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記事2011年5月23日 2205号 (3面) 
低炭素社会実現 に取り組む私学H
獨協大学
自然エネルギーも活用 省エネ、創エネ ノウハウを地域にも拡大
 東武伊勢崎線松原団地駅前の高層団地を抜け、伝右川に架かる獨協さくら橋を渡ると、広い人工芝グラウンドの先に獨協大学(梶山皓学長)東棟が外観を見せる。東棟は、獨協大学の「省CO2エコキャンパス・プロジェクト」の一環として平成二十二年七月に竣工(しゅんこう)した。同プロジェクトは国土交通省の平成二十一年度の「住宅・建築物省CO2推進モデル事業」に採択された。
 プロジェクトのきっかけは、平成十七年に開催した「ドイツと日本の環境を考える―持続可能な社会を目指して―」のシンポジウムで環境先進国ドイツの取り組みを知ったことだった。地域にも貢献できる低炭素型社会のモデルを作ろう、これを機に環境共生研究所が生まれ、プロジェクトが立ち上がった。
 自然エネルギーも活用しつつ、ガス、電気を組み合わせて省エネと創エネをする。目指すのはエネルギーの地産地消だ。それを具体化した東棟にはさまざまな工夫がある。屋上から集めた自然光を一階まで導く。逆に一階から入った空気が最上階上部窓から出ていく風の道をつくり自然換気を行う。緑陰と植物の蒸散作用で、春秋の中間期は冷暖房には頼らない。さらに地下水位の高いことを利用して、井水による水を熱媒体に一階を床冷暖房にした。その予熱・予冷に地下水を使うことでエネルギーの使用量を削減した。
 また液晶画面などでエネルギーの使用状況の見える化・見せる化も図っている。
 学生に人気なのが東棟二階のキャレルブース。作り付けの家具は埼玉県産の間伐材で作った。間伐材の有効利用で林地残材からのCO2の発生を抑えることができる。三階屋上には、生物多様性や循環型社会を学ぶ環境教育の一助に、里山と菜園を作った。東棟建設中は、関係事業者と学生とが、豊かで持続可能な社会の実現について一緒に考える授業を行った。
 エネルギーの創出では自家発電として、太陽光発電システム、発電機能付きのGHP(ガス式ヒートポンプ)空調機器・チラー等を導入。現在、大学で使用する電力の一割を賄っている。キャンパス全体をエネルギー需要制御システムで常時監視し、ピーク時の負荷を制御する。これらによってキャンパス内マイクログリッドを形成している。
 今後、建設予定の学生センター(仮称)でも東棟と同様のシステムを導入するが、電気と熱を併給するコジェネレーションも導入し、温水シャワーにも使用する。
 獨協大学はこのノウハウをそのまま地域全体に拡大していこうと取り組んでいる。
 一つは、埼玉県が清流の復活を掲げて平成二十年から取り組む「水辺再生一〇〇プラン」。これに採択されたのが、キャンパスに隣接して流れる「伝右川の親水護岸」プラン。提案したのは犬井正教授・経済学部長・環境共生研究所長。護岸を石組みに変え、植樹帯を作り、生物が移動できるコリドーを作る。完成は平成二十四年以降だ。今後、伝右川の水を学内に引き入れて浄化し川に戻す、そのとき使う予定の水車で発電も考えている。
 もう一つ、文系の大学ならではの取り組みが、七夕の夜、草加市内の電気を一時間消して、市民と共に天の川を見ながらエネルギーについて考えようというもの。昨年は七月一日から二週間、埼玉県と草加市と獨協大学が一緒になって、深夜化するライフスタイルの見直しの社会実験を行った。夜十時以降、電気をできるだけ使わないようにして、イニシャルコストゼロで電気の使用量を五%削減できた。
 今、平成二十六年の創立五十周年に向けて、急速にキャンパス再編が進む。建物を再配置し、生物の多様性を育む上でも重要な水辺空間を作り、水田も作る。学生に田植えから収穫、食事までを体験させ、食料自給とフード・マイレージについて実感してもらいたいからだ。
 犬井教授は「われわれは電気の文明に疑いもなく過大に依存してきた。ハードではなく、ソフトでやれることに取り組むのが社会科学・人文科学系大学の役割だろう。自然環境とどう共生できるか、豊かな空間とは何かを考え、次の世代に伝えることが使命」と話す。
 さらに、経済学部に環境関連学科の増設を計画している。持続可能な社会を営むための経済人を育成するためだ。カリキュラムでは「フィールドに出ようと考えている。机上の空論でない学問の構築をやっていきたい」(犬井教授)。
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