ。ゴールは成果が上がった、ではなく、ニーズが解消されたかが大事。今後はナーバスな議論をしていくことになる」(福本理恵・株式会社SPACE代表取締役)などの意見が聞かれた。


 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導については今年1月26日の文科省中央教育審議会答申では、知的好奇心を高める発展的な学習の充実や、大学や民間団体等が実施する学校外での学びへ児童生徒をつないでいくこと、国内の学校での指導・支援に関して、遠隔・オンライン教育も活用した実証的な研究を行い、さらなる検討・分析を実施する必要性を指摘。


 また、政府の「科学技術・イノベーション基本計画」(今年3月26日閣議決定)や「総合イノベーション戦略2021」(今年6月18日閣議決定)、「規制改革実施計画」(昨年7月17日閣議決定)でも同趣旨の実施を求めている。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(略称:CSTI)は、この問題の検討の場を設置、中教審の委員の参画も得て、今年度から調査・検討を行うことにしており、その結果を教育政策等へフィードバックする予定。文科省ではCSTIと連携してこの問題の検討を進めていく方針。


 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議の第2回会議は8月26日に開催の予定。

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