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記事2010年4月23日 2168号 (4面) 
私立短大の挑戦 (9) ―― 湘北短期大学

 ユニークな教育活動を行うなどで評価を高めている短期大学の取り組みを、文部科学省のGPに採択された中から、幾つか紹介していく。(編集部)


「コミュニケーションリテラシー」
  現代型社会人育成を俯瞰する入学前教育開発 
 生徒参加の双方向型で後半はグループワーク主体


 文部科学省の平成二十一年度大学教育・学生支援推進事業〔テーマA〕大学教育推進プログラム(GP)に選定された湘北短期大学(米澤健一郎学長、神奈川県厚木市)の「現代型社会人育成を俯瞰する入学前教育構築」は、「コミュニケーションリテラシー」という講座名で実施されている。講座は全十五回。もちろん、同短大が独自に開発したプログラムである。
 今年二月に、この入学前教育「コミュニケーションリテラシー」を受講したのは高大連携校からの推薦入学者百八十五人だった。二月の四日間で十二回、入学後の四月に残り三回の授業が行われた。授業時間は一回九十分。すべての授業を終えると一単位が認定される。
 各回の内容は、@ガイダンス、Aメモの取り方、Bメモの取り方・アイデアの出し方、Cコミュニケーションの基本―話す技術、Dコミュニケーションの基本―書く技術、Eインフォマティクス―図書館の利用とインターネット検索、F情報の分析とMS―Excelの活用・グラフ化、G情報の分析とビジネスにおけるMS―Excelの活用・グラフ化、H問題と問題解決の技法、I問題解決―発散技法、J問題解決―収束技法、Kグループプレゼンテーション、LビジネスツールとしてのE―mail、M情報倫理、N貢献度と評価。授業は生徒が参加する双方向型で行われ、後半はグループワーク主体である。
 きっかけは平成十八年度特色GP「高大連携による地域教育ネットワークの形成」で、高大連携校の教員からの、推薦・AO入試で入学する生徒たちに適切な入学前教育、接続教育をしてほしいという要望だった。入学前教育は盛んに行われつつあったが、その大半は教材が送られてくるだけだったからだ。また、当時、高校に教科「情報」が導入され、湘北短大としても情報教育の内容を検討する必要があった。そこで、月に一度連携高校の教員とコミュニケーション教育研究会を開くことにした。
 同時にキャリア教育も改めて考えようと、「仕事に就いた際に必要とされる能力」について、連携高校の教員にアンケートをとり、さらに全国の高校五千校にアンケートを行った。その結果、高校生のコミュニケーション能力不足、問題解決能力がない、一般常識の不足が指摘された。
 こうした二年間のコミュニケーション教育研究会の調査・研究・討議から、接続教育プログラムとして、全十二講からなる「コミュニケーションリテラシー」を開発。平成十九年から連携高校からの推薦入学者を対象に開講し、二十年にはこのプログラムを単位認定科目とした。
 湘北短大の教育目標は「社会に出てほんとうに役立つ人材の育成」をすること。
 そのために、この入学前教育を全入学者に拡大し、生徒の勉学意欲の維持と勉強への動機付けを行い、リベラルアーツ教育全体を最適化しようというのが到達点だ。
 そのため、高校・大学・産業界から成るリベラルアーツ研究会が立ち上がり、湘北短大の「コミュニケーション力」とは何かを考え、それは「読み・書き・パソコン」+「社会人基礎力(経済産業省)」であると定義づけた。


初年次教育の前倒しの意味あいも
勉学意欲や友達づくりの効果


 一方でこの入学前教育は初年次教育の前倒しの意味あいもある。楽しくやさしく学べる工夫をすると同時に、従来型の講義を減らし、生徒が一緒に授業を作っていく参加型の双方向型授業とした。
 例えば第四回の「コミュニケーションの基本―話す技術」は、湘北短大のリベラルアーツ科目群「日本語リテラシー」の専任教員が担当。息の吐き方の練習、早口言葉を言う、お互いに話をする、といったことを、生徒たちはとにかくやってみる。これらはコミュニケーションの基礎の基礎。他者にものを伝える場合にとても重要だということを教えていく。
 第五回の「コミュニケーションの基本―書く技術」では、自分の高校を紹介する文章を書いてもらい、それを生徒同士が見せ合って、感想を書く。
 第七回以降では、ツールとしていきなり、エクセルを使ってみる。グラフを作ってみる。パワーポイントを使ってみる。アイデアの絞り込みをやる。つまり、ツールを使いながら問題解決の技法を学んでいくわけだ。
 ただ、受講している生徒たちの「情報」能力はまちまち。そのため、エクセルなどのソフトは、生徒たちが使いやすいよう、授業内容に合わせてパッケージ化している。中にはパワーポイントを上手に使う生徒もいて、生徒たちはお互いに学び合い、後半は活発に意見を交換するようになるそうだ。生徒たちの支援には、TA(ティーチングアシスタント)やSA(スチューデントアシスタント)が大いに活躍する。そうやって第十二回のグループプレゼンテーションまでもっていく。
 今年、「コミュニケーションリテラシー」を受講した生徒に感想を尋ねたところ、「高校と短大での勉強の違いが分かった」「問題を発見したり解決するための方法がなんとなく分かった」「入学前に短大の施設や先生方を知ることができた」「入学後、積極的に短大生活に取り組みたいと思った」など、おおむね狙い通りの効果が上がっているようだ。また「入学前に多くの友人ができた」と友達づくりにも役立っていた。
 平成二十三年度入学者のうち推薦入学の四百人に「コミュニケーションリテラシー」を受講してもらう予定だ。将来的には一般入試による入学者も含めた六百人全員に受けさせたいと考えている。
 学びのエッセンスが組み込まれた「コミュニケーションリテラシー」。行われていることの一つひとつが仕事をするためのスキルであり、これを高めていけばいいのだというゴールが見える。まさに、高校生に湘北短大の学びの全貌を見せる俯瞰する%学前教育である。


グループワークで問題解決

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