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記事2010年3月23日 2165号 (6面) 
ユニーク教育 (189) ―― 駒込中学・高等学校
回峰行など体験する「比叡山研修」
自分を深く見つめ、命の尊さ学ぶ


 「比叡山研修は、とてもきびしく辛かったけれど、普段の生活のありがたさや、当たり前を幸せだと思わなきゃいけないんだな、ということをすごく学べてよかったと思いました」
 これは駒込中学・高等学校(河合孝允校長、東京都文京区)が毎年五月、高校一年生を対象に実施している「比叡山研修」に参加した生徒の感想文の一節だ。十九回目となった昨年の「比叡山研修」は、五月二十六日から二十八日まで二班に分かれて実施された。同学園の名物行事として知られている。
 駒込学園の起源は天和二年(一六八二年)に上野の寛永寺に了翁禅師によって開かれた、天台宗の僧侶を育成する機関「勧学講院」にさかのぼる。
 同校は「一隅を照らす人間の育成」を教育理念に掲げている。この言葉には「どのような困難な状況の下でも一隅を守り、大切な教えを千里に照らす人間が国の宝であるという意味が含まれている」(河合校長)。河合校長はこの精神について、「人は成長するには、自分を磨かなければなりません。自分の内面をしっかり把握し、あらゆる機会、あらゆる体験を通して切磋琢磨することで、『一隅を照らす人』になることができるのです」と生徒に話している。
 「比叡山研修」はこの教育理念が最も表れている、同校ならではの行事といえる。研修では、延暦寺の担当僧の指導の下に、食事作法、清掃、坐禅止観、般若心経の写経、法話、回峰行などが行われる。食事作法では、音をたてずにすべてを食べる、茶とたくあんで食器をきれいにすることを体験する。この中で、生徒たちにとっては精神的にも体力的にも最も苦しい体験は、朝二時に起きて三十`を山登りする回峰行だ。
 回峰行を体験した生徒の感想文を読むと、一人ひとりにとって忘れがたい体験になっていることが分かる。
 「歩いて後ろを振り向くことはこんなにも簡単なのに、どうして前に進むことは難しいのだろうと思った」「途中でリタイアしようかなと何度も思いました」――。
 しかし、生徒がこの回峰行で得たものは大きい。
 「リタイアしようと思った。そのとき友達が『頑張ろう』と言ってくれたから、私は最後まであきらめず頑張れたのだと思います。私はこのとき、友達の存在の大きさに気づきました。とても感謝しています」「会館に戻って来られたとき、胸の中にはたくさんの友達への感謝、すがすがしさ、満足感、そして、胸いっぱいの充実感があふれました」――。
 腹痛や足の痛みに耐えながら、最後まで完歩する。ゴールでは、教員や先にゴールした生徒たちが出迎える。
 生徒たちはそれぞれの思いを持って、この研修に参加するが、研修は単なる旅行ではなく、自分を深く見つめ、命の尊さを学ぶことが狙いだ。
 河合校長は「自分の痛みや悲しみは、ほかの人も持っているのだと気づいたときに、親友ができるのです」と、この研修の意義を語る。
 「心を育てる教育と受験指導は矛盾しません。本校は、豊かな心を育てながら努力する生徒をしっかり励ましています」と河合校長は生徒を見守っている。
 日常生活では体験できない坐禅、写経、回峰行などを通して、生徒の血と肉となっている。


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