こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2011年7月23日号二ュース >> VIEW

記事2011年7月23日 2211号 (2面) 
震災後の日本社会の再生と大学の役割テーマに
私立大学連盟が第1回学長会議
復興構想会議議長 五百旗頭氏が基調講演
石巻専修大学の対応など報告

 日本私立大学連盟(会長=清家篤・慶應義塾長)は七月二、三の両日、大阪市の大阪国際会議場で今年度の第一回学長会議を開いた。
 今回のテーマは「震災後の日本社会の再生と大学の役割」。加盟大学の学長や副学長ら約九十人が参加した。
 東日本大震災復興構想会議の議長を務める五百旗頭真・防衛大学校長の基調講演をはじめ、被災大学からの報告やディスカッション、グループ討議などが行われた。
 五百旗頭氏は、神戸大学在職中に、自宅のあった西宮市で阪神・淡路大震災に遭った。そのときの経験も交えながら、今回の震災時の国際支援の受け入れや、自衛隊の活動、政府の対応などについて語った。
 六月二十五日に菅首相に提出した復興構想会議の提言については、先例のない悲惨の中で、どん底に落ちた同胞をいかに支え、守るかという精神、理念をきちんと語り、それを全国民が共有できるものにすること、空論ではなく書いたことが実施されるものであること、の二点を大事にしたと述べた。
 さらに、復興は、社会経済の変化を見取ったものでなくてはならないとし、犠牲者、財産の損失をできるだけ少なくする減災の重要性を強調。「同世代の国民で復興を支える、見捨てない。そのことが、日本の新しい再生につながる」と締めくくった。
 続いて行われたディスカッションには、清家会長をはじめ、石巻専修大学学長の坂田隆氏、宗教学者の山折哲雄氏がパネリストとして参加した。
 清家氏は、学問を通じて学生を育て、研究成果を挙げることが、日本の再生への力になると、復興に果たす大学の役割を説明。
 学生の七割を担う私立大学は、それぞれが建学の精神を掲げていることから、多様な価値観に基づく教育・研究を通じて、社会の中に多様性を確保する上で重要な役割を果たしていると述べ、こうした役割に鑑みれば、公的支援に国私の差があってはならないと強調した。
 坂田氏は、石巻専修大学の被災状況や、地元の避難住民の受け入れ、学生への対応などについて具体的に説明した。同大学は、津波による甚大な被害が出た石巻市に位置するが、キャンパスは、幸い津波の被害を免れ、被災直後から、大学施設をボランティアセンターや自衛隊の通信部隊等に提供。現在も、宮城県合同庁舎や石巻復興協議会が利用しているという。
 坂田氏は、日頃から地域と顔の見える付き合いをしていたことが大きな力になったと述べた。半面、被災地域から進学してくる学生が多いことから、最大の課題として、今後の学生募集を挙げた。
 山折氏は、今回の震災に当たり、旧約聖書の「ノアの箱舟」と法華経の「三車火宅」という二つの物語を思い起こしたという。ここに現れている、ユダヤ・キリスト教社会の生き残る者と死にゆく者とが選別される「生き残り戦略」と、われわれの生きている現実世界はすでに燃える「火宅」であり、死からは免れ得ないという「無常戦略」とを対比。大震災に直面した今、この二つの神話的、古代的な物語が、われわれが慣れ親しんできた近代的な価値観を根底から揺さぶっているのではないか、と問題提起した。
 フロアの参加者も交えたディスカッションでは、被災地の大学への支援の在り方や、教員の地域貢献、震災の教訓を生かした大学づくり、復興財源の確保策などについて意見交換が行われた。
記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞