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記事2014年9月3日 2316号 (2面) 
中教審の審議動向 高大接続特別部会で大学入試改革をめぐり激しい議論
部会長メモ公表 達成度テスト発展レベル導入で個別大学力検査廃止示唆
国立大関係者は強く反発

 中央教育審議会の高大接続特別部会(部会長=安西祐一郎・独立行政法人日本学術振興会理事長)は8月22日、文部科学省内で第18回会議を開き、今後の大学入学者選抜の改革の方向性について激論を交わした。

 焦点となったのは、これからの大学教育を受けるために必要な「主体的に学び考える力」等の能力測定を主目的にした達成度テスト(発展レベル)を平成32(2020)年度から導入するのに合わせて、個別大学の入学者選抜における学力検査の実施の是非。この日は、初めに国立大学協会の里見進・入試委員長(東北大学長)が、会員校を対象にしたアンケート結果を基に作成した見解「今後の国立大学の入学者選抜の改革の方向について」について説明した。

 その中で、各大学は従来から一般入試の個別試験における学力検査で、記述式・論述式問題の出題を取り入れ、単なる知識だけではなく論理的思考力・判断力・表現力等を評価するようさまざま工夫をしてきたことなどを説明、達成度テスト(発展レベル)導入後も個別大学の入学者選抜では学力検査が必要なことなどを訴えた。また、「達成度テスト(発展レベル)」の在り方については、高校学習指導要領に基づく5(6)教科(7科目)による基礎的な「教科型」の学力判定機能は基本的に維持すること、成績の提供方法については1点刻みの学力検査からの脱却を目指すとしながらも、各大学が適切な段階設定ができるよう、素点またはそれに近い方法を含めた柔軟な成績の提供方法が必要だとし、さらに試験の実施回数は最小限、各大学の入試業務に要する労力を縮小する観点から達成度テスト(発展レベル)の実施はCBT(コンピューターを用いるテスト形式)およびIRT(項目反応理論)の導入が前提だとした。

 一方で中教審の会長でもある安西部会長は、「新しい高大接続」と題して、今後の改革の方向性を簡潔にまとめた「メモ」を提示。その中で高校教育、大学入学者選抜、大学教育の一体的な改革が改革成功の鍵であること、達成度テスト(発展レベル)では合教科・科目型の「問題領域」テストを中心に、教科型、総合型を付加すること、国・民間・学校等が協力して「問題領域」別の「検定型テスト」を開発し、国が認定・評価等を行うこと、2020年度の大学入学者選抜から(少なくとも全国規模のトライアルとして)実施すべきだとした。

 また個別大学の入学者選抜では、「主体的に学び・考える力」、「多様性を共有し、他者と協働する力」の多面的な評価が中心となること、具体的には面接、討論、論文等の実施や、高校の調査書や受検者自身の活動報告等、受検者の諸活動を記述・評価した文書等の評価が必要だとした。

 こうした安西部会長の考えに国立大学関係の委員は相次いで「唐突感がある」、「一律の共通試験では多様性を担保できない」、「国立大学は大学全体の15%にすぎない」、「国立大学は次世代の研究者をつくる責任がある」などと発言、個別大学の入学者選抜で学力検査を行わないことへの疑問や異論が噴出した。

 一方、安西部会長は、「平成11年の中教審答申でも全く同じ議論をしている。各大学は主体性、多様性を重視した評価の仕方を考えてほしい。ペーパーテストで知識量を測ることから脱却してほしい。知識・技能の活用力が大事。10年、20年、30年後の着地点を考えて話している」、「国立大学は全体の15%とはいえ高校教育への影響は大きい。国立大学のリーダーの方々は入学者選抜を、人を見る方向に変えていってほしい」などと語り、個別大学の入学者選抜で学力検査を残しては高校の現場や保護者の意識も変わらず、結果、これからの時代に合わせた教育改革は成功しないことなどを力説した。

 委員からはこのほか、「既存の検定試験は活用できるのか。既に数学検定などはある。大学が共通利用できるリソースを整理しておくべきだ。現在の大学入試センター試験の中で合教科・科目型試験をしてみてはどうか」といった意見があったほか、公立大学協会副会長の近藤倫明・北九州市立大学長は、「チャレンジしていかないとこの国のありようは変わっていかない。達成度テスト(発展レベル)の中身が分からないので不安だが、教員を入試の労力から解放したい」、また日本私立中学高等学校連合会長の吉田晋・富士見丘中学高校理事長・校長は、「安西メモと国大協では方向性が違う。はっきりと方向性を示してほしい」と語った。

 この日、出席していた文科省の上野通子・大臣政務官は、「日本の多くの高校生は、高校は大学入試のためと考えている」と語り、英国で体験した教科や科目を超えた入学者選抜を紹介して、大学入試の抜本的改革の必要性を力説した。

 また吉田大輔・高等教育局長は、達成度テストについては高等教育局と初等中等教育局が協力して、大学入試センターを中心に国立教育政策研究所、専門家の協力を得て具体的な制度設計に当たっていくこと、個別の大学では丁寧な入学者選抜実施に向けてアドミッションオフィスの体制の整備が必要なことなどに言及した。

 次回の高大接続特別部会は9月17日の予定。
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