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記事2009年1月23日 2124号 (5面) 
トップインタビュー 「教育はこれでよいのか」
安部 修仁氏 (株)吉野家ホールディングス代表取締役社長
勇気を持って問題解決を


 株式会社吉野家ホールディングスは「For the Peopleすべては人々のために」を経営理念に掲げている。それは、人材が企業において最も重要な財産である「人材重視」の価値観にも表れている。
 同社の代表取締役社長安部修仁氏に、学校教育での人材育成を中心に、問題点などを伺った。

想像力、創造力が弱い
経験の積み重ね必要

 ――教育の現状をどのように見ておられますか。
 安部社長 小学校、中学校、高校など、それぞれの事情があると思います。私は教育の専門家ではないので、印象論となってしまうことを前提にお話しさせていただきます。例えば、学校で問題が発生すると、問題の原因を考え、対処・解決するということをしないで、管理・排除してしまうという印象を受けます。メディアなどの影響でその傾向があると思いますが、これは発生した問題に対して、解決しないで蓋(ふた)をしてしまうことになります。私はこのような教育環境に対して憂いを感じています。
 つまり、問題解決に向かって建設的で前向きな議論ができない、先生方には窮屈な環境になっているのではないでしょうか。先生方をはじめ、学校に携わっていらっしゃる方々は、このような環境にめげずに勇気を持って問題解決に対処してほしいと思います。
 その意味で、問題解決能力が欠けているのではないでしょうか。

 ――ほかに、能力という点で、欠けていると思われることはありますか。
 安部社長 一つは、過去から現在までの座標軸で考えれば、今話しましたような問題解決型の能力が弱い点があります。もう一つは、未来軸を考えれば、将来起きることに対して、何を用意して組み立てなければならないか、というイマジネーション(想像力)とクリエーティビティー(創造力)が、欧米に比べて弱いと感じます。

 ――先ほど話された問題解決型の能力を育成するには、どうしたらいいのでしょうか。
 安部社長 これは理論的に学ぶというには無理があると思います。この能力を身につけるには経験の積み重ねが必要ではないでしょうか。問題を解決することをやめると、永遠に問題を解決する術(すべ)を知らないことになります。問題に遭遇した場合、ここが大事な分岐点になります。理論的に学んだ知識だけでなく、体験から学ぶことが大事だと思います。体験を積むと、小さなことで挫折しないで済むようになります。

 ――学校教育でさまざまな体験が必要ということですか。
 安部社長 生徒や学生に対して、肥やしとなるような体験は必修です。この体験を学校教育の中でどのように取り入れていくか、難しいと思います。経験の大切さという点からは、「恥をかく」「ショックを受ける」ことが、自ら考える一番のきっかけとなります。なぜならば、独善的な考え方に陥らないからです。先生方も個々的にはいろいろ考えていらっしゃると思いますが、埋没している場合があるのではないでしょうか。

 ――安部社長ご自身、振り返ってどうですか。
 安部社長 私は失敗とか挫折を学習して生きてきました。昔親御さんは学校に自分の子供を預ければ、責任は学校とか先生には求めませんでした。今は何か問題が起きると、他人のせいにしてしまいがちですが、冷静に考えると、自分に原因が帰属しているという場合があります。社会では合理的に問題を解決できるとは限りません。自分の中で問題を解決し、次のステップのために、それを肥やしとして前向きに考え、その結果成長していくということも考えられるのではないでしょうか。そういう意味では、誤解される表現ですが、「恥をかく」というような不条理を経験することもあるでしょう。 

リーダーの養成不可欠
基礎となる 経験教育を期待

 ――これからの学校教育の目指す人材、あるいは人材育成について、考えておられることはありますか。
 安部社長 今まで、問題解決能力、想像力、創造力の育成についてお話ししました。企業にも当てはまることですが、学校教育を考える場合、リーダーの養成が必要だと思います。今起きている問題に対して、対処できること、未来に対して今と別の姿・形を明確にイメージして牽引(けんいん)していく能力――私はこの二つが、リーダーに求められている要素だと思います。これらの要素を備えた人材育成が必要だと思います。私は学校教育にも、リーダー養成の基礎となるような経験教育を期待しています。

 ――企業の経営者の立場から私立学校の経営について参考になることをお願いします。
 安部社長 企業の経営の延長から述べさせていただきます。
 企業では、ステークホルダー(利害関係人)と、その優先順位をまず決めます。それに沿って、分業の仕組みとして社長の役割と実践が考えられます。この原理は基本的には学校法人でも変わらないと思います。企業の社長は、従業員、株主、取引先、顧客などの利害関係人の利益に資することを考え、実践する立場にあります。この関係を明確にして、内部的には認識を共有することです。このように考えれば、問題はシンプルになります。問題解決に当たっては、複雑さ、迷い、曖昧(あいまい)さは少なくなります。
 立場を超えて議論を尽くした上で、決定する立場の人が役割に基づいて決定します。その決定を全員が尊重して従わなければなりません。意見が異なっても、決まった以上サポートすることが極めて重要です。
 学校の場合は、顧客を生徒・保護者と考えれば、生徒を育てるに当たって、理事長、理事会、先生、父母の会などがどのような役割を担うかということです。これを手続き論として明確にし、そのコンセンサスが必要です。時には、生徒・学生に厳しさを貫くことが必要です。それぞれの立場と役割は違っても、生徒の育成という目標は同じです。ですから、まず手続き論を議論したらいいと思います。そして、先生の個性や主体性を尊重し生かしながら、ルールに沿って決めることが必要ではないでしょうか。

 ――安部社長を支えてきたことはどのようなことでしょうか。 
 安部社長 私自身の一貫したステップを考えると、役割とか使命に徹してきたつもりです。何のために、誰のためにということを考えると、個人の感情とか個性といったものとは別に、そのときの自分の役割を優先してきました。問題に直面したときの対応がその後を左右します。真摯(しんし)に向き合い、これをクリアすると、たいした問題ではないと分かるのです。これを繰り返していくと、だんだん抱える問題の質が大きくなります。これがキャリアの蓄積だと思います。
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