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記事2020年12月3日 2529号 (1面) 
経済財政諮問会議で「文教」を討議
民間議員提案 オンライン化の活用に向け教員組織や施設規制等見直しを
文科大臣 デジタル教科書使用基準の見直し年内に方向性提示

 政府は11月27日、総理官邸で令和2年度第17回経済財政諮問会議を開催した。この日は、マクロ経済運営のほか、経済・財政一体改革における重点課題として、萩生田光一・文部科学大臣も出席して「文教」の問題を話し合った。


 初めに柳川範之・東京大学大学院経済学研究科教授が、民間議員4人の提案「令和3年度予算における経済・財政一体改革の重点課題〜社会保障、文教〜」を説明した。同会議の4人の民間議員(その他の議員は官僚か日銀総裁)とは、柳川教授のほか、竹森俊平・慶應義塾大学経済学部教授、中西宏明・株式会社日立製作所取締役会長兼執行役、新浪剛史・サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。


 この中で4人の民間議員は、政府の令和3年度予算において文教に関しては、基本的に世界をリードする研究力の確保、リカレント教育を含めた高等教育の抜本的な改善が必要と指摘。初等中等教育も含めて教育の質の向上と学習環境の格差防止を実現させる「鍵」はオンラインの活用にあるとし、コロナ後も見据えて、必要なオンライン教育を可能にするための基盤整備、規制改革を速やかに実行する必要性を強調した。


 その中で重点課題に挙げたのが、(1)デジタル時代の大学改革等、(2)対面とオンラインの最適な組み合わせの実現、(3)EBPMのためのデータ整備の3点。EBPMはエビデンスに基づいた政策決定のこと。


 このうち(1)では、国際的な研究力を確保するため、実効力のある国立大学の定員管理の大胆な緩和を求めており、大学経営の在り方について年内に結論を得て(文科省の専門家会議で検討中)、改革を推進すべきだとしている。また地方国公立大学については、地方人材育成、リカレント教育充実の観点から地域の活性化に資するプログラムの策定・STEAM人材育成の取り組みの強化を要望。そのほか感染症拡大等により奨学金の返還負担が重くなっている社会人に対して返還の部分免除や返還期限の猶予など負担軽減策の拡充を求めている。私立大学に言及した箇所はなかった。


 (2)に関しては、オンラインの活用に向けて、人材育成・活用や教員組織・施設等に関する規制・手続等の抜本的な見直し、地域間でソフト・人的体制整備にバラツキが出ないよう国主導の事業で個別最適な学習を可能にするデジタル教科書等の普及促進、ICT人材の確保、教員の指導力向上の支援等を進めるべきだ、としている。


 (3)では、EBPMを促進するため匿名化された学力等に関するパネルデータの整備・活用が重要で、文科省が中心となって1人1台端末を活用して、学習履歴や学力テスト等の体系的な蓄積、データの標準化・共通化、先進的な取り組みの横展開、家庭環境・生活習慣・保健等のデータとの関連付けを進めるよう求めている。このうち先進的な取り組みとは、埼玉県学力・学習状況調査で生徒は氏名ではなく個人番号を答案用紙に記入、個人の氏名を取得せず生徒一人一人の学力や非認知能力・学習方略等を継続して把握できるパネルデータを作成し、関係者の理解・協力を得ながら分析結果の活用を可能とする取り組み。


 こうした民間議員の提案に対して、萩生田文科大臣は、「学校のデジタル化・スマート化等に向けた取り組み」を説明。この中ではハード面では児童生徒1人1台端末整備については年度内に完了し、低所得世帯への通信費支援(ルータの貸し出しなど)にも国として予算措置を取っていくことを強調。また学校での通信環境整備では学校の屋上に携帯電話等のアンテナを置くことを許可し、その代わりに無料で5Gを使わせるとの取り組みもあることを紹介。


 またソフト面では、デジタル教科書の使用基準の見直しを検討しており、年内に方向性を示す予定であること、データ利活用・CBT活用・EBPM推進に向けた取り組みでは来年春を目途に教育データの標準(第2版)の公表、今年度、オンライン学習システム(CBTシステム)のプロトタイプを開発・実証等を行うとしている。


 人材に関しては、教師の指導力向上のため、指導者養成研修の実施、研修動画の配信、特別免許状等による外部人材の活用を進める方針。特別免許状に関しては、授与指針を今年度内に改訂して運用の弾力化を図る方針を説明した。また、ポストコロナにおける大学教育に関しては、面接授業の良い点を活かしつつ、オンラインとのハイブリッドによる質の高い授業を目指すこと、教育再生実行会議や中央教育審議会でウイズコロナ、ポストコロナにおけるニューノーマルな大学教育の在り方に関して、遠隔授業の単位の取り扱い、教員数、校地・校舎面積などを規定した大学設置基準の見直しを含めて、質保証の観点も踏まえながら議論を進めていることも報告した。ただし萩生田大臣は、こうしたオンライン教育のための環境整備を進めるものの、「1人1台揃うとバラ色の世界が来るかのように期待して頂いている部分もあるが、これはあくまで教育ツールで、全てを代替するわけではない」と発言。指導する教員のICT活用能力に大きなバラツキがあることも指摘して、「丁寧に焦らず、しかし、しっかり計画的に急いでやるという二つの課題を同時に前に進めていきたいと思っている」と語った。


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