こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2008年3月3日号二ュース >> VIEW

記事2008年3月3日 号 (2面) 
安全教育のこれまで・これから
日本女子大学シンポを開催
児童殺害事件の背景に地域崩壊等
体験通じ安全基礎体力作り必要
日本女子大学(後藤祥子学長、東京・文京区)は、三月一日、目白キャンパスで「子供の犯罪からの安全教育総合シンポジウム『2008安全教育のこれまで・これから』」を開催した。このシンポジウムは文部科学省の平成十八年度資質の高い教員養成プログラム(教員養成GP)に採択された「子供の安全確保のための大学院教育の構築」の研究成果を公開発表したもの。
 シンポジウムの第一部(午前)では、子供被害事件の報告と分析が行われた。平成十七年十一月に広島市安芸区で起きた小学一年女児殺害事件については、田中賢・日本福祉大学准教授が報告した。事件は下校途中の女児が連れ去られ遺体となって発見された。犯人は通学路途中の木造アパートに住んでいたペルー国籍の男性だった。事件後、矢野西地区は、通学路を再点検し、死角を生む樹木を切り、生い茂った雑草を刈った。
 土田真理子・広島市立矢野西小学校長によると、事件後同小学校では集団登下校・親子同伴(当番制)を実施、地域の人は下校時間に合わせ通学路に立った。二年経った現在、矢野西地区では、ボランティアの人に通学路の四十カ所のポイントに立ってもらっている。集団登下校は今も実施しているが、子供の班長にある程度まかせている。
 しかし一月二十二日の命日は「子供安全の日」とし、この日だけは親子登下校を実施。教員による登下校の指導や、一一〇番の家設置、防犯ブザーを持たせるなどしている、と土田校長は話した。
 栃木県日光今市市の事件については、積水ハウス株式会社ハートフル生活研究所の吉田健氏が報告した。今市の事件が起きたのは広島の事件から一カ月後の十二月。事件が連続したことで保護者の危機感は非常に高くなった。被害者はやはり小学一年女児。遺体は六十五キロ離れた茨城県の山中で発見された。犯人はまだ捕まっていない。事件後、この女児が連れ去られたとされている三叉路付近の樹木は一部伐採され、下草も刈られて、見通しは以前よりよくなった。しかし相変わらず不法投棄のゴミはそのままだった。
 兵庫県加古川市の場合については日本女子大学市民安全学研究センターの宮田美恵子研究員が報告した。加古川の事件が起きたのは十八年十月。被害者は小学二年の女児。公園から六時ごろ帰宅した女児が、自宅横で刺殺された事件だ。犯人はいまだに捕まっていない。加古川のこの地区は、元は農村で、広島と同じく大きな工場ができて新住民が流入してきた。現場付近は、通りに街灯がほとんどなく家の回りも植え込みで暗かった。被害女児の家族は離婚により一年前に隣接する地区から移転してきており、孤立していた。女児の家族は「浮遊する家族」であった。事件後、女児自宅前には街灯が設置されたが、そこだけ明るく、返って事件の現場だったことを思い起こさせる、と宮田研究員は報告した。
 また、田中准教授は、従来あった子供への「ゆるやかな見守り」が地域コミュニティーの崩壊で失われ、匿名化の進行や空間の死角の膨張が犯罪の背景にあると話した。
 午後の基調講演とシンポジウムでは、新たな地域コミュニティーを作ること、安全教育を推進すること、特に子供に体験教育をして安全基礎体力をつくること、安全な都市計画へと変えること、などが提案された。
(近く詳報)
記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞