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記事2009年9月3日 2146号 (1面) 
どう変わる私学振興策
マニフェスト等から見えてくる教育政策
衆院選大勝で民主党政権誕生へ

私学助成直接助成重視では私学苦境
教委見直しに不安要素


 八月三十日の衆議院議員選挙は民主党が事前予想を超える大勝、自由民主党が歴史的大敗となり政権交代が現実のものとなった。民主党の首脳は早くも各省庁の平成二十二年度概算要求については大幅な見直し方針を打ち上げ、予算編成作業も様変わりする。今後、教育政策、私学振興策はどうなるのか、詳細は不明だが、これまでに民主党が国会に提出した教育関連法案や選挙のマニフェストなどから見えてくる部分がある。民主党の政権下で教育政策はどう変わるのか、探ってみた。


 平成十八年四月、自由民主党が教育基本法改正案を国会に提出したのに合わせて、民主党は同年五月、「日本国教育基本法」を国会に提出した。同党の文教政策の基本方針を示す法案といえる。その第九条には「私立学校の振興」が盛り込まれており、建学の自由を保障し、国と地方公共団体は私立学校への助成と在籍者への支援に努めなくてはならないとしている。その際私立学校への助成(機関助成)に力を注ぐのか、個人への助成(直接助成)に力点を置くのかで状況は大きく変わる。直接助成が中心となれば、国や地域にとって貴重なインフラである私立学校は厳しい状況に追い込まれる。民主党が今後進める子ども手当(年額三十一万二千円)の支給、高校生に授業料軽減として年額十二万円から二十四万円を支給するといった政策と並行して機関助成がどのように行われていくのかが焦点といえる。
 子ども手当・出産手当には二・七兆円(二十三年度からは五・五兆円)、公立高校の実質無償化・私立高校生の学費負担軽減等には九千億円程度が必要と試算されている。
 そうした財源をどう捻出(ねんしゅつ)するのか、マニフェストでは教育予算そのものの増額の必要性を指摘しているが、予算の「無駄づかい」には厳しく臨む方針だ。
 民主党は今年四月、二十一年度の文部科学省予算について、同省担当官の出席を求め、「事業仕訳け」(必要度の判定)を行っている。この時は学力・体力調査、教員免許更新制、大学入試センター試験など六項目を中心に実施、学力等調査に関しては、悉皆(しっかい)調査への疑問が投げかけられている。教員をめぐっては子供と向き合う時間を確保するため増員し教育に集中できる環境を整備するとしており、また教員免許制度も抜本的に見直す意向だ。教員の養成課程は六年制(修士課程)とし、研修も充実する方針。
 また地方の教育委員会制度を発展的に改組した「教育監査委員会」を創設し、教育行政の責任者を首長に移管する。教育予算の安定的確保のため、教育財政支出について国内総生産(GDP)に対する比率を指標とすることも考えている。
 こうした教育委員会制度の見直しの中で私学の自主性・独自性を守る仕組みが損なわれないか、懸念する私学関係者もいる。現在、公立学校は教育委員会、私立は知事部局と分かれ、教委の影響が及びにくい仕組みとなっているが、それが一緒に扱われては、私学の独自性が打ち出しにくくなってしまう。公立と全く同じでは私学としての魅力はゼロということになる。小・中・高校の学習指導要領に関しては大綱化を促進するとしており、設置者及び学校の裁量権を尊重し、地域・学校・学級の個別状況に応じて、学習内容・学校運営を現場の判断で決定できるようにする方針。こうした方針は私立学校に受け入れられやすい。
 公立学校に関しては、保護者、地域住民、学校関係者、教育専門家等が参加する学校理事会が主な権限を持って運営する。地域コミュニティーの再生強化にもつながるとしている。教科書についてはデジタル化を進め、採択の範囲を広域採用から市町村、学校(学校理事会)へと段階的に移行する、としている。


漸進的に高等教育も無償化
国立大学運営費交付金削減見直しも


 民主党が公表している「政策集INDEX二〇〇九」や国会に提出した法案などを見る限り高等教育政策に関係するものは意外と少ない。近年、初等中等教育に関係する問題が社会的にクローズアップされてきたことから、そちらに重点が置かれたのだろうが、大学については「学生・研究者本位の大学」「創意ある不断の改革を現場から創発する大学」「社会に開かれ、社会と連携・協働する大学」を目指しており、「時代が求める人づくり・知恵づくりの拠点」として大学改革を進める方針。
 特にOECD諸国でも圧倒的に低水準の高等教育予算の見直しは不可欠で、また近年、傾向が強まっている産業振興的な側面ばかりでなく、学問・教育的な価値にも十分配慮していく考え。
 高等教育の機会の保障という観点からは、生まれた環境に関係なく意欲と能力に応じて大学などの高等教育を受けられるようにするとしている。国際人権A規約の十三条における「高等教育無償化条項」の保留を撤回し、漸進的に高等教育の無償化を進めるとしている。また奨学金制度を大幅に改め、所得八百万円以下の世帯の学生に対しては、国公私立大学それぞれの授業料に見合う無利子奨学金の交付を可能にし、所得四百万円以下の世帯の学生に関しては生活費相当額についても奨学金の対象にする。
 国立大学法人に関しては、運営費交付金の削減方針を見直し、大幅に削減されてきた国立大学病院運営費交付金については、地域高度医療の最後の砦などとして速やかに法人化直後の水準まで引き上げ、引き続き十分な額を確保する方針。
 医学部学生を一・五倍に増やし、医師数を先進国並みにする。一千人当たりの医師数は、日本が二・一、OECD平均は三・一。
 大学入試に関しては、大学入試センター試験・大学入試そのものの抜本的な検討を行う。
 専修学校・各種学校についても財政支援を充実、教育制度上の位置づけを明確化する、としている。

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