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記事2009年3月13日 2130号 (1面) 
塩谷立・文部科学大臣に聞く
今こそ人材育成大切
教育費の家計負担軽減など検討
 塩谷立・文部科学大臣は二月三日、今後重点的に取り組む事項等をまとめた「新しい日本の教育 今こそ実行のとき!〜元気あふれる教育によって日本の底力を回復する〜」と「『心を育む』ための五つの提案〜日本の良さを見直そう!〜」を発表した。世界的に経済・雇用情勢が悪化する中で、日本が今後も活力を持ち続けるためには、今こそ、我が国の強みである人材育成、基礎科学の強化が大切との思いからまとめられたものだ。
 このうち「新しい日本の教育 今こそ実行のとき!」には重点的に取り組む七つの事項が示されており、「幼稚園から大学までの学校体系の在り方の検討」「家計負担の軽減、公財政支出の在り方の検討」「質の高い教員の確保」などが盛り込まれている。それでこれらの問題について塩谷大臣に詳細について伺った。(編集部)

 ――学校体系の在り方の検討とは、具体的にはどういうことですか。
 塩谷大臣 教育基本法を改正してそれぞれ学校種の位置付けをしなおした。公立学校でもすでに中学・高校の一貫教育が行われているが、小学校と中学校との一貫した教育、幼稚園・小学校や高校・大学の接続も問題になっている。それぞれ学校種間の接続が課題となってきているので、もう一度体系的に見直していく必要がある。
 私学は元々いろいろな試みをやっている。そうした私学のいいところも取り入れた形で各学校段階の接続の在り方も見直してみようということだ。具体的にどうしようということはまだ描いていないが、高校と大学の接続については、一つの改善方策として高大接続テストなどが検討されている。
 大学生の学力低下が指摘されており、また学力試験のないAO入試などもある。大学全入時代の中で高校・大学の教育の質の向上が言われている。日本の高校生は国際的に比較して勉強時間が少ないという調査報告もあった。
 学校体系の中でそれぞれが目標を持って確固たるレベルを保っていけるようなことを考えていきたい。
 当面は高大接続をどうするかということを考えたい。小と中、中と高、さらに幼稚園を含む接続の問題は、今後、検討していきたい。
 ――六・三・三制の仕切り直しということも含めてということですか。
 塩谷大臣 そうしたことに立ち入ることも当然出てくる。前々からの課題で、五・四がいいとか、昔の五年制中学校がいいという意見があるが、具体的な議論はこれからだ。
 ――今の学習指導要領は、学習理解の速い子には高いレベルの学習内容も学ばせ、理解の遅い子にはじっくり教える方針ですが、「飛び級」ということもお考えですか。
 塩谷大臣 それもある。個人的な意見だが、逆に成績が悪ければ、落第があってもいいと思う。義務教育レベルは皆一緒にという意識はあるが、本人のためを考えたら、落第もいいと思うが、なかなか現実はそうはなっていない。出席していれば上の学年に進級させている。
 ――家計負担の軽減、公財政支出の在り方についてはいかがですか。
 塩谷大臣 日本の場合、公財政支出が少ない分、家計負担が大きくなっている。
 特に最近の経済状況を考えると、大きな問題だ。地方の私学からも要望が来ているし、就学援助や奨学金、授業料減免による支援もやっているが、それでも中々厳しいという人もいる。
 保護者・生徒に支援策があまり知られていないということもある。
 先頃、支援策を分かりやすくまとめ、文部科学省のホームページに掲載した。積極的に活用してほしい。
 また、全体の家計負担の在り方、公財政支出教育費の在るべき姿についても形を作ってみたい。日本の教育費の問題の中での家計負担はこの程度を目標にしようといったことなどを考えたい。
 ――文部科学省は教育振興基本計画の中に数値目標を盛り込むに当たっては財政当局の反対にあい苦労されましたが。
 塩谷大臣 日本の教育に対する公財政支出の対GDP比は、OECD加盟国中で最下位ということがあった。われわれとしては目標の数値を盛り込みたかったが、かなりの抵抗があり、できなかった。
 しかし今後の目標は、教育費予算の拡大と家計負担の軽減。具体的に理論武装しながら、世論に呼びかけたい。
 将来、消費税の見直しの話が出たときには、社会保障とともに教育費も税制改革の中で考えていけるような世論形成もしていきたい。
 ――「パイ」を増やしていく努力をされると思うのですが、国公立と私立の教育費(公財政支出)には大きな格差があります。両者の垣根を低くするようなこともお考えですか。
 塩谷大臣 特に授業料の話では、公立小中学校は無償なので、常に国公私立のバランスは考えていかなければいけない。
 一方で少子化、大学全入時代の中で定員割れの大学をどうするかということも検討しないと、今までと同じように全部が全部継続できるということはかなり難しい時代になってきている。私学もそうしたことを考えてほしい。
 ――高等教育に関しては中央教育審議会に対して昨年、「中長期的な大学教育の在り方」について、今年に入ってからは、「キャリア教育・職業教育の在り方」について諮問されました。後者では職業教育に特化した高等教育の創設も出ています。財政問題以外で高等教育の課題はなんだとお考えですか。
 塩谷大臣 大学の教育の質の低下が一番心配なところだ。それぞれ特色を出していかないと、私立大学は今後、存在意義を問われてくる。
 入試の問題もある。私が受験した頃、大学入試の受験科目は九科目あった。そこまで多くなくてもしっかりとした学力把握のための方策を考えて学生のレベルを上げていかなくてはいけない。最初は敬遠されるだろうが、最終的にはそうしたことが理解され支持されると思う。
 ――質の高い教員の確保が重要ですが、教員養成に関してどのようなお考えをお持ちですか。
 塩谷大臣 教員養成ではもう少し実践的な内容を含めることが必要だと思う。
 かつては聖職といわれ、人格が高く、指導力もあり、人望もあり、ある面では誰からも尊敬される人が求められた。そういう点が教員養成の中で欠けていると思う。
 実際、学校で教育に当たるにはもう少し経験を積んだ方がいい。その中で本人の課題も分かる。今は早く現場に出て戸惑っている人が多いと聞いている。
 ――七つの重点項目には「校庭の芝生化、スポーツ、「外へ出る」活動への支援がありますが、具体的にはどのようなことですか。
 塩谷大臣 「生きる基本」として基礎学力の定着、道徳教育の充実と並んで体力の向上を挙げている。「外に出る」活動に関しては、私は外あそびを提案している。
 小中学生では内にこもらないで外でわいわい遊ぶ。高校生、大学生では海外に出ることも含めていろいろな体験をしてほしい。若者には好奇心やチャレンジ精神が今まさに無くなっている。海外に出てみようという若者が少なくなってきた。それに加えて職業観・勤労観の育成も「生きる基本」として特に重点的に考えていかなければいけない。


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