こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2009年11月13日号二ュース >> VIEW

記事2009年11月13日 2153号 (5面) 
ユニーク教育 (187) ―― 湘南白百合学園中学・高等学校
高校生模擬裁判選手権で3連覇
真実見極める目を養う

 八月八日、東京・霞ヶ関の弁護士会館の講堂クレオでは、「第三回高校生模擬裁判選手権」〈関東大会〉(主催=日本弁護士連合会、共催=最高裁判所・法務省など)の結果発表が待たれていた。そして、司会者が「優勝は湘南白百合学園…!」と告げると、会場は緊張からどよめきに変わった。湘南白百合学園高等学校(水原洋子校長、神奈川県藤沢市)が見事、平成十九、二十年に続き三連覇を成し遂げた。
 この大会は、参加各校の生徒が模擬裁判を行う経験を通して、刑事裁判の意味や原理を理解し、裁判員制度について知ること、物事の考え方や、それを表現する方法を学ぶことを狙いとしている。実際には、一つの事件を素材に、各校が検察・弁護チームを組織し、高校生自身の発想で争点を見つけ、整理し、模擬法廷で証人尋問・被告人質問などの訴訟活動を行っていく。今回教材となったのは、知人を散弾銃で撃ち重傷を負わせてしまった男が殺人未遂罪で起訴された事件。被告は「銃には散弾が入っているとは思わなかった、安全装置もかかっていると思っていた、銃は脅かすためだけに持ってきた」と殺意がなかったことを主張。今年は最高裁や法務省も共催となり東京地裁の本物の法廷四つが試合会場となり、裁判員裁判の一号事件を扱った一〇四号法廷も使用された。
 同校は、第一試合で検察側となり山梨学院大学附属高校(山梨県甲府市)と戦い、第二試合では弁護側の立場となって早稲田大学本庄高等学院(埼玉県本庄市)と戦った。検察側は殺人未遂を、弁護側は無罪を主張。争点は被告人の殺意の有無だ。被告人質問で検察側は散弾銃の模型を示したのに対し、弁護側の同校は散弾銃の図や部屋の見取り図を示し、人を殺そうとする故意がない点、被告人と被害者の良好な関係、被害者の証言の信憑性(しんぴょうせい)などの点を挙げ対抗した。
 同校のメンバーは、公募した高校二年生が三人、一年生が七人の十人。準備はまず昨年の模擬裁判選手権の様子をビデオで見るところから始まった。そして、刑事裁判の基本的な仕組みから専門的な尋問技術にも及んだ。裁判員制度については、司法改革の大きな背景から学んだ。本格的に練習を始めたのは、期末試験が終わってからの放課後と夏休みになってからだ。与えられた実況見分調書、供述調書などの教材集を読み込み、被告人や被害者の供述に基づいて芝居仕立てで事件を再現し、事件の経緯を理解することに努めた。生徒たちは「教材の中の事件についての情報量が多く、尋問内容を何度も書き直した」「正解のない問題を解くようで苦しかった」と振り返った。一方で、「とても楽しく充実していた」「弁護士と話すのが楽しかった」「一つのことに向けて頑張ること自体がとても充実していた」など、楽しいこともあった。
 準備段階で横浜弁護士会から三人が支援弁護士として指導に当たった。今年初めて横浜地方検察庁から検察官も一回派遣された。法曹としてのそれぞれの仕事の話も聞いた。八月五日には、横浜弁護士会館でリハーサルも行った。「弁護士の先生が大切にした点は丁寧に手を抜かず事実を追うこと、相手が困るようなルール違反の質問をしないで、フェアな訴訟活動を行うことだった」と、大会に携わってきた熊本秀子教諭は語る。
 同校は冒頭陳述の構成の良さ、尋問・質問の的確さなどが評価された。「高校生とは思えないような感じだった」と言う審査員の講評も納得がいく。熊本教諭が最も重きを置いたのは、「物事をいろいろな方向から考える視点をもつこと、その中から真実を見極める目を養うこと」だった。
 優勝の要因については、生徒たちは「フェアな態度で臨んだこと」「声は大きく、聞きとりやすくしたこと」「チームワークが良かったこと」「学年を超えて友情があったこと」「団結力があったこと」を挙げた。ここに同校が三連覇した秘訣がある。
 熊本教諭は「生徒たちには将来真実を見極める公正な目を持った市民に成長してほしい。このような法教育が実り、二十〜三十年後に市民全体の資質が向上し、より成熟した社会になっていたらいいなと思っている」と生徒たちに期待を託している。
 「この経験は言葉では言い尽くせないほどの喜びを得た」「精神的にも成長した」「言葉自身の重要性を学んだ」――など生徒たちは得たものは大きかった。



記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞