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記事2009年10月23日 2151号 (4面) 
少しずつ見え始めた「高校実質無償化」
年収500万円以下の世帯は増額
4段階程度の区分で助成額に差

 民主党連立政権がマニフェストで打ち出した「高校実質無償化」は、私立高校現場に大きな衝撃をもたらした。文部科学省による詳細な制度設計はまだ確定していないが、同省は来年の通常国会には関連法案を提出する意向だ。脱官僚・政治主導の中で政策決定のプロセスが以前より見えにくくなっているが、政務三役(大臣、副大臣、大臣政務官)の発言から、ようやく高校実質無償化のアウトラインが見え始めてきた。「高校実質無償化」は、民主党が実施を進めるマニフェストの中でも重点政策といえるもので、家庭の経済状況にかかわらず、すべての意志のある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会を作るためもの。
 具体的には公立高校生のいる世帯に、公立高校の標準授業料相当額(年額十一万八千八百円)を助成し、授業料を実質的に無料とするもの。
 一方、私立高校生のいる家庭に対しては、公立高校と同額の十一万八千八百円を助成し、また低所得世帯には、最大で公立高校家庭の倍額の二十三万七千六百円までを助成する――というもの。
 授業料助成の受給権は本来、家庭にある、としているが、各家庭に配ると事務手続きが煩雑になることや授業料以外に流用される恐れがある(例えばパチンコ代など)ことから、その金額を高校の設置者(公立では都道府県等、私立では学校法人)に支給する。私立ではその分、授業料から減額することになる。
 文部科学省の高井美穂大臣政務官が高校実質無償化に関して講演した教育セミナー(学びリンク株式会社が十月十九日に開催)では、大臣、副大臣、大臣政務官の政務三役による制度設計の検討状況を説明した。
 それによると、私立高校の場合、標準額の年額十一万八千八百円を超える授業料助成金(最大で倍額)を受けられるのは、年収五百万円以下の世帯とする計画。その中には四段階程度の区分を設けて、最も年収の低い層の世帯には最高額の二十三万七千六百円の助成を支給することにしている。
 同省では来年四月から授業料助成の支給を始めたい意向だが、標準額以上の助成金を受けられる家庭に年収の証明を提出してもらうなどの作業もあり、四月から支給開始できるかは不透明。
 高校実質無償化・私学への授業料助成に必要な財源は全額国費で賄う意向だが、各省庁が財務省に提出した平成二十二年度概算要求の総額が過去最高の九十五兆円にも膨らんだこと、その一方で来年度の税収は景気悪化から大幅に落ち込む見通しで、鳩山総理は早くも九十五兆円から三兆円以上の削り込みを各閣僚に指示しており、文部科学省の予算要求も削減は必至の情勢だ。文部科学省の二十二年度概算要求には、民主党が高校実質無償化と並べてマニフェストに掲げている大学生への奨学金の大幅拡充も事項要求として盛り込まれているが、これは項目のみの要求で、予算要求額は目下のところゼロというもの。今後、要求額を決めることになれば、文部科学省の台所事情はさらに厳しくなる。


文科大臣「私学助成の確保に努める」
一方で不安も


 こうした授業料助成が拡充される一方で、私立学校を支える屋台骨ともいえる国による私学経常費助成(私立高等学校等経常費助成費等補助金)が削減されては元も子もない。高井大臣政務官は講演の中で、「私学助成は削減しない。維持するつもり」と答えた。川端達夫大臣も私学助成の確保に努める意向を私学団体代表らに語っているが、年末の来年度予算編成の大詰めの段階で行政刷新会議等により削減される可能性はある。
 二十二年度の私立高校等に関する国の経常費補助金については前年度比四億円の増額要求をしているが、増額分はほぼすべて各都道府県が実施している高校生授業料減免事業への支援充実に使われることになっている。
 高校実質無償化・授業料助成を受けられる学校種について、高井大臣政務官は、高校のほか、中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部、高等専門学校、専修学校高等課程、各種学校で後期中等教育を与えていると思われる学校を想定していることを明らかにしたが、細かな点はまだ固まっていない。通信制高校の場合、授業料助成額は年額六千円程度になるものとみられる。
 さて高校実質無償化が私立学校関係者にとって大きな衝撃となったのは、公立学校は来年から無料との話がどんどん広がり、来年度入学生の募集にも大きな影響を与えるためだ。一方は無料、もう一方は有料という状況は、私立高校にとって大きなハンディとなる。文部科学省が十月九日に開催した高等学校実質無償化に関する関係団体との意見交換会で、日本私立中学高等学校連合会の吉田晋会長は、公立高校の無償化が実現する一方、私立高校に関しては有償部分が残ることを訴えたうえで、財源が限られている中にあっては、高校無償化の対象者については一定の所得制限を設けて低所得者層により厚い制度とするよう要望。また公私間格差がこれ以上開かないよう私学助成の拡充を求めている。

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