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記事2008年4月13日 2096号 (3面) 
東海大学チームがレースに参戦 「夢を乗せル・マンへ」
大学では世界初 林教授中心に学生ら30人で編成
工学教育に最適とレースの主催者を説得

  東海大学チームが今年六月に開催される第七十六回ル・マン二十四時間レースに参戦する。大学では世界初だ。メンバーは、工学部動力機械工学科の四年生、大学院生、卒業生合わせて三十人。率いるのは林義正教授。プロのメカニックとして入るのは林教授の盟友立山誠氏。チーフドライバーは米デイトナ二十四時間耐久レースで林教授と共に戦い優勝した鈴木利男氏。ル・マンでのチーム名は「TOKAI UNIV―YGK Power」。登録区分は最上位のLMP1クラス。レースでのカーナンバーは22番だ。始まりは、一九九四年、林義正氏が東海大学教授に就任し、学生の卒業研究のテーマの一つとしてレース用エンジン、レーシングカーを選んだことだった。以後、その研究は継続され、二〇〇〇年に開催された「東海大学モータースポーツフォーラム二〇〇〇」の席上で、研究結果をル・マンというアリーナで公表したいという話が出たことから、二〇〇一年、ル・マンプロジェクトが立ち上がった。
 肝心のエンジンは、委託研究で低燃費・高出力・低コストのYR40Tエンジンの開発に成功。このエンジンを載せる車、スタディカー(試作車)が完成したのが二〇〇五年。シェイクダウンテスト(初走行)は同年五月、仙台の国際公認サーキット・SUGOサーキットで行われた。さらに同年十一月には富士スピードウェイで三一一キロの記録をたたき出した。
 データも取れた。エンジンの特性も分かった。学生もレーシングカーを肌で感じることができた。いよいよル・マンへ。費用を工面し、フランスのクラージュ・オレカ社に車体の部品を発注した。それを学生達が組み立てている。
 しかし、大学の参戦は過去に例がない。林教授はフランスへ渡った。そして主催者側にこう力説した。新しい工学教育の場としてレースを使いたい。基礎の力学である材料力学や機械力学、流体力学、熱力学を使い、なおかつ新しい材料学、制御学を使うのはエンジンしかない、そのエンジンを載せた車はさらに複雑なもの、学ぶにはモータースポーツが最もいい、と。主催者側はそういう考え方もあるのかと感動してくれた。手応えは十分だった。そして、今年二月十九日、主催団体の公式サイトで発表されたエントリーリストには、東海大学チームの名が掲げられていた。

松沢・神奈川県知事も応援

 取材させてもらった三月末、校舎内の作業場では、組み立て作業が急ピッチで行われていた。
 レース本番では学生もピットに交代で入る。バックヤードの仕事もある。その技術訓練も始まった。
 四月中旬に国内でル・マンカーのシェイクダウンテスト。五月二十日にはル・マン市到着予定。六月一日、テストデーに参加。九・十日車検。十一・十二日予選。レース本番は十四・十五日だ。
 多額の渡航・滞在費は学生の個人負担である。世界初の学生を支援しようと、三月末、松沢成文・神奈川県知事を発起人とする「学生支援サポーター」の募集も始まった。
 ル・マンプロジェクトを通して学生たちは大きく成長した。ル・マンを学生にと考えた理由を林教授は、「われわれが今使っている車の技術がこうしたレースから生まれていること、ヨーロッパ全体で支えているモータースポーツ文化というものを味わわせたかったこと、なにより極限の二十四時間、八六、四〇〇秒の意義を考えてほしいから。ル・マンで二十四時間戦うと、人生観が変わります」と話す。
 プロジェクトに情熱を注いだすべての学生の思いを乗せて、東海大学ル・マンカーが、六月、フランスのサルトサーキットを走る。

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