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記事2021年11月3日 2560号 (1面) 
私大連盟ガバナンス改革で再度意見書提出
評議員会への権限の集中は新たな主導権争い誘発しかねない
意思決定の速度鈍化も

 一般社団法人日本私立大学連盟(会長=田中愛治・早稲田大学総長)は10月5日付で、年内の取りまとめに向け急ピッチで審議を進めている文科省の「学校法人ガバナンス改革会議」に対して、改めて意見書を提出、同18日には文科省の義本博司・事務次官に面会し、意見書の趣旨を説明した。


 同連盟は9月9日に開かれた同改革会議の第5回会議の中で同連盟の村田治副会長(関西学院大学学長)が意見を説明したが、その際、訴えた「学校法人のガバナンスの何が問題で、問題を解決するために取り組むべき課題は何かを明確化し、学校法人関係者の共通認識の深化によって実質的なガバナンス改革を推進していくことが重要だ」との意見表明に対して、同改革会議の委員の反応は一斉に反発。同時に村田副会長が問題視した同改革会議の「社会福祉法人のガバナンス上の問題点を同一に論じ、ガバナンスに係る制度を揃える」との姿勢に変化はなかった。そもそも意見表明の時間も1団体5分に限られるなど私立学校の実情を聴取し、議論に役立てるという姿勢がほとんど見られないヒアリングとなった。


  2度目の意見書は別掲の通りだが、その中では、初めに同改革会議の議論は「私立大学の健全な経営と教育研究の発展を阻害し、建学の精神を瓦解させる重大な課題を有していると指摘。同改革会議で議論の核となっている『学外者のみで構成される評議員会が、学校法人の重要事項の議決と理事及び監事の選解任をできる』という権限の集中は、法人をめぐる新たな主導権争いを誘発しかねない、学校法人ガバナンスの本質を問う課題」とし、私立学校法改正に向けては私立大学の真に健全なガバナンス体制の構築が図られるよう強く要望している。


 具体的には、(1)中期的検証と展望の繰り返しによって新境地を切り開くような議論を幅広く行うには、建学の精神に基づく教育体系の理解者や、多様な教育プログラム、文理融合やカリキュラム間の有機的連携、大学間連携、強みとする研究分野などの理解者と、必ずしもそうした専門知識を持たない学外者とでバランスよく評議員会を構成することが不可欠だと指摘。ガバナンスの形式論を重視するあまり、一律に学外者のみで評議員会を構成すると、長期的視野により責任を持って教育研究の支援・運営に関する経営判断の是非を議論することは困難だとし、また大学の教育研究を総合的に深く理解し、かつ経営監督能力を持ち合わせた適任者が見つからないリスクから、結果的に教育研究の質の低下を招く私立大学が出てくる可能性もある、としている。


 そのため同連盟は、「評議員会は、学外者を一定割合以上確保した上で教職員や設立関係者などの構成により、私立大学の公共性と健全な発達に資する仕組みとする。また、この構成のバランスは学校法人の特徴や規模等により一律に規定しない」との提案をしている。


 (2)「攻めのガバナンス」においては教学と経営が一体となりスピード感ある的確な意思決定を行うことで、大胆な大学改革を進めていくことが重要、とした上で、前述の(1)の課題を改善しても評議員会に意思決定・執行の権限を集中させすぎると、必ずしも現場感覚を有さない学外者の判断を待ち、教育・研究現場の理解、同調を図ることは相当なエネルギーを要することが容易に想像され、迅速な大学改革の流れに完全に逆行する、と指摘。評議員会については理事長・理事の日常業務や学長の教員人事、学位授与等の教学運営に関する事項までに踏み込んで議決を行うべきではない、としている。また意見書では意思決定の内容が適切であることが大前提で、その点はガバナンス・コードへの遵守状況の公表、ステークホルダーへの説明責任を果たすことで確保できるとし、同連盟・加盟校は、ガバナンス・コードのさらなる浸透とコンプライ・オア・エクスプレインの実行に努めるとしている。


  その上で、同連盟は、評議員会の議決を要する事項は、法人としての組織・運営の基本的なあり方や業務の基本方針に関する事項に絞るか否かも含めて法律で一律に規定せず、学校法人の自律性に基づき決定できる仕組みとすることを提案している。


 (3)ガバナンス改革の眼目でもある「権力者の作為的暴走」を抑制するための機能の必要性については、学校法人が自浄作用を働かせていくべき点で同意するとしながらも、特に不適切なリーダーを解任するというガバナンスの発揮は、あくまで業務に対する牽制・監督を目的にされる必要があること、それを超えて学内の対立構造が持ち込まれると、評議員会が主導権争いを誘発する紛争の場となるおそれがあると指摘している。その上で、同連盟は理事の解任手続は、監事と評議員会の連携により、法令違反等の事由や職務執行状況に関する監事の意見に基づいて、評議員会と異なる第三者などの委員会を活用する仕組みを講じることが適切であり、ガバナンスの正当性が高まると考える、との提案を行っている。このほか私大連盟は意見書の中で加盟校における攻めと守りのガバナンス向上の取り組み例を紹介している。


意見書を提出した田中会長(右)と義本事務次官(左)

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