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記事2013年10月13日 2286号 (3面) 
日本私立短期大学協会 私立短大就職担当者研修会を開催
学生の基礎学力補完の取り組み等報告
松本大学松商短大 学生の意識改革と能力向上
入学前から準備教育を実施 東京家政大短大部

 日本私立短期大学協会の就職問題委員会(委員長=内田^一・東北文教大学短期大学部理事長)は、平成25年度の私立短大就職担当者研修会を9月4日から6日までの3日間、大阪市の大阪ガーデンパレスで開催した。初日の講演と事例報告の概要を報告する。




 初めに「13年度『ひらく 日本の大学』調査結果から見る日本の大学教育」と題して、朝日新聞社教育総合センターコーディネーターの根岸佳代氏が、2013年の朝日新聞と河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」を基に講演した。その中で根岸氏は、「今年の調査で、大学当事者の6割が国内の大学数が多いと回答した。その影響については、学生の質の低下を挙げた大学が多かった。大学の経営難に直結している。入学者選抜の課題は、志願者の確保だとした大学は83%だった」と紹介。その上で、大学教育改善の特徴的なものとして、教員の教育に対する取り組みへの評価等を処遇に反映している大学は少なく、新入生オリエンテーションの実施、学級担任制の導入、TAなどによる学修支援・学修補助などは全学的に取り組まれている。成績基準の厳格化ではキャップ制の導入、GPA制度の導入は70%以上。しかしGPAを卒業基準として活用しているところは約3%程度にとどまっていることを報告、「ここが次の課題だろう」と語った。

 FD活動の実施状況については、99%の大学が実施しているとしたが、大規模大学では全学的なFDは難しいようで、具体的な活動内容では講演会が最も多く、次いでワークショップだった、と説明。またFDの効果については、「効果を感じている大学では手間のかかるFDに取り組んでいることが明らかになってきた。例えば、改善のためのワークショップや授業検討会などに力を入れている大学が効果を感じているようだ」と指摘。

 さらに「授業方法に関する調査(CRUMP 全国大学生調査から算出)を見ると、課題へのコメントや授業中に意見を述べさせるなど参加型の授業が学生にプラスに働いているが、実施率は低い」とし、国際化については、「留学生の受け入れ数は、学生総数約260万人に対して、9万人未満(3・5%)で、その6割は中国からの留学生。その一方で、大学は国際化が非常に重要と考えており、その理由として、人材育成に必要という回答が9割を占めていた」と説明した。

 短期大学に関しては、「短大を選ぶ層が一定数いる。2年制の濃縮したカリキュラム、資格、短期大学型教養教育の在り方、そういった専門学校では得られない独自性が評価されているのではないか」と分析。大学の今後の課題については、「地域・地元に還元するような在り方をどう作っていけるかだ。そこで重要なことの一つは情報公開だ。みんなが情報公開を始めたときに、新たな学生獲得の可能性が出てくると思う」と語った。

 その後、基礎学力補完のための取り組みとして二つの事例報告が行われ、最初に「キャリア教育をベースとした基礎学力向上の取り組み」と題して、糸井重夫・松本大学松商短期大学部教授が報告した。

 糸井教授は、「本学では、客観化、主体的態度、意識改革、能力向上、の四つをキャリア教育で行っている。本学のキャリア教育の特徴は、意識改革と能力向上という二つの側面を持つことだ。意識改革では、なぜ勉強するのか、生きるとは何か、学ぶということについて話をしている。私の授業では経済の観点から、学生の置かれている立場、時代の話をして意識改革をしている。学生は、自分が生きる時代を理解したときに、勉強することの意味を理解する。日本は労働者の賃金の高い先進国経済になっている。従って、高い賃金に見合った仕事をしないと、今の学生は働く場がなくなる。日本人がする仕事は、研究・開発、業務改善、新しい発想によってビジネスを作っていくことだ」と語り、グローバル化に関しては、「地元大企業でも生産拠点の一部を海外移転している。労働力もまた国際競争が始まっており、学生たちの競争相手は海外にいる。従って、学生一人一人が自分の能力を高めていかないといけない。学生には、日本人である自分が置かれている立場を客観的に把握して、その中で何ができるかを考えてもらっている」と説明。また、「若者が東京などへ出て、戻ってこないと地域の崩壊につながる。そのため長野県では地域に残る人材の育成として、産官学が連携して長野県キャリア教育ガイドラインを作った。企業が採用に当たって重視する能力が、コミュニケーション力や汎用的能力だ。本学は、人の話を聴く傾聴力、汎用的能力を育成している。さらに、それらを使いこなすために、お互いに教え合う、グループ学習を重視している」と短大の取り組みを紹介。

 そのための実践としてメモ力を鍛えていること、具体的には、「講義を聴くと、1週間後に学生は出席レポートを提出する。それを添削して、学生に返す。これによって整理力や文章を作る力を育成したいと思っている」と説明した。

 出席レポートは、選択必修4科目(うち3科目履修)で実施されている。そのため学生の学習時間が増え、図書館の本を借りる冊数も増えた。学生の卒業時の満足度は高まっているという。

 まず意識改革をして、その後に基礎学力向上を図っているのである。

 このほか同短大では入学前に資格取得してきた学生に入学金の一部を免除する、入学金免除制度を実施している。簿記2級以上、TOEIC400点以上などだ。これらの資格を取得してきてくれれば、入学後にはもう少し高度なことができるからだ。今後、小中高大を通じた長野県全体の学力向上プログラムといったものを作っていきたいと考えているという。

 続いて「入学前準備教育から導入教育・正課教育へ」と題して、岩井絹江・東京家政大学短期大学部学長補佐が事例報告を行った。その中で岩井学長補佐は、「基礎学力を身に付けて入学させるために、入学前準備教育を実施している。最も効果的な方法を目指し、複数の業者等から選定して、DVDによる授業を基に自宅学習することをやっている。課題を郵便で提出し理解度を深める。また激励電話で意欲を引き出す。担当するのは進路支援センターである。科目は、基礎計算力完成、基礎化学、化学、生物、時事英語、国語標準。いずれも学生がカスタマイズすることができる。受講前後にはテストを行い、基礎学力の向上を確認している」と紹介。実施結果から見えてきたこととしては、入学前、非常に不安を持っていた学生が、自信とモチベーションを向上させていること、課題はフォロー教育へつなげることで、そのため学生が苦手としている科目の講義を入学後のフォロー教育として実施していること、例えば、栄養科では、入学前教育「基礎化学」受講者を対象に、必要な単元について補習講義を実施しており、正課教育への接続のため「化学基礎完成講座」も実施。学生が苦手とするところをポイントに、復習講座も開設していることなどを報告した。

 同大学・短大の建学の精神でもある女性の専門性を高める教育を成立させるためには、「入学前教育の充実が不可欠で、入学前教育だけでなく、入学後の教育に接続することが現在の最重要テーマ。学生の学力低下は明らかだが、ポテンシャルが下がっているわけではない。手間暇をかけ、教育を行うことで学生の能力が開花する」と語った。

 このほか研修会2日目には、テーマ別講演として「短大生の就職環境」に関して望月一志・マイナビ大阪支社長が、企業の採用動向調査(マイナビ「2014卒採用予定調査」)について報告、企業が各選考段階で最も重視するものは、グループディカッションの段階では学生の潜在的な能力で、最終面接では、自社に合うかどうかの価値観だったなどと説明した。また「有期雇用契約を締結する際の注意点」と題して弁護士の植村礼大氏から、労働契約法改正に伴い、有期雇用労働者からの申し出と一定の条件をクリアすると、期間の定めのない契約に転換しなければならないことなどが話された。その後グループ討議が行われた。

 3日目は、「激動の時代をどう生き抜くか」と題して、高田茂・千葉敬愛短期大学キャリアセンター長が話したほか、講演「今どきの大学生よ、ドキドキワクワクの人生を生きようぜ!―今どきの若者へのひとつのアプローチ」と題して、西村大介・京都大学アメリカンフットボール部監督が講演した。



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