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記事2009年6月23日 2140号 (1面) 
教育は人生前半の社会保障
教育安心社会実現懇談会 7月3日にも中間まとめ
地方大学の運営支援
高校では修学支援の新たな仕組み検討

 社会のセーフティーネットとしての公教育の機会確保の観点から、教育費の在り方を考えるため五月に発足した文部科学省の「教育安心社会の実現に関する懇談会」の第三回会合が、六月十七日、東京・霞が関の東海大学校友会館で開かれ、これまでの議論をまとめた「教育安心社会の実現についての議論の整理(案)」が示され、これに基づいた議論が交わされた。


 議論の整理(案)では、教育の目的をどのように考え誰が教育費を負担すべきかについて、教育は人生前半の社会保障(機会の均等)であり、社会の活力増進の原動力(将来への先行投資)になるとして、教育費は私的負担だけに委ねるのではなく公財政支出による負担によって支えることが適当としている。
 では、教育安心社会の実現に向けてどのような安心を保障すべきかについては、公財政支出による教育費の充実、とりわけ家計負担の軽減方策の充実が求められること、教育の質の向上を図るために教育振興基本計画に基づく諸方策を着実に実行していくための予算の確保が必要であること、学校段階ごとの特性を踏まえ検討することなどとしている。
 各学校段階での教育費負担の軽減策については、@幼児教育段階は、幼稚園就園奨励補助による無償化など、希望するすべての三〜五歳児が無償で幼児教育を受けられるようにすること、A義務教育段階では、低所得者層家庭の児童生徒に市町村の財政力に左右されずに就学援助を支給できるようにすること、B高校段階では、特に低所得者層家庭の授業料等の負担を軽減すること、修学支援に関する新たな仕組みを検討することとしており、例えば授業料減免の拡充・奨学金事業の充実改善・私立高校生の授業料の減免等を挙げている。
 C大学・大学院段階については、意欲と能力のある学生を支援することを基本的方向性とし、授業料の負担軽減を図るとともに低所得者層家庭の学生にきめ細かな負担軽減策を講じること、大学院段階ではTA・RA等を通じた実質的給与型の経済的支援の拡充を図ること、進学に関するフィナンシャルプランが計画できるような環境整備を行うこと、地方大学の運営支援による地方学生の進学機会を確保することとしている。施策例としては、学部段階では授業料負担の軽減や奨学金貸与人員の増など、大学院段階ではTA・RAの雇用の義務づけなど。地方大学の運営支援では、基盤的経費の充実、共同利用拠点の創設などを挙げている。
 また、ここでいう低所得者層家庭(父母子ども二人の四人家族で東京都区部在住の場合)とは、おおむね年収三百五十万円以下を想定している。
これに対し各委員からは次のような意見が挙がった。
 門川大作委員(京都市長)は、教育の目的の部分の文言はもう少し踏み込んで、子どもたちは世のため人のために学ぶのであり、そのことが幸せにつながる、すべての教育機関はそのためにあるということを明確に書くべきだ、また、想定している低所得者層家庭の年収基準は低すぎる、要保護所帯の一・五倍の四百万円程度以下とするのが適当だなどと述べた。
 木村孟委員(東京都教育委員会委員長)は、提言の冒頭には、多くの人が高等教育を受ければ国として国際競争力が高まるといったメッセージが必要だ、教育投資をすれば将来GDPが上がる、税収として帰ってくるなどのメッセージを出すべきだ、また、教育の質の向上には教員の質の向上が必要で、特にリーダーとなる教員を育成するシステムが必要だなどと述べた。
 安西祐一郎委員(慶應義塾学事顧問)は、意欲と力のある人は誰でも大学へ入学できるようにすべきで、そのくらい教育に力を入れないと先進国としてやっていけない、また大学院での基幹的人材の育成が大事だ、などと話した。
 橘木俊詔委員(同志社大学経済学部教授)は、インセンティブを高めるためには教員の待遇のアップも考えるべきだ、また、親の所得格差が子供の学力格差につながっているというがネーティブアビリティーをどう考えたらいいかを問題提起するなどと話した。
 塩谷立・文部科学大臣は、高校に義務教育と同じような就学支援を考える必要がある、低所得者への就学支援では具体的提言をしたい、高等教育も公私格差がある、負担軽減の具体的方向性について提言をいただきたいなどと述べた。
 七月三日の次回会合では中間取りまとめが予定されている。

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