こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2008年3月23日号二ュース >> VIEW

記事2008年3月23日 2094号 (2面) 
私立短大の挑戦 (5) ―― 植草学園短期大学
特色GP『障害に関する専門性を身につけた人材の養成
障害に関する専門性持つ保育者等育成
教育実習で高まる意欲

 私立短期大学を取り巻く環境が厳しさを増している中で、ユニークな教育活動を行うなどで評価を高めている短期大学の取り組みを、文部科学省の平成十九年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」「特色ある教育ニーズ取組支援プログラム(特色GP)」に採択された中から、幾つか紹介していく(編集部)。


 現在、保育現場ではADHD(注意欠陥多動性障害)やアスペルガー症候群などの発達障害の子供の受け入れが進んでいる。植草学園短期大学(小出進学長、千葉市若葉区)の調査によると、千葉県内の保育所・幼稚園の五三%が障害児を受け入れており、同約六〇%が「気になる」子供がいると回答している。
 そうした発達障害を含む障害に関する専門性を身につけた保育者や障害児者施設等の支援員の育成が、同短大の特色GP「障害に関する専門性を身につけた人材の養成」である。
 特色GPの柱の一つが福祉学科児童障害福祉専攻である。在籍する学生にとって卒業要件は厳しい。最低取得単位は九十二単位。他の短期大学と比べても格段に多い。多くの障害関連科目が必修として加わるからだ。「障害福祉論」「障害教育論」「障害児保育・教育と福祉」「発達障害心理学演習」「障害児保健」「障害児教育法演習」「障害児の生活」「教育実習U(特別支援学校・学級)」「総合演習(保育・障害支援)―卒研」などである。
 もう一つ、卒業要件として保育士資格と幼稚園教諭二種免許取得が課されている。
 さらに二年次に選択科目として設置されている「特別支援教育原論」「知的障害教育T」「肢体不自由教育」「学習障害・重複障害等教育総論」「言語障害教育総論」「障害児教育実習」等の十二科目すべてを履修すれば、特別支援学校教諭二種免許も取得可能となる。当然、学生にとって授業は過密となる。にもかかわらず、勉強が進むにつれ、もっと勉強したいと、学生の意欲は高まる。その切っ掛けとなるのは、一年次に置かれている特別支援学校・学級への「教育実習U」(一週間)だ。この実習から帰ると、学生たちが優しくなり、一皮向けたという感じがするという。「劇的に変わる学生も、毎年何人も出ます。障害を持つ子の『存在の重さ』がそうさせるのではないか」と佐藤愼二准教授は言う。
 二年生になると、幼稚園・保育所での保育実習が行われるが、実習先からは「植草の学生は障害を持っている子供であっても自然に接することができる」と評価が高い。
 正課以外でも様々な活動をしている。障害を持った子供を招待してのユニークな学園祭がその一つ。名物の巨大すべり台は、近隣の人たちや障害児たちが、みんなで遊べるアトラクションだ。模擬店は、特別支援学校や障害者施設・作業所作業製品展示即売会の模擬店と学生の模擬店が交互に置かれ、自然な交流が図れるよう配置される。特別支援学校の子供たちの和太鼓の発表会「心の太鼓フェスティバル」では特別支援学校が数校参加して競演する。昨年は四校が参加した。
 このほか、障害を持つ子供を対象に料理教室やウィンタースクールを実施、障害者参加の講座も開講した。さらに今後、障害関連のオープン講座も開催していく。

短大教員が幼稚園など支援
増える卒業生のリカレント教育のニーズ

 ボランティア活動も学生たちは卒業までに数回は特別支援学校などで行う。昨年十月、千葉県の特別支援フレッシュサポート事業(学生ボランティア活動)の本格導入に先駆けて、県教育委員会は県内の三つの大学にボランティアを要請、植草学園短期大学にも声が掛かった。
 体験も勉強も、障害に関してかなり深めて学生たちは卒業していく。ここ数年、就職率は一〇〇%だ。
 なかには、特別支援学校で働きたいと、もう一年頑張って、小学校教諭免許を取りにいく学生が毎年五人程はいるそうだ。
 保育現場で働く卒業生を対象に、アンケート調査を行ったところ、障害関連の勉強が「役に立っている」という回答が八割を占め、四割の人が「障害に関する知識や支援方法などをもっと学びたい」と回答した。卒業生の意識の高さと同時に、ニーズの高さもうかがえる調査結果だ。
 今年二月十六日に開催した講演・シンポジウム「障害のある子ども・気になる子どもへの保育現場での支援のあり方を考える」には、定員を大きく超える申し込みがあった。この公開講座はリカレント教育も兼ね保育現場で働く卒業生の参加も多くあった。このような講座は卒業生の評価も大変高く、そのニーズに応えてこの夏にも同様の公開講座を開く予定だ。
 また、植草学園短期大学と千葉市の私立幼稚園協会および千葉市の療育センターとの三者協定により、要請があれば、同短大の教員が幼稚園に支援に行くというシステムもできた。最近は、教育委員会や小学校からの依頼で短大の教員が、巡回相談員として支援に行ったり、特別支援教育に関する講演をしたりすることが多いそうだ。
 佐藤准教授は、「文部科学省も発達障害早期総合支援モデル事業を全国十数カ所で実施しており、いずれその規模は拡大されると思います」と話している。
 文部科学省では、発達障害を含む様々な障害のある児童生徒のための「特別支援教育支援員」の計画的配置を進めており、経費についても平成二十年度は財政措置約三百六十億円(支援員三万人相当)が講じられることになっている。

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞