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記事2009年9月3日 2146号 (4面) 
私立短大の挑戦 (7) ―― 国際学院埼玉短期大学
教育GP『チュートリアル教育による教養教育の充実』
記念シンポで効果など講演
コミュニケーション力、協調性など
  私立短期大学を取り巻く環境が厳しさを増している中で、ユニークな教育活動を行うなどで評価を高めている短期大学の取り組みを、文部科学省のGPに採択された中から、幾つか紹介していく。(編集部)

 問題発見・解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を身につけることを狙いに、国際学院埼玉短期大学(大野博之学長、さいたま市大宮区)では、平成十四年度から全学必修の教養科目チュートリアルアワー「人間と社会」を設置し、その中でチュートリアル教育(問題解決型学習)を展開してきた。チュートリアル教育とは、討議形式で行う少人数グループ演習。この取り組みが「チュートリアル教育による教養教育の充実」として、平成二十年度質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)に選定された。
 その記念シンポジウム「チュートリアル教育による教養教育の充実―教養ある専門職業人の育成―」が七月十一日、さいたま市民会館おおみやで開催され、記念講演、シンポジウムが行われた。
 基調講演では、国際学院埼玉短期大学にチュートリアル教育を導入した橋本信也・国際学院理事・国際学院埼玉短期大学教育改革推進センター長が「チュートリアル教育のすすめ」と題して、次のように話した。
 現在、世界で普及してきたチュートリアル教育は従来の演習やゼミとは違う、新しく確立された理念に基づく教育のシステムである。基本的な特徴は三つ、@自己学習、Aグループ学習、B問題解決型学習である。Aグループ学習では、自己学習の結果をお互いに教え合う。B問題解決型学習は、与えられた課題の中から問題点を発見・解決するというPBL・プロブレムベースドラーニング(問題基盤型学習)である。
 英米ではこのチュートリアル教育が多く取り入れられるようになった。アメリカでは一九六〇年代、七〇年代にかけて大学教育が改革され、学生が学ぶのを教師が助ける教育へ変わってきた。学生に勉強する気を起こさせるには動機付けが必要で、それは「感動する」こと。動機付けを与えれば、学生は黙っていても勉強する。こうした考え方はアメリカの教育界ではクリティカルシンキングという概念で発達してきた。
 これは教育学だけでなく、経営管理学、医学などいろいろな分野で登用されている。まず現在の状態を分析する、そのためには情報を集め、その中から問題点を抽出し、問題点がはっきりしたら解決するための計画を立て、その計画を実行する、結果を評価し、さらに修正する。
 一九六九年、カナダのマクマスター大学医学部は講義をまったくやめて、チュートリアルをシステム化した教育を導入した。これは世界の教育界に強いインパクトを与えた。そのインパクトに応えたのがハーバード大学の医学部である。一九八五年からハーバード大学医学部はチュートリアル教育を本格的に導入、現在、講義は一日一コマ程度になっている。日本では医学部でこの方法が熱心に行われている。
 チュートリアル教育で大事なのは、グループ内メンバーの相互教育で、各学生は与えられた課題の一部を分担して学習し、それをほかのメンバーに教える責任を持つ。これによって学生はチームに貢献しようという意欲にかられる、これが動機付けである。
 チューターの腕の見せどころはどうやって学生に関心と興味を持たせるかだ。
 学生はチュートリアルで勉強すると、自分の存在意義を実感できる、発表能力が身につく、友達の発表を聞くことで自分の足りない部分に気づく、説明することで自分が理解できていない点を知る、ディスカッションによって大事な問題とそうでない問題、つまり、緊急性と重要性の区別が分かってくる。
 注意点は、当然ながらチュートリアル教育だけでは幅広い学問教育を網羅しきれないこと。もう一つの問題は、チュートリアルに乗れない学生がどうしても出てくるので、そうした学生はチューターが個別に指導しなければならない、などと橋本センター長は話した。
 シンポジウムでは、塚越弘之・幼児保育学科長が座長を務め、「チューターの立場から教養科目『人間と社会』の成果と課題」と題して、最初に雨宮一彦・健康栄養学科教授が報告した。
 雨宮教授は、「人間と社会」では年間四課題(一課題当たり四回の授業)を取り上げている、短大一年では、前期の二課題は建学の精神および教育方針に関連する課題を設定し、後期の二課題は社会性のある課題を設定していると述べた。
 クラス担任制をとる同短大では、担任がチューターを務め、実際の課題設定も行う。昨年前期の雨宮教授の授業では、「みんなが支えた力」と題して新聞のコラムを参考にして作った。課題の大きな目的は、協調性と信頼。また、グループでの話し合いの論点を予想しておく。グループ学習の課題、自己学習の課題も考え、さらに目的達成のための方略を設計した。
 授業は、グループの話し合いでは進行役・記録役・発表役をその都度決めて進めた。自己学習では協調性について自己の経験を検証してもらった。最後に各学生にはリポートを提出してもらった。
 評価については、情報の収集ができているか、などを担任が観察・評価している。ピアレビューにより授業の改善を行っている、などと雨宮教授は報告した。
 続いて保育学科の後藤範子准教授が、二年次の事例を発表した。
 二年次は、海外研修を通した国際交流や、実習、就職活動を通して、社会との接点が広がることに注目して、テーマを設定している。平成十九年度の四月から六月の授業では、日豪関係について、具体例として、戦後すぐオーストラリア人ゴードン・パーカーさんと結婚した桜本信子さんを取り上げ、この夫婦と子供を通して日豪について考えた。このとき学生は、まとめ方についても話し合っている様子が見られ、各班で発表内容のまとめ方の方向性を導き、発表することができ、一年次と比べて成果を感じたなどと報告した。
 また「学習者の立場から教養科目『人間と社会』の学習成果」と題して三人の学生が報告した。
 専攻科健康栄養専攻一年の小田泰之さんは、「人間と社会」の授業では、他者の意見を聞くことで自分の意見を質の高いものへと昇華することができた、統合する力も身につき、社会問題に関心を持つようになった、などと話した。
 幼児保育学科二年の津田彩夏さんは、授業の成果としてコミュニケーション力の向上を挙げ、将来保育者となったときに、スムーズに人間関係を形成できるとともに信頼を獲得できるのではないか、などと話した。
 健康栄養学科二年の櫻井美里さんは、言葉のキャッチボールをすることで、会話を受け止める力、広げる力、伝える力、感じ取る力、まとめる力の五つの力を得ることができた、などと報告した。


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