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記事2009年6月3日 2138号 (1面) 
教育安心社会実現に関する懇談会発足
教育費負担軽減へ
5人のメンバーで構成
具体的支援策などを討議 6月中に提言

 厳しい経済情勢下で、社会のセーフティーネットとしての公教育の機会を確保する観点から、教育費の在り方、具体的には低所得者層を中心に教育費負担の軽減策等を検討する「教育安心社会実現に関する懇談会」が五月二十五日、文部科学省に発足した。メンバーは安西祐一郎・慶應義塾学事顧問ら五人。早ければ六月中にも提言をまとめることにしている。


 教育費の問題は、塩谷立・文部科学大臣が今年二月三日、経済不況の深刻な中で発表した今後の重点施策「新しい日本の教育 いまこそ実行のとき!〜元気あふれる教育によって日本の底力を回復する〜」の中にも重点事項として位置づけられていたもので、その中では教育費に関しては、家計負担の軽減、公財政支出の在り方の検討を挙げていた。懇談会のメンバーは安西氏のほか、門川大作・京都市長、木村孟・東京都教育委員会委員長、橘木俊詔・同志社大学経済学部教授、中村邦夫・パナソニック株式会社代表取締役会長の、合わせて五人。六月一日には二回目の会合が開かれ、塩谷大臣は、「具体的に教育費の家計負担はこれくらいということを議論してほしい」とした上で、政府の安心社会実現会議や教育再生懇談会等でも教育費負担の問題が活発に議論されていることを挙げ文科省としても方向性を明確にしたいとした。
 この日は安西氏から意見発表があり、すべての国民が安心して教育を受けられる社会の実現には「教育の質の向上」「教育に対する国民の関心の増大」「教育への公的支援の拡充」の三位一体の改革が必要で、教育の質の向上には家庭崩壊のセーフティーネットの再構築、小中高校等では専科教員と支援スタッフの増員、高等教育に関しては情報公開義務化の拡大、分野別認証評価の促進などが必要だとした。教育に対する国民の関心の増大に関しては、地方自治体における教育の責任体制の再構築、学生を私的な受益者と見立てる受益者負担の原則は国公私立学校を問わず成り立たないことを明確にすること、奨学金を返済しない学生等への明快な対応などが必要としている。
 続いて経済産業省の産業構造審議会基本政策部会の平成十九年十月の報告書を引用して、経産省の考え方等を発表した橘木氏は、人的資本(教育)の充実は我が国の経済成長と(社会の)公平性確保にプラスに働くものであり、特に人生前半施策(幼少教育、高等教育や職業訓練等)の充実が重要とした。
 このほか教育安心社会の実現のためには、家庭や地域社会が崩壊する中で、家庭に対しても臆せず積極的にサポートしていくこと、一端社会に出た後再び学校に入学するなどやり直しのきく社会の実現、キャリア教育の充実などの必要性が指摘された。行政が家庭に立ち入ることに懸念を示す委員もいたが、文科省としては、先の教育基本法改正で家庭教育に関する規定が盛り込まれたことから、その具体化を検討していく意向で、厚生労働省とも連携を取っていく方針。


授業料減免や奨学金充実等
雇用への円滑な移行も


 この日の会議では文部科学省から「教育の費用負担の論点」が説明されたが、学校段階ごとの特性を踏まえ、具体的施策を検討していく意向。
 同省では学校段階ごとに「さらなる支援の検討イメージ例」を示しており、▽幼児教育段階では「幼児教育の無償化の実現」(保育・幼児教育を希望するすべての子どもに無償提供)、▽義務教育段階では「就学援助の充実」(義務教育の趣旨を踏まえ、低所得者への支援強化、どこの市町村に住んでいても就学援助をうけやすくするにはどうするか)、▽高校教育段階では、「授業料減免措置や奨学金などを充実」(進学率九八%を踏まえ、学ぶ機会を保障、どのような生徒を対象にどの程度の支援をするのが適当か、私立高校生の負担軽減をどう考えるか)、加えて教育から雇用への移行が円滑になるよう職業観・勤労観の育成等を進める▽大学段階では「授業料減免措置や奨学金事業の充実」、大学院段階では「給与型の経済的支援を充実」を図る(意欲と能力ある者への機会均等、大学院生の支援、高度の人材育成、どのような学生を対象に、どのような支援をすることが適当か、私立大学生の負担軽減をどう考えるか、高等教育段階でも教育から雇用への移行を円滑化する)▽大学・大学院卒業後では「奨学金の一部返還や返還猶予の期限延長などの特例実施」を想定している。
 今回の支援策例を見た限り、社会保障的な色彩が強い。安西氏も何度もこれらの施策は「ミニマム」(最低限)と指摘した。どれだけ教育環境や教育条件の向上にまで支援を広げられるかが鍵で、門川氏も私立幼稚園の教員の処遇面の低さを指摘、「幼児教育の無償化も大事だが、低い労働条件が改善されないままではいけない」と訴えた。


教育安心社会実現に関する懇談会の第2回会合(6月1日)

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