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記事2021年1月13日 2532号 (3面) 
第11回 幼児教育実践学会開催
コロナ禍の幼児教育の質の向上について岡健・大妻女子大教授が講演
パネル討議では保育現場から実践発表

全日本私立幼稚園幼児教育研究機構は令和2年12月20日、第11回幼児教育実践学会をオンラインで開催した。その中で同機構の新理事長に安家周一あけぼの幼稚園長が就任したことを紹介。当日は基調講演とパネルディスカッションが行われた。


 開会あいさつで安家理事長は「本機構では、砂場の研究がプロジェクトとして始まっている。研修も俯瞰(ふかん)図等を基に全国で行われている。第三者的評価としてECEQが作られた。今後、この評価に各市町村から補助金を獲得する道も開けた。幼稚園教諭の免許状更新講習も実施している。もう一つ非常に大切なことは、私どもの活動を広く知ってもらうことだ。今後、教育の質を広げ、深めることが大切だ。日本でもようやく幼児教育の無償化が実現したが、今まで以上に私立幼稚園が公的存在として責任を全うすることが大切になった。今後、対面での研修会等と同時にオンラインを使った研修を使うことで、その場に行けなかった方々が参加でき学べる機会が生まれると思う」などと話した。


 基調講演は『コロナ禍での幼児教育の質向上について考える〜保育の「専門性」と質向上への組織的な取り組み〜』と題して、岡健・大妻女子大学教授が概略次のように話した。


 


 専門性を高めるというとき、子供理解が大事だと言われる。子供理解とは、事実に基づく解釈で、この考え方は医療から来ている。医師は具体的事実、症状を重ねていって診断していく。ただ、解釈は、事実の組み合わせ方で変わるし、その事実を見つけ出すことが難しい。


子供は育ちのために遊んでいるわけではない。だから、先生方がちょっと投げ掛けいくことが大事だ。ただし子供の気持ち、やりたいことに基づいて広げていく。保育のPDCAサイクルは、狙い、手だて、評価(振り返り)、子供理解だ。自分に見えていることが、周りの人にはどう見えているか、それが保育のカンファレンスだ。みんなの価値観が協働知となる。認識が変わると動きが変わる、やるべきことが見えてくる。


 保育の専門性を高めていくために、子供が心を動かすシチュエーションをつくることが環境構成だ。それに基づいて、子供はやりたい心が動く。動いたらそれを読み解いて、狙いにして、環境をつくり、子供がやりたいことができ、と連続してやっているのが保育の営みである。保育の専門性を高めるには、園・組織の風土も高めていかないといけない。園の中で、自己開示や自己フィードバックが上手に起こっていくためには、それをやれる人を園の中につくっていく必要がある。実は保育者ほどこの役に適任はいない。ただ園の中だけでは気付けないこともいっぱいある。だから仲間の力を借りながら気付きとフィードバック、自己開示をするのがECEQの仕組みだ。



 続いてパネルディスカッションが行われ、東京の柴又帝釈天附属ルンビニー幼稚園の3人の保育者から「保育の現場から質向上を考える」と題して発表が行われた。


 初めに早崎淳晃園長が「こんなときだからなおさら家庭とつながっていたいと思い、ビデオ配信、園庭開放、絵本貸し出し、家庭訪問、笑顔の見えるマスクなどで、子供たちが安心して生活できるよう配慮した。コロナ禍で、人間社会というコミュニティーがどう対処するのか、弱者である子供たちにとって幸せとは何か、それを考える時間が保護者にできたと思った。そこから保護者の変化が見られた。子供たちの社会における存在の価値、社会が健全に機能するために自分たちのモラルや秩序を保とうとする姿、役に立ちたいという姿勢が保護者に見られた。近年、子育てを保護者へのサービスという概念に変えた国の施策が施行されてから、このような言葉や態度は少し減少したと感じていた。しかし今回の困難をみんなで分かち合って、つながっているという思いを幸せに感じた。みんな共に生きる仲間、つながっていることを互いに感じ合いながら過ごしていく、それが幼稚園の生活の中にあると思った」などと話した。


 続いて、小寺香里教諭(主任)が「振り返ってみて、つながり合う子供たちの姿があり、友達同士だけでなく、いろいろな人とつながって子供たちが成長していく姿が見られた。子供はつながる、つなげるのが好き。お絵描きのときにカラーペンをつなげる、砂場でも樋(とい)をどんどんつなげていく。年中児が年長児になって、年少児に身支度やトイレの使い方を教えながら、年長としての自信を持った。泣いている子に寄り添って安心させようとする気持ちが芽生えた。園庭のビワを他のクラスにも配って歩いた。遊びの中で自分のやりたいこと、したいことに向かって友達と協働しながら、言葉を交わし合って遊びを展開する様子が見られた」などと話した。


 山本理美歩教諭(担任)はお店屋さんごっこについて話した。「今年は、どんなお店屋さんをやりたいか子供たちと話し合った。たくさんのアイデアが出て、おもちゃ屋さんに決まった。商品作りや看板作りも子供たちのアイデアだった。子供たちは役割分担をしながら、アイデアを出し合いながら、盛り上がっていた。みんなのイメージが形になっていき、喜びが、今日は楽しかった、もう帰る時間なの、といった言葉になった。こういう気持ちを子供たちに感じてほしいという思いが、さらなる保育の充実につながると思った」などと述べた。


 ブレークセッションには、3人の発表者と熊谷知子・泉山幼稚園副園長、杉本育美・光明幼稚園長、亀ヶ谷元譲・宮前幼稚園副園長が加わり意見交換が行われ、岡教授がコーディネーターを務めた。


 その中で亀ヶ谷副園長は、「コロナ禍だからこそつながっていく姿とその視点が素晴らしかった。子供たちが楽しんでいたこと、子供の楽しかったを共有できる先生の集団があると思った」などと感想を述べた。


 熊谷副園長は「子供たちと保護者がどうしたら元気に過ごしてくれるかを考え、本当に命について考えた1年だったと思う。園が一つのチームになって動いていることに感銘を受けた。エラーアンドトライという思いを持って過ごしていきたい」と述べた。


 杉本園長は「私どもの園も共に生きるを教育方針に挙げている。言葉では簡単だが、深いものがあり、それを子供たちにどう実感してもらい、職員が共有していくか、考えながら過ごしてきた。つながっていることを視点にした取り組みが面白いと思った」などと述べた。




学会であいさつする安家理事長

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