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記事2020年11月23日 2528号 (3面) 
デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議
デジタル教科書の利点など審議 一斉同時使用に不安の声も
1/2規制撤廃求める意見がほとんど


 文部科学省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」(座長=堀田龍也・東北大学大学院情報科学研究科教授)は11月13日、第6回会議をWEB会議方式で開催した。この日の議題は「教科書制度の在り方について」。


 具体的には事務局(文部科学省)が議論を求めた事項((1)学習者用デジタル教科書の利点等、(2)学習者用デジタル教科書とデジタル教材の役割分担等、(3)学習者用デジタル教科書の使用を各教科等の授業時数の2分の1未満とする基準)に沿って意見交換した。


 このうち(1)の利点等に関しては、▽直接書き込みができ書き込んだ内容の消去も簡単、▽拡大表示ができる、▽ポップアップにより見せたいところだけを拡大することで児童生徒に集中させることができる、▽デジタル教材や授業支援システム、学習支援システム等との連携、学習履歴の活用等が行いやすい、▽障害のある児童生徒への効果として、さまざまな機能により、障害等による学習上の困難が低減される等を列挙。


 また、学習者用デジタル教科書を本格的に導入するに当たって留意すべき点については、▽共通に求められる機能の整理、▽健康面に関する留意すべき事項の周知、▽家庭においても使用できるよう、パブリッククラウド方式による配信にすること、▽復習等ができるよう、過年度の教科書も使用できるようにすること、紙、デジタル両方を併用できる状態で実証を行うこと等を例示した。


 こうした文科省の説明や提案に委員からは「(デジタル教科書の導入で)重いランドセルの負担が軽減される」といった利点の指摘や、「パブリッククラウド方式だとすると、同時アクセスが確保できるか確認が必要だ」「健康面に関しては保護者から危惧する声が多数出てくる。保護者が分かりやすいよう、しっかり願いたい」などの意見が聞かれた。また、「利点を論ずるフェーズは過ぎている」とデジタル化を急ぐよう求める意見、反対に、「デジタルが万能ではないことも大切にしたい。紙とデジタルの両方の教科書を併用、使い分けられるようにしてほしい」といった意見も上がった。


 文科省は「デジタル教科書に多くの児童生徒が同時にアクセスしてもシステムが耐えられるよう令和3年度にフィージビリティーの研究をしっかり行いたい」との方針。


 また論点の(2)に関しては、「中核的なものとして質保証された教科書が必要で、デジタル教材は検定の対象としない」「ドリル等は教科書無償化から切り離すべきだ」「現場の教師の多様なやり方を担保すべきだ」「デジタル教科書はさまざまな機能を実装しても、拾いきれない機能がある、それをデジタル教材にすればいい」「1台のタブレットでデジタル教科書とデジタル教材を代わる代わる使うのは難しい」といった意見が出された。


 論点の(3)のデジタル教科書の使用は各教科等の授業時数の2分の1未満とすることについて文科省はその必要性について検討することを提案した。この基準はこれまでも文科省や文科省以外の省の審議会等で撤廃を訴える委員は見られたが、この日は、会議のほとんどの委員が明確な根拠がないことなどを理由に2分の1制限の撤廃に賛成を表明した。しかし一部の委員は、「多くの教員がデジタル教科書の使用経験がなく、デジタルの指導力にも大きな差がある。2分の1未満との基準は外すべきではない。段階的にICTリテラシー、健康面への対応、指導力を身に付けていくべきだ。ネット依存の問題もある。1日の使用では家庭との共同的な取り組みが必要。また保護者はオンラインというとゲームができてしまうと考え、費用負担増も心配している。自治体間、学校間の格差も広げてしまう」などと語り性急なデジタル化への懸念を表明した。


 デジタル教科書の使用制限について文科省は次回会議(12月22日)に方向性を示す予定。


 最後に堀田座長は、「やっと端末が来る。高速通信体験もこれから。研修もこれから。教科書会社側も大規模なデジタル教科書の供給はこれから。教科書検定をデジタルでも今までのままでいいのか、今決められるのか、速やかな変更は難しい。学習ログも多くの自治体で制約があるのに取れるのか、クラウドに上げられるのか」などと語り、デジタル化を進めるものの、なお乗り越えるべき課題は少なくないことを指摘した。会議では、そのほか学習者用デジタル教科書を巡る環境整備の状況、デジタル教科書の健康面への影響に関する専門家の見解、諸外国における教科書制度、デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業(令和元年度)における調査結果等が事務局から説明された。


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