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記事2014年12月3日 2325号 (1面) 
私大等が知識基盤社会を先導
私立大学振興大会2014開催
国の再生と地方創生に向け 私大等への支援拡大要望

 日本私立大学団体連合会、日本私立短期大学協会、日本私立高等専門学校協会の3団体は11月27日、東京・市ヶ谷の私学会館で「私立大学振興大会2014」を開催した。大会では、「日本の知識基盤社会を先導し、地域に貢献する私立大学・短期大学―今こそ、私立大学・短期大学の時代―」と題したパネル討議が行われ、参加者が今後の私立大学等の在り方について共通理解を深めた。




 この日の大会には全国から私立大学等関係者約230人が出席、またテレビ会議を使い全国8大学・短大も参加した。

 冒頭、私大団体連の大沼淳副会長は開会の挨拶で「政府の教育再生、地方創生の参考になればとパネルディスカッションを通じて多くの声を地方からも伝えて振興大会を大いに意義あるものにしたい」などと語り、続いて主催者を代表して挨拶した私大団体連の清家篤会長は、「私立大学が果たすべき役割の礎となるのは、確固たる財政基盤の確立で、私立大学は、学生納付金、寄附という独自の財源を基盤としているが、同時に国や地方政府からの援助、公的支援は不可欠な存在になっている。私立の高等教育機関がなければ、わが国の社会の大多数の高等教育を担う場所がなくなってしまい、また、地域社会の発展のための知的基盤もおぼつかない。わが国の知識基盤社会をリードし、社会の発展に不可欠な私立の高等教育機関のさらなる教育、研究の質の向上と健全な経営のために社会の正しい理解と一層のご支援をお願いしたい。この振興大会が社会全体の私立の高等教育機関への理解を深め、私立の高等教育機関の関係者が改めて社会的使命を自覚する機会となることを願ってやまない」と語った。

 続いて、来賓の山中伸一・文部科学事務次官は、挨拶の中で「高校を卒業して意欲がある生徒達が大学に心置きなく進学できるような環境を作っていくことが非常に大切。給付制の奨学金を検討しているが、今までは難しかった。子供が急速に減っていく、今までとは違う時代なので、新しいことを、財源も含めてもっと真剣に考えなくてはいけない。地方にある大学、短大、高専がどうやって力を発揮できるのか。地域の産業を活性化していく上で大学の知恵が今ほど求められている時代はない。大都市圏にある大学等にとって、多くの学生は地方から通ってきており、卒業して地域に戻った時に食べていける職を作ることへの貢献は大きな役割だ」との考えを示した。




振興大会の冒頭、あいさつする清家篤・私大団体連会長




パネルディスカッションを実施

教育の質的転換の必要性確認




 この後、藤原誠・文部科学省私学部長、住吉廣行・松本大学・同松商短期大学部学長、田中優子・法政大学総長の3氏をパネリストに、楠見晴重・関西大学長がコーディネータを務めパネルディスカッションが行われた。

 この中で藤原私学部長は、「国立大学には運営費交付金1兆1千億円が出ている。一方、私学への基盤的な経費としての国費投入額(学生1人当たり)は、国立大学の10分の1以下で、その他科学研究費等を加えたトータルな公財政支出額(学生1人当たり)は私立大学を1とすると、国立大学は15となる。私立学校振興助成法でいう目標値すら全く果たせていない。教育再生実行会議では教育財源の在り方の検討を開始した。来年の夏頃までには一定の方向性を出すと聞いている。地方創生に関しては地方の小規模な私立大学に地域貢献していただくという観点から新規の予算50億円を要求している。地方の私学が活性化することで人口減を食い止め、地方が豊かになっていく方向性を出していきたい。また、私学の財源充実に貢献できるように寄附税制についても個人寄附がより集めやすいような税制改正を財務省に要望している」と語った。

 住吉学長は、「学ぶ動機づけをする時に大学の教員だけでそれができるかを考えたが、難しいというのが我々の結論で、それは地域の人たちが日々生活されている中に世の中の課題が潜んでいるので、地域と交流する中で課題を語って頂いたり、一緒に活動して話し合ったりする中で、学生が『先生、それは何でそうなっているのか』と思ってもらえるようなテーマにぶち当たらせるということが、地域に期待している中身だ。地域と大学内での勉強を往還しながら問題の本質を理解していくスタイルをPBL型といっているが、そのProblemを与えてくれる所を地域に依拠した、学生を育ててもらっている、との考え方でやっている。地域では若い学生が高齢者の社会に入っていろいろやって、『助かったな』と言ってくれることが貢献になっていると思う。これが大学と地域とのwin−winの関係。また卒業生の就職する先が地域になければ、後はどうするのだという話になるので、最近では産官学の連携で地域に新しい産業を興していこうという方向に進んでいる」と語った。

 田中総長は、「法政大学では多くのゼミがいろいろな地域に入って課題解決型のフィールドワークをしている。地域で活躍している卒業生をスーパーローカル人材と呼んでおり、そうした人達にコンタクトしてどのように学んでそのような道を辿ったか認識しなければならないと考えている。知識基盤社会の中で教育の世界は大きな改革の時期に差し掛かっている。留学生の来日の目的も捉え直して大学教育の中身を変えていかなければならない。学生の必要な能力は自律的に自分の能力を捉え直して活用していく能力で、教育はそちらの方向に質的転換することが必要。思考力や判断力、表現力、主体性といった能力を鍛えていくことで教育方法の改善が必要となる。また、少人数教育への移行が必要で、単位数はこれでいいのか、教員の数も重要。教育の質的転換がなければ、大学は新しい入試で入ってきた学生たちの能力を伸ばせない。学生の8割を占める私立大学を底上げしないとわが国全体のレベルは上がらない。教員の努力に加えて教室の改造、チューターの増員、専任教員の研修などが必要。高等教育に対する公財政支出も増やし、税制改正も必要」と語った。





 パネルディスカッションではパネリスト3氏の発言の後、テレビ会議を通じて大会に参加した8大学の内、広島国際大学の秋山實利学長、南九州大学の長谷川二郎理事長・学長、桃山学院大学の前田徹生学長の3氏が大学を取り巻く状況や文部科学省等への要望等を報告した。


 このうち広島国際大学の秋山学長は、「広島では、この夏、災害に見舞われたが、災害は全国各地、いつまた起こるかもしれない。高齢者だけの地域では災害に対応するのは非常に難しい。地域にはますます人が必要なのに若者がいなくなる現象が続いている。しかし地域で就職し、地域に役立ちたいという若者も多くいる。こうした人たちに魅力的な雇用、環境を用意して就職することで医療や福祉を良くしていくアプローチも大学と社会が一体となって進めていくべきだと思っている。文部科学省には関係各省と連携し、政策を立案して物心両面からのご支援をお願いしたい」と語った。


 南九州大学の長谷川理事長は、「宮崎県では現在、県内の大学進学者の70%が県外の大学に進学している。地方創生という立場から大都市圏の大学と地方の大学がバランスを取りながら発展していける政策を考えてほしい。地域の国立大学との関係では、これまで県内の国立大学と私立大学は特色の違いで棲み分けしてきたが、昨今、国立大学は改組改革に取り組んでおり、私立大学は新しい形の競争に晒されている」と報告、国私共存のためにも私立大学へのこれまで以上の支援に期待感を表明した。


 桃山学院大学の前田学長は、「地域の自治体と包括連携を結んで各種の事業を行っている。泉市とは32のプログラムを動かしている。こうしたことで気付かされたのは地域貢献に繋がること、地域には教育力があること、学生に与えるものは非常に大きなものがあり、また最も大きな成果はこうしたことを通じて学生に学びへの気付きを与えられること。ただ、移動の交通費、連携事業によっては費用が大変掛かる」とし、地域連携活動、実践教育への手厚い公的支援を要請した。


 この後、会場の出席者から意見発表があり、東北学院大学の松本宣郎学長は、「人材を育てていったときに、受け皿としての就職先が厳しい。もっと大きなグローバルな、グローカルな経済活性化がないとやっていけない。また、もっと給付型奨学金を増やすことにシフトしてほしい」と語った。


 山口短期大学の麻生骼j理事長・学長は、実践的な職業教育に特化した新たな高等教育機関の制度化が現在検討されており、専門学校が対象になると見られているが、一条校化をし、文部科学省所管になり、大学という名称を使うという流れのようだ。私学助成の枠には制限があるので、一番に影響を受けるのは短大」と語り、新高等教育機関への懸念を表明した。


 また大会最後に、全国の各私立大学等が、知識基盤社会を先導する重大な責務を自覚し、わが国の地域社会のさらなる発展に寄与する決意等と文部科学省の来年度私大等関係概算要求の満額計上への要望等を盛り込んだ「決議案」が日本私立短期大学協会の関口修会長により朗読され、満場一致で採択され、私大等関係者が協力して要望の実現を目指していくことを確認した。「決議」はその場で関口会長から藤原私学部長に手渡された。


 「決議」を受け取った藤原私学部長は、今後の予算編成等の見通しに言及した上で、「消費税の8%から10%への引き上げが延びた関係で、来年度予算編成は収入がちょっと予定よりも落ちるので大変厳しい折衝になる。私学団体には是非ともご支援を」と語った。





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