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記事2016年2月3日 2364号 (2面) 
理事長協議会で新たな高等教育機関創設問題討議
短大関係者集まり、要望や短大振興策検討

一般財団法人私学研修福祉会(〓田貢理事長=工学院大学理事長)は、昨年12月18日、都内で「第13回理事長協議会」を開催した。この協議会は、私立短期大学の理事長、学長らが短大を取り巻く情勢等について最新情報を共有し、さまざまな角度から短大の振興策等を協議する場。協力は日本私立短期大学協会。  今回の理事長協議会には160人が出席、現在、文部科学省で審議が進む「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」を中心に協議した。この問題は、教育再生実行会議の第5次提言等を基に、文部科学省の中央教育審議会特別部会が現在審議しており28年年央までに結論を出し、早ければ31年4月開学とされているが、新たな高等教育機関の創設ではなく、既存の高等教育機関で対応できる、養成する人材像が明確ではないとの理由から、新高等教育機関の創設に疑問を投げかける意見も少なくない。  冒頭、挨拶した日短協の関口修会長(郡山女子大学短期大学部理事長・学長)は、昨年12月7日の短期大学振興議員連盟の会合の新高等教育機関についての議論の中で、「大学として遜色のない制度を作っていかなければ、大学という名称の中には入れられないのではないか、とのご意見を多々頂戴した。文部科学大臣のご経験のある多くの先生方が素晴らしい大学教育ができなければ意味がないとおっしゃっている」と報告し、理事長協議会を通じて新高等教育機関の協議と短期大学の振興に資する力の結集を要請した。  また佐久間勝彦・理事長協議会運営委員長(千葉経済大学短期大学部理事長・学長)は「(中教審特別部会の議論は)短期大学協会からすると、まだ靴の上から足をかいているようだ。もっと短期大学の果たしている役割とか、今の日本の大学体系をきちんと認識した上で新たなものが生まれるのでなければ、取り返しのつかないことになるだろうとの認識を持っている」と語り、短期大学としてのきちんとした認識を持って高校生や社会に働き掛けるための議論を出席者に呼びかけた。  その後、文部科学省の義本博司・大臣官房審議官(高等教育局担当)が「短期大学の現状と諸問題について」の演題で講演した。義本審議官は、新高等教育機関について、「むしろこうした制度を(短期大学の)将来を切り拓くことに活用する余地はないのか。そのための活用しやすい制度や支援策などの議論があってもいい。例えば社会人の受け入れ、専攻科の再編に活用できないのか」と語り、現在、進められている短期大学における社会人の学び直し研修の開設や、地方公共団体等と連携しての地域振興等を紹介した。また、短期大学の抱える課題をチャンスに変える重要性、例えば、(1)「地域に立地している短大は学生確保に苦戦している」「地方創生の中核として期待(地域にとどまり地域で活躍する人を育てる)」、(2)「女子学生が中心で規模が小さく、男子学生を獲得することが難しい」「女性活躍の視点から、地域で活躍する女子学生のエンパワメントへの期待(密度の濃い教育で生涯を通じた学びの習慣の確立)、(3)「短大よりも四年制大学の方が就職や学生集めに有利」「家計の厳しい世帯にとって進学機会としての短大の存在意義」「いったん社会に出た人材の再教育の場としての期待(小回りのきく短大による受け皿整備)」を指摘した。そうした改革の推進には意欲の高い教職員の育成確保や、密度の濃い教育の徹底、地元自治体・産業界等との連携が重要であり、改革をやり遂げる人材づくりについては外部からのリクルートとともに、内部で育成することの重要性を指摘、1短大で対応が難しいのならば、国あるいは短期大学協会と文科省が協力して人材の出会いの場・プラットフォームづくりを進めていく必要性を強調した。


質の高い機関にすることが重要


その後、「新しい高等教育機関について短期大学と実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関」をテーマにパネルディスカッションが行われた。パネリストは、文部科学省の塩原誠志・高等教育局主任大学改革官、関口修・日短協会長、麻生隆史・山口短期大学理事長・学長(日短協副会長)、安部恵美子・長崎短期大学長(日短協副会長)、原田博史・岡山短期大学理事長・学長(日短協常任理事)で、コーディネーターは佐久間勝彦・日短協副会長が務めた。  この中で塩原氏は、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関については国際水準や制度の整合性等を考え学位を授与できる機関として制度設計したこと、中教審「キャリア教育・職業教育特別部会」実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議中教審「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会」を経て、行きつ戻りつの議論の後、議論が一周し、論点整理が特別部会でまとまったことなどを報告。「大学の機能分化が進んできており、新たな高等教育機関のニーズはあると思っている。恥ずかしくないものを作っていく」と語った。  また麻生氏は、中教審「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会」の第7回会議で委員として発言。その中で、新たな高等教育機関を大学体系の中で学位授与機関とし、学校教育法第一条に位置付けるならば、公共性・継続性・国際通用性を考慮して設置基準の設定に始まり学生の学習成果・アドミッション・カリキュラム・ディプロマの3ポリシーの策定と公表、認証評価機関による機関別評価と分野別評価の実施、教育情報・財務情報の公開、大学ポートレートへの参画義務化、大学としてふさわしい校地・校舎・図書館・体育館等の配置、公認会計士による会計監査・業務監査、FD・SD活動の義務化など、現在、大学や短大に課されている要件の実施が必要だとした。  さらに安部氏は特別部会の委員でもあるが、同部会の論点について、社会や企業が求める「実践的な職業能力」の具体が依然として不明確で、同特別部会内に質の高い職業教育機関設立のコストの高さを危惧・反対する意見があることを挙げて「コスト削減を考えるなら既存の高等教育機関に職業教育を強化する体制を整えればよく、大学数が多すぎると言われる中で、質の劣る高等教育機関を構想する必要がどこにあるのか」と語った。また、短大の振興のためには、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度設計の具体的基準を、高等教育として既に質の担保が確立している短大に適用する方途について各短大の中で、あるいは短大協会委員会等の中で知恵を絞るべきだとした。  関口氏は、日本の高等教育の中で教養教育、教養の原点になる想像する力が十分練磨されない時期が長く続いてきたこと、高校卒業以降は、高等教育との認識で専門学校が高等教育の範疇(はんちゅう)に入り、今、実践的な職業教育との観点で議論に入っていることについては反省すべき点があるにもかかわらず、反省がなされず中教審で議論されていることに大変危惧を覚える、と語った。  原田氏は、戦後70年目の学制改革として職業教育を行う高等教育機関の制度化が進められているが、ハーバード大学経営大学院の竹内弘高教授は、「アメリカでは職業人の教育は大学院レベルで行われていて、大学の学部は職業教育に関与していない。学部ではリベラル・アーツ教育を実施している。人間としての『土台作りの場』である」と語っていることを紹介。これから短大が行う職業人の養成(職業教育)については、学芸・教養・専門教育を一層充実させるため、GAP制にこだわることなく、設置基準上の卒業要件単位の1・5倍を超える学修ができる教育課程を編成し、学習成果の獲得の質保証した職業人を育成する、とした。  最後にフロアとの意見交換が行われ、その中では、専門職大学院制度の失敗を指摘する意見、新高等教育機関についてはまずは公立セクターによる開校(見本)が必要だとする意見、高等教育とは何か本質的議論が必要だなどの意見が聞かれた。

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