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記事2009年7月23日 2143号 (6面) 
新理事長インタビュー  神奈川県私立中学高等学校協会
工藤 誠一氏 (聖光学院中学・高等学校校長)



公立は多様性を求めてよいのか
私学は教育課程に独自性を発揮


 神奈川県私立中学高等学校協会の理事長に四月一日付で、工藤誠一氏(聖光学院中学・高等学校長)が就任した。神奈川県の私立中学高校をまとめる協会の工藤理事長に生徒募集対策、私学助成対策、公立とのかかわり等について伺った。

 ――私学助成について、神奈川県の場合、経常費補助の生徒一人当たりの単価(高校は三十万千九百二十四円、中学は二十二万千百五十円)が他県に比べて低いのですが。
 工藤理事長 今年度、文部科学省の国庫補助の生徒一人当たりの単価は増えているのに対し、神奈川県の場合、逆に生徒一人当たりの補助単価は低くなっています。神奈川県では、経常費補助は標準的運営方式で算出していますので、どのような費目が対象になっているかによってこのような現象が生じてしまいます。本来的には国の政策としても、補助額を増大しようとしているのにそれが逆転しており、こうした矛盾を克服していかなければなりません。生徒が自由に学びの場を選ぶことができるような環境をつくっていくことが大事です。経済的な理由で好きな道を断念することがないよう、学びの場を確保できる継続的な努力をしていきたいと思います。
 私学は基本的に、時の政治や政策に左右されないところに特徴があります。だからこそ、私学が国民にとって存在する意味があり、国民の税金が私学補助に使用される意義があるわけです。
 ――振興大会を開催する予定は。
 工藤理事長 私学助成とリンクしていると思いますが、来年度にはぜひ開催し、私学の存在感をアピールしたいと考えています。
 ――生徒募集対策について、どうお考えですか。
 工藤理事長 中学入試で二千五百人、高校入試で六千人、合計約八千五百人が神奈川県から流出しているのが現状です。これをとどめる必要があります。神奈川私学の魅力を「神奈川全私学展」などを通して、訴えていくことが必要です。
 ――公私のあり方について、どのようにお考えですか。
 工藤理事長 税金立である公立に教育の多様性を求めることがよいのかという問題があります。公立の使命は本来、国民に均一な学力を保持させる平等性と、国民を統合し、一定の共通的な価値観を理解させることにあります。一方、私学が担っているのは教育の多様性です。本来的な公私の領域の分担から考えて、公立がその使命を逸脱してよいのかという問題です。
 ――現在、保護者のニーズからすると私学は進学重視へ、また公立は教育の多様性という方向へと向かいつつありますが。
 工藤理事長 そこに難しいところがあります。公立の改革は成果を早く求める手法で進められました。しかし、成果主義が強調されすぎて、現場の教師が疲弊し、逆にやる気を喪失しているような状況さえ垣間見られます。一例として、公立の中高一貫校では生活指導の面で、十分な指導がなされていないような状況が起きているようです。
 私学は従来中高一貫教育を行ってきましたので、この分野で行ってきた教育に自信を持っています。大学進学実績だけでなく、生徒が次のステップへどうつながるかを示すことが大事です。私学で行われている教育の特色をさらに前面に打ち出していくことが必要です。



子供は泥んこの中で育成


 ――翻って、私学の独自性という点から公私の違いは。
 工藤理事長 私学は建学の精神に基づく教育をはじめ、宗教教育、男女別学教育、カリキュラムなどの点から独自性を発揮しています。大学進学実績という結果(果実)だけに魅力を出していくのではなく、建学の精神を教育課程に盛り込むところに独自性を示していく必要があります。その点で教育内容を強調しなければなりません。
 ――私学は建学の精神に基づいて人づくりを行っているという点が、公立とは決定的に違う点ですが。
 工藤理事長 私学は長期的にみた人づくりができるのに対し、公立は改革で触れましたが、成果を早く求める人づくりを行っているということです。公立は教育の平等性と国民を統合し共通の価値観を保持させるという基礎的な部分を担い、そのほかの部分は私学に任せるべきです。私学は公立の補完的な役割を担うのではなく、二十一世紀の日本の教育についてリーダーシップを取らなければなりません。
 ――最後に、私学のあり方については。
 工藤理事長 私の持論ですが、「泥水論」ということを言っています。基本的に学校は家族に近い共同体ですが、この共同体は泥んこです。この中に子供や教師が居ます。子供は澄んだ水の中では大きく成長しないのです。泥んこの中でこそ、人間的魅力が培われます。私は、それが本来の教育のあり方だと考えていますし、私学の独自性が発揮される場であると考えています。ここが原点で、ブレてはいけないと思います。私学が存在する意味でもあるからです。

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