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記事2008年2月3日 2089号 (3面) 
私立短大の挑戦 (1) ―― 実践女子短期大学
現代GP 学生と共に推進する地域食育活動プログラム
全学挙げて地域で食育活動
小学校での食材効柏燒セから 連携の輪広がる

  私立短期大学を取り巻く環境が厳しさを増している中で、ユニークな教育活動を行うなどで評価を高めている私立短期大学の取り組みを、平成十九年度の文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」「特色ある教育ニーズ取組支援プログラム(特色GP)」に採択された中から、幾つか紹介していく(編集部)。


  実践女子短期大学(湯浅茂雄学長、東京・日野市)の食物栄養学科が中心になって取り組む「学生と共に推進する地域食育活動プログラム」が、平成十九年度現代GPの「地域活性化への貢献(地元型)」として採択された。
 行政や地元農家、小中学校など、地域と連携したこの食育の取り組みは、平成十八年度の同短大の第三者評価でも思いのほか高く評価された。
 日野市は小学校はもちろん中学校でも給食を行っており、二十五年前から「地産地消」をモットーに全国に先駆けて食育に取り組んでいた。実践女子短期大学の教育目的は「実学尊重」「自立した女性」「社会貢献」。ぜひ、学生たちに地元での実践活動をさせたい、特に食物栄養学科の学生には、食物の生産から加工まで理解させたかった、と現代GP担当の白尾美佳准教授は話す。
 そこで、平成十五年に、食物についての話を子供たちにさせてほしいと、短大側から小学校にお願いし、給食前のわずかな時間をもらって、その日の給食に使われている食物の効能などを、絵などを使って説明したところ、低学年の子供もよく理解して嫌いなものも努力して食べようとしてくれた。そのことが小学校から評価され、同短大による食育への取り組みが本格的に始まった。
 現在では、給食前の五〜十分間に、食育プログラムに基づく食育活動を行うほか、総合的な学習の時間や家庭科などの教科の授業も学生たちが手伝っている。
 また、学童農園では地元農家の協力で無農薬の赤米(古代米)を作っているのだが、米作りを学生に手伝わせたいと農家に頼みに行ったときも、ちょっと体験したいだけの軽い気持ちだろうと見られた。本気だということを分かってもらうために、当時の短大部長をはじめ教員四人で芋ほりに行った。
 以来、学童農園の田植えから、炎暑の中での草取り、稲刈り、落ち穂拾いまで、食物栄養学科の学生だけでなく、全学科の学生が手伝っている。学生が授業でどうしても行けないときは、代わりにOGや教職員も動員する。GP採択後の秋、教職員と共に学長も稲刈りに参加したときは、さすがに地元農家の方が驚いて、とても喜んでくれた。
 いまでは、地元農家の信頼を得て、連携は深まった。それまでも小中学校は給食試食会に農家の人たちを招待していたが、短大が行う、食育の授業や学童農園の収穫祭でのもちつき・試食会にも農家の人に参加してもらうようになった。
 平成十五年くらいから、「安全でおいしい大豆を子供たちに食べさせたい」というある栄養士の提案で、日野産大豆プロジェクトが立ち上がった。もともと日野市は、安全性や地元農家の振興のためにも、学校給食に使う食材には地元産をできるだけ使ってきた。日野産大豆プロジェクトでは、栄養士、調理員、農家、行政、消費者団体、実践女子短大が連携して、大豆作りが始まった。昨年は五百キロの収穫があり、給食に提供するだけでなく、豆腐やみそも作った。中学校での豆腐を作る授業のときは、本職の豆腐屋さんに指導に来てもらった。

学習意欲高まった学生
伝統の「たらしやき」再現

 こうした実践が、学生にも変化をもたらした。小学生が怖いという学生は小学校で食育をやってコミュニケーションがとれるようになった。多くの学生が学習意欲が高まった。職業意識に目覚める者、物づくりの感動を味わったと言う者、自分たちで料理教室を開きたいと動きはじめた学生もいる。
 活動は今や実に多彩になった。子ども家庭支援センターでの乳幼児に対する食育支援や食育ぬりえ。児童生徒対象のテーブルマナー教室、地場産野菜を使った子供対象の料理教室「土曜のひろば」の開催。日野市生活保健センターの「健康フェア」での野菜料理レシピの配布。「成人高齢者のための食育講演会」の開催。公民館では英語コミュニケーション学科との連携による「英語でクッキング」が今年三回目を迎える。
 昔の農家が食べていた「たらしやき」を、商工会からの依頼で、産業まつりで再現・提供するなど食文化の継承にも一役買った、等々。いずれも好評だった。最近は、様々な相談が同短大に持ち込まれることもしばしばだ。
 平成十七年に食育基本法が制定され、県や市町村に食育基本計画の策定が求められていることもあって、現在、食育に対するニーズは非常に高いという。少額とはいえ、研究費や材料費が市から出るようになり、行政とのつながりも年ごとに深くなっている。
 初めの一歩は、学生のためにと頭を下げたことだった。継続できたのは、全学挙げての協力があったこと、地域の人たちの声に耳を傾け取り組み自体をフォローアップしたことなどから。
 同短大の食物栄養学科には、栄養士の養成だけでなく栄養教諭を養成する教職課程も設置されており、この地域連携活動は、学生にとっても貴重な経験となっている。
 白尾准教授は、「とても忙しいですが、閉じこもりがちな私たち教員にとっても、大変勉強になる。教え方も変わってきます」と言う。今、想定外のうれしいことも起こっているそうだ。


田植えをする学生たち

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