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記事2008年9月3日 2108号 (2面) 
私情協が教育改革FD/IT理事長・学長等会議
大学の質確保戦略などで講演
欧州の先進的取り組み報告も
 私立大学情報教育協会(会長=戸高敏之・同志社大学工学部教授)は、八月七日、「大学、国、社会連携による学士力の強化」をテーマに、「平成二十年度教育改革FD/IT理事長・学長等会議」を東京・市ヶ谷の日本大学本部で開催。三つの講演と全体討議が行われた。

 基調講演では、鈴木敏之・元文部科学省高等教育政策室長(現・東京大学本部統括長)が「中央教育審議会での学士課程教育の構築について」を演題に話した。
 鈴木元室長は、目指してきたのはミッションの明確化とマネジメントの改革である、今や全入といわれ日本の大学はハードルが低くなってきている、と述べた。一方、ヨーロッパでは大学教育の質の保証について、学位および教育のフレームワークがあるだけでなく、これをPISAの評価で図ろうとしている。こうした中で、日本はどうするのか、議論しなければならない。学士力の設定については大きな議論の展開が予測される。また、専門分野ごとの力については学術会議に審議を依頼した。二〜三年で審議を深めていくが、国際的に通用するような分野ごとのベンチマークが必要だ。中教審の学士課程教育小委員会の「学士課程教育の構築に向けて」(答申案)の議論を踏まえて、また中教審の提言を受けて、文部科学省、国としてどのようなアクションをとるか、ということになるだろう、などと鈴木元室長は話した。
 次に、濱名篤・関西国際大学理事長・学長が「初年次教育における大学戦略と課題」と題して講演、次のように話した。
 戦略を練るためには、自分の大学が中教審の描く大学の機能のうち、どれとどれをメーンにするかを決めないといけない。現在、高校生は「勉強しなくても大学に入れる」とのメッセージを受け取っており、進学した大学の授業に困難さを感じるとの回答が二六・六%と高く、大学生活でも学生の三分の二はほとんど勉強していない。大学卒業後も、就職後二〜三年で退職する人を含めると、大卒者の半数がキャリア挫折している、これは大変なことだ。さらに問題なのは社会がこの現状に目覚めていないことだ。こうした中、中教審「学士課程教育答申」が大学に求めている主な対応の一つは、到達目標の明確化だ。これは、学士力プラス分野別の到達目標、検証・評価可能なアカウンタビリティーである。二つ目は、体系的・組織的教育課程編成を行うこと。キャリア教育・初年次教育は学士課程教育の一部であり、外国語コミュニケーション、ICT、リメディアル教育(正課外、入学前教育)が必要だ。三つ目は、単位の実質化だ。GPA(グレード・ポイント・アベレージ)の本格運用、シラバス改善などを行うこと。四つ目は、教育方法の改善として、双方向性の授業、体験重視を行うなどだ。五つ目は、質保証・評価の充実のために、PISA高等教育版のような共通テストによる質的評価をするか、などだ。学士力とは、ジェネリック(汎用的)知識やスキルの獲得であり、企業人になる人ばかりではないから経済産業省のいう社会人基礎力より、広範な意味を持つ。
 初年次教育の内容としては、(1)大学生活への適応、(2)大学で必要な学習技術の獲得、(3)当該大学への適応、(4)自己分析、(5)ライフプラン・キャリアプラン作りへの導入、(6)学習目標・学習動機の獲得、(7)専門領域への導入――などがある。世界の初年次教育の動向は、一・二年次におけるラーニングコミュニティー(協働履修)や専門科目と連動した地域貢献学習、学生自身の成長を測定・評価する方法の多用、共同体験によるキャンパスコミュニティーづくり、調査コースにおける批判的思考力の強調などだ。日本においても、双方向型のアクティブラーニングが必要であり、学生たちに自分の成長を自覚させるようなアクティブラーナーに育てることが重要だ、などと濱名理事長・学長は話した。
 最後に「欧州等における大学教員に求められる教育力」と題して加藤かおり・新潟大学大学教育開発研究センター准教授が次のように講演した。
 大学教員の教育力が欧州で課題となっている背景には、「知識(基盤)社会」「生涯学習社会」「グローバル化」がある。EU(欧州連合)やEC(欧州委員会)、欧州学長会議を中心に、一九九〇年代から議論と戦略的な取り組みが行われている。知識(基盤)社会の影響とは、知識の意味が変容し、体系化された知識の習得から、学習者自身が目的別に再構成する知識の重視へと、また運用できる知識理解のレベル重視へと移行していることだ。
 生涯学習社会の影響とは、知識労働の「生産性を高めるのは、働き手自身による動機づけと方向づけだけ」(P・ドラッガー『マネジメントU』)だとして、生涯が学習のプロセス(目標を立て、計画し、実行し、振り返る)であるとしているからだ。このため、教育においても、学習者の支援が重視される教育へ変わってきた。グローバル化の影響としては、学歴が国際的に通用することが必要であり、学位・教育プログラムの質の標準化が必要となっている。
 こうした社会の変容の中で大学教員に求められることは、(1)学生が理解を深めて知識創造にかかわれるような学生中心の授業や教育課程を計画・実践できること、(2)学生の学習を可能にする教育課程や教育体制を計画・実行できること、(3)大学や学部学科の教育方針・方策について、質の基準に照らして、学習内容や方法を分かりやすく説明し、質の保証に取り組めることだ。注意してほしいのはこのことはすべての教員に求められることだ。ヨーロッパではすでに大学教員の教授資格化(プロフェッショナル化)やその教育力証明の基準づくりへと動いている。例えば、NETTLE(大学教育レベルの教育者のネットワーク)による大学教育に関する欧州基準のメタフレームワーク作りなどだ。
 イギリスでは、二〇〇六年に大学教育の教育職能に関する基準枠組み(PSF)を作成、その中で学習者中心の教育デザイン・学習支援等を掲げている。また大学は基本的に修士レベルの教授資格課程修了証明の取得を仮採用中の新任教員に義務づけた。この背景にあるのは、欧州高等教育質保証協会が、ボローニャプロセス、ベルリンコミュニケの要請を受けて二〇〇五年に作成した「欧州高等教育圏における質保証のための基準およびガイドライン」だ。
 このことは、日本においても、大学教育が、ヨーロッパ同様、知識社会・生涯学習社会・グローバル化社会で活躍する人材、生き抜く人材の育成を使命とするならば、NETTLEやイギリスにおける教育職能の基準内容は最小限の要件ととらえ、教育システムや内容のみならず、教育者の質の保証も必要だと示唆している。わが国でも、国立大学法人のうち大学教育センター等のある大学では既に全学的な新任教員研修が実施されており、私立大学でも研修が実施されはじめ、教育力の基準作りの試みも始まっている。最後に加藤准教授は、この基本的な教育力の転換への取り組みに関しては、競争よりも、協働が必要なのではないか、と提言した。
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