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記事2008年4月3日 2095号 (3面) 
私立短大の挑戦 (6) ―― 国際学院埼玉短期大学
特色GP『卒業研究による短期大学専門教養教育の展開―短期大学士の質保証を目指して』
「卒業研究」論文を必修化
ハードル乗り越える力など育成
 私立短期大学を取り巻く環境が厳しさを増している中で、ユニークな教育活動を行うなどで評価を高めている短期大学の取り組みを、文部科学省の平成十九年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」「特色ある教育ニーズ取組支援プログラム(特色GP)」に採択された中から、幾つか紹介していく(編集部)。
 近年、学士の学位に対する質の保証がいわれる中で、国際学院埼玉短期大学(大野誠学長、さいたま市大宮区)は、短期大学としては全国に先駆けて「卒業研究」論文を必修としている。これは開学以来取り組んできており、教養豊かな人間性と専門性を持つ人材を育成するためのカリキュラムのひとつである。この取り組みが平成十九年度特色GPに採択された「卒業研究による短期大学専門教養教育の展開―短期大学士の質保証を目指して―」である。
 設置されている学科は、幼児保育学科と健康栄養学科。資格取得もあるなかで卒業研究論文を書き上げるのは、学生にとっては非常にハードだ。当然、教員のきめこまかい指導が必須となる。あえて課す狙いは、厳しいハードルを乗り越える力を付けること、そして問題発見・解決能力、情報活用能力、プレゼンテーション能力、コンピテンシーを育成し、さらにモチベーションの向上を図ることだ。
 論文を課すだけでなく、その中から優秀なものを選考し、二月に公開発表会を行っている。論文作成から発表会までのスケジュールは、まず一年生の一月の「卒業研究ガイダンス」から始まる。二月には内外に公開して行われる「卒業研究発表会」に参加、二年生の研究論文の成果に触れる。三月に「研究領域の希望調査と研究領域の決定」が行われる。
 二年生になるとすぐ、四月に「研究室配属」が決まり、教員の指導を受けながら、学生は研究テーマを決定する。指導教員一人が担当する学生数はだいたい二十人前後。五月から「研究活動」として調査・実験を始める。指導・支援はマンツーマンできめ細かに行われ、この中で人間力、コミュニケーション力を培う。
 卒業研究の授業は週に一コマしかないため、授業後の時間や夏休み期間を使って、文献・資料収集や実験・調査など大半の作業を行うことになる。
 九月には「研究班ごとに中間報告」が行われ、学生は、今後の展望を含めた報告を行う。
 十月からは論文・抄録作成が始まる。論文・抄録の書式は決まっている。構成は「はじめに」「方法」「結果」「考察」「おわりに(まとめ)」の五章とすること、論文量は一ページ千二百字で十一ページ以上などだ。学生はこれに従いパソコンで執筆する。さらにこの論文をもとに、パワーポイントで十分程度のプレゼンテーション画像(発表画像)も作る。十二月には論文・抄録・発表画像を全学生が所属研究室で発表する。そして、一月の指定期日までに論文・抄録・発表画像を教務課に提出する。提出日時は厳守。一分でも遅れると受理されない。
 論文等が提出されると二月の公開発表会に向けて発表者の選考が始まる。一次選考は指導教員が行う。論文評価にあたっては、教員によってばらつきがでないよう、学内統一評価基準に基づいて評価し、次いで、卒業研究論文評価委員会が、指導教員による評価の正確・公平・妥当性を確認して、論文の質の保証を行っている。二次選考では、指導教員の推薦する学生の中から学科代表を選考する。さらに、卒業研究発表実行委員会による三次選考が行われ、公開発表する学生を選ぶ。

学会で高い評価の論文も
就職、進学等に好影響 博士も一人輩出


 平成十九年度の発表学生として選ばれたのは十九人。このうち短期大学生が十五人、専攻科の学生が四人だった。公開発表会は二月二十二日、大宮ソニックシティ大ホールで開催され、学生たちは、大画面に映し出された画像とともにプレゼンテーションを行った。当日は、全学生・教職員だけでなく、入学予定の高校生や保護者、卒業生、就職先企業関係者、実習先の関係者など、千人ほどが参加した。
 全学生の「卒業研究論文」は製本し図書館に永久保存される。抄録は「卒業研究抄録集」として、公開発表は「卒業研究発表会報告書」として出版する。発表会の様子はビデオ収録し、一年生の指導に役立てている。また、平成二十年度には、国内外の大学と共同で研究発表会の開催も予定している。多様な学生が入学してくる中、学生の質向上には、まず教職員の指導力の向上が欠かせないと、毎年一泊二日の合宿形式で教育ワークショップを行うなどFD・SDを実施している。
 学生の卒業後の進路を見ると、大半が就職する。企業からの評価も高く、当然就職率も高い。
 一方で、卒業研究を契機にもっと勉強したいと、卒業生の約一割が進学する。同短大には一九九五年から大学評価・学位授与機構認定の二年課程の専攻科が設置されており、その専攻科から大学院に進学した者のうち、修士九人、博士一人を輩出した。
 卒業研究論文の中には、日本栄養改善学会や日本消化吸収学会等関連学会で発表し、高い評価を受けたものもある。
 論文を書き上げると、学生は自信を深める。「わずか二年で、素晴らしい成長を見せる」と松本副学長は言う。



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