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記事2014年11月3日 2322号 (1面) 
国大協が入試改革でシンポジウム
安西氏(中教審高大接続特別部会長)が改革の方向性説明
パネル討議 大学の足並み懸念の声も




 一般社団法人国立大学協会は10月20日、東京・千代田区の学術総合センター一橋講堂で「第13回大学改革シンポジウムを開催した。テーマは大きな転換期を迎えた「大学の入試改革について」。大学関係者ら約230人が参加した。大学入学者選抜の抜本的改革については、高校教育の質保証、大学教育の転換とともに、現在、中央教育審議会高大接続特別部会長で審議中だがその部会長を務める安西祐一郎・独立行政法人日本学術振興会理事長が「未来に生きる子どもたちのために」の演題で基調講演、改革の方向性等を説明、大学関係者に協力を要請した。それを受けて国立大学、私立大学、公私立高校の副学長や校長等をパネリストにパネル討議が行われた。コーディネーターは国大協の入試委員長の里見進・東北大学総長。

 基調講演で安西氏は、世界的に見てわが国の労働生産性が低いこと、米、中、韓国と比べてわが国の高校生は将来に向け目標をより持てずにいること、高校生の勉強時間がこの十数年の間に激減していること、大学生の学修時間も米国の学生と比べて極めて少ないことなどが今回の改革の背景にあると説明。また、小、中学校で培った「確かな学力」「生きる力」を高校、大学でさらに伸ばしていくが、高校、大学での「確かな学力」の3要素については知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性で、また生きる力とは、国家・社会の形成者としての教養・行動規範、健康・体力、確かな学力を指すことと説明した。

 その上で選抜性の高い大学・それらを目指す生徒の多い高校に関しては、主体性をもって他者を説得し、多様な人々と協働して新しいことをゼロから立ち上げることのできる潜在力が不足していること、選抜性が中程度の大学・それらに進学する生徒の多い高校に関しては、大学入学が一般に容易になると学習の目標が明確に持てないため、自ら主体的に学習する力が弱く、選抜性の低い大学、それらに進学する生徒の多い高校に関しては基礎的な知識・技能が不足したまま、大学に漫然と送り出されるケースが少なくないことが課題だと指摘した。そうしたことから高校生の学習改善に資するための、広範囲の難易度を持つ「高校生基礎学力テスト」(仮称)を創設、また大学入学者選抜では、思考力・判断力・表現力に加え知識・技能を必要とし、選抜性の高い大学にも利用可能な広範囲な難易度を持つ「大学入学者学力評価テスト」(仮称)を創設するため、個別大学の入学者選抜では、同テストの成績に加え、面接、集団討論、小論文、高校調査書、活動報告書等による多角的評価で多様な人材を選抜することが必要とした。個別大学での選抜に関しては思い切った入試の工夫を要請した。こうした基調講演を受け、パネル討議では日本私立大学連盟教育研究委員長の松本亮三・東海大学観光学部長、筑波大学の阿江通良・副学長、岡山大学の許南浩・副学長、全国高等学校長協会長の橋基之・都立目黒高校長、和田孫博・灘中学・高校長が発言した。

 このうち松本氏は、日本の教育改革に最も必要なことは履修主義(年齢主義)からの脱却で、なぜ高校は3年間、大学は4年間で卒業させなくてはいけないのか、それが最も憂慮される問題だと指摘した。ただ大学にとって入試問題の作成の負担が減ることは歓迎だが、各大学の足並みを揃えるのは大変と、また重戦車並みの入試になるためもう少し削ぎ落とさなくては予算面で厳しいと語った。

 阿江氏は、自立して世界的に活躍できる人材を育成するため今年10月に国際バカロレア特別入試を実施、平成29年2月には英語の4技能を問う外部検定試験の全学導入を行う予定で、大学の変革に向け、国際通用性のある教育を推進していく考えを説明した。また大学は学生を受け入れたら責任をもって学生を見るべきだとも語った。許氏は、岡山大学では平成27年度入試から国際バカロレア入試を導入すること、平成30年度までに全入学定員数の5%を国際バカロレア入試採用とすることなどを説明、多面的入試変換へのテコにしたいなどとし、また学生には基本的パワー、意欲足りないと感じる、大学は入試改革を視野に入れるべきだとも語った。橋氏は、多様な入学者選抜が必要で、生徒の学んだものを大学はしっかり見てほしいと語った。また新テストが高校2年から始まることへの危惧などを明らかにした。和田氏は、新しく創設するテストは学習指導要領にどこまで準拠するのか、英語の外部試験は学習指導要領とはかけ離れているため、高校の英語教育の空洞化を招きかねないこと、また面接や論文の客観性・公平性には疑問が残ることなどを指摘した。そのほか大学の定員を緩やかにして学生を少し多くとり学習の中で落としていくこと、その際にはセーフティーネットも必要なことなどを指摘した。
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