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記事2007年4月13日 2062号 (3面) 
大学全入幕開け二〇〇七年私立大学入試の特徴
私立大学志願者数二極化進む
志願者10万人超大学3校
一方で志願者減の大学6割に

大学全入時代の幕開けは、十八歳人口の減少にもかかわらず、景気の回復や就職状況の好転、センター試験利用入試の増加や試験日程の増加もあって、私立大学志願者総数は前年比四・六%増の二百三十四万九千人となった。ただし、志願者は都市圏の有名大学に集中し、志願者数が十万人を超える大学が三校も出る寡占状態の一方で、志願者が減少した大学は六割弱に達するなど、志願者が大規模校、有名校へ向かう傾向となり、二極化が一層進んだ。今春の私立大学志願者の動向を、大手予備校代々木ゼミナールの入試情報センターの坂口幸世本部長に聞いた。




 代々木ゼミナール調べによると、今年の私立大学の志願者総数は二百三十四万九千九十九人で、昨年より約十万三千人増加(前年比四・六%増)した。二〇〇六年入試では、私立大学出願者総数が前年より七万二千人減少し、全体としては前年比二・八%減だったことから考えると、今年は昨年の減少を補ってあまりある増加だったといえよう。理由として、景気回復や就職状況の好転があるが、加えて全学日程の導入や地方入試の増加、センター試験利用入試の増加などもあって、志願者が増加したとみられる。
 このうちセンター利用試験の出願者総数は六十三万三千三百四十四人と、昨年より約四万八千人も増えた(前年比八・三%増)。この理由には、利用大学数が増えていること、センター利用方式の増加、利用教科数の減少、受験料のセット割引の拡大などが挙げられる。また出願締切日を、センター試験後から、センター試験前へ変更したところも多く、それが志願者増につながったとみられる。
 学部・系統別に私大志願者数を前年比で見ると、特に増加した学部・系は、法・政治(法学、政治、行政)で前年比一一・四%増(約二万五千人増)だった。経済・経営・商も同五・四%増(約三万人増)となり、増加した分野は経済、経営・企業・ビジネス、会計・ファイナンス、商・流通だった。社会学も同三・一%増(約四千人増)で、社会学、社会情報・情報社会で増加した。これらは景気の好転や就職率の向上で、志願者が増加したと思われる。
 人文科学も同四・八%増(約二万三千人増)となり、宗教、史学・地理学、英米文学・文化、他の外国文学・文化、中国の文学・文化、国際文化・交流、外国語、教養・総合文化、心理学で増加、このうち教養・総合文化は前年より三〇%も増加した。人文科学でも、哲学、日本文学・文化、アジアの文化、教育学は減少した。特に教育学は、募集定員増にもかかわらず昨年に比べて二千人も志願者が減少した。景気が好転すると教員志望者が減少する傾向はあるが、加えて教育現場で起きている様々な問題が影響したとみられる。
 学際・総合(政策、環境、国際関係、情報)も前年比二二%増とすべての分野で志願者を増やしたが、なかでも政策は三八・四%も増加、この系統の増加を押し上げた。
 理学も前年比八・三%増(約七千人増)となり、数学・数理、情報、物理、化学、生物・生命科学、その他で増加した。大学の出前授業などで実験のおもしろさをアピールしたり、科学技術立国日本を標榜する国の施策なども影響したとみられる。
 家政学(児童、食物・栄養)は固定した人気があり、前年比三・五%増と、全体の志願者増と連動した伸びだった。ただし、児童では募集定員が増えているため倍率が低下している。
 工学は全体としては微増だったもののふるわず、機械、電気電子、材料・物質・資源、生物工学・生命工学の分野では志願者が増加、情報工学・通信工、化学、建築、建設・都市・環境は減少し、ばらつきが大きかった。
 今年は、昨年まで続伸していた医療・保健は、薬学とその他(理学療法士などリハビリ関係)の分野の志願者減で減少に転じたものの、医学、歯学では微減にとどまっている。このうち看護学のみは増加し前年比一三・七%増だったが、学科新設・募集定員も増えているため倍率は低下している。昨年大きく伸びた農学系が今年は志願者をわずかに減少させてはいるが、大きな減少ではないことから一定の人気は維持していると考えられる。今年も法・経・人文系が好調だったとはいえ大学間格差があり、有名大学では志願者が増加しているものの小規模校では必ずしも増加とはなっていないようだ。
 また社会学の中の社会福祉、医療・保健のその他(理学療法士などリハビリ関係)で志願者が六千人も減少するなど、景気の回復に伴い、昨年まで人気だった資格取得系が低迷した。

女子大の伝統校に志願増
志願倍率20倍以上も首都、近畿圏に


 主要大学のうち志願者数が昨年より増加したところを志願者数の多い順にみると、早稲田、明治、関西、立命館、法政、立教、中央、近畿、東洋、関西学院、慶應義塾、同志社、東京理科、龍谷、福岡、専修、明治学院、甲南、上智、名城、南山、京都産業、芝浦工業、成城、國學院、創価、北里、西南学院、獨協、日本女子、学習院、愛知、東京電機、同志社女子、武蔵工業、大阪経済、亜細亜、京都女子、愛知淑徳、武庫川女子、関東学院、広島修道、北海学園、桜美林、桃山学院、九州産業、昭和女子、関西外国語、大妻女子、麻布、共立薬科、京都橘、追手門学院、椙山女学園、藤田保健衛生、共立女子、北星学園、恵泉女学園、大阪産業などだった。
 このうち早稲田、明治、関西の三つの大学は志願者が十万人を超え、代々木ゼミナールの調べでは一九九六年に早稲田、日本、立命館の三大学で十万人を超えて以来のことで、大規模大学への受験生の集中が近年にない規模で起こったといえる。早稲田では改組やセンター試験の利用が行われたこと、明治は地方試験の会場を増やしたことや全学日程試験を実施したことなどにより志願者が増加したとみられる。法政は九万人と、立命館(九万八千人)に次ぐ志願者を集め、志願者数では上位から四番目だったが、増加率で見ると上位四大学をしのぐ二五・二%増となっており、大学改革や全学統一試験などで人気を高めたようだ。また、女子大の伝統校にも志願者が集まったのが今年の特徴といえよう。女子大には一定の人気があり、中堅女子大の共学化などで、女子大志向の受験者が有名校に集まったものとみられる。
 志願者の増減にかかわらず志願倍率の高かった大学をみると、二十倍以上の倍率だったのは早稲田、明治、法政、立教、甲南、成蹊、創価、共立薬科などだった。特に共立薬科は慶應義塾との合併が決まったことで四二・三倍と、昨年の倍以上の倍率(前年比一二五%増)で今年最も大きく伸びた。ただしこれは、卒業時には慶應義塾の卒業生となるため、実質的には慶應人気といえよう。このほか、十五倍以上の倍率だったのは、関西、中央、近畿、関西学院、同志社、青山学院、東京理科、龍谷、明治学院、上智、京都産業、芝浦工業、成城、國學院、佛教、京都女子、明治薬科、日本獣医生命科学、恵泉女学園などだった。
 地域別の志願者数を見ると、首都圏が百三十八万二千人(うち東京百四万六千人)、近畿圏が六十一万四千人、東海十六万人、九州沖縄が八万三千人、中国四国が三万千人、東北二万七千人、北海道二万五千人、北陸甲信一万三千人、北関東一万人の順だった。
 今年も、志願者のほとんどを首都圏と近畿圏が占める結果になった。ただ、首都圏・近畿圏であればどの大学も良かったかというとそうではなく、首都圏の大学のうち志願者が増加した大学の割合は四三%、同じく近畿圏で志願者増の大学は四九%と、やはり今年も伝統校に志願者が集中した。大都市部へ受験生が集まった分、地方の私大は今年はさらに苦戦を強いられたといえよう。地方にあってもその中心となる都市圏に位置するトップ校、例えば北海学園、北星学園、愛知、広島修道、西南学院、福岡などは、地元志向の志願者を集めて増加している。
 入学定員の規模別で、出願結果の判明した大学二百九十一校の志願者の増減をみると、定員五百未満の大学の六三%が昨年より減少しており、五百以上千人未満では七一%が減少している。一方で定員五千以上の大学では減少は一七%にとどまり、八三%の大学は増加していることからも、大規模大学しかも有名大学に志願者が集まっていることがわかる。

大学間、地域格差が拡大
小規模校でも特徴見直し必要


 全入時代が始まり、受験人口は毎年二万〜三万人ずつ減少していき、大学同士、また専門学校との競合は激化し、多くの学部・学科で定員割れを起こすのではないか。今年は、特定大学に受験者がさらに集中したが、こうした受験生の動きは今後も進み、大学間格差、地域格差が一層開くとみられる。代々木ゼミナールの坂口本部長は、「このところFD(ファカルティ・ディベロップメント)がどこの大学でも行われているが、実効あるものとなっているかどうか検証する必要がある。地方の大学だから、小規模校だから志願者が集められないということではなく、定員を見直し、自分の大学の特徴をもういちど掘り下げてみる必要があるのではないか」と話している。

受験生の都心志向
大学の都心移転進む


 受験生の都心志向もあって、ここ数年、大学の都心回帰が進んでおり、昨年も多くの大学が都心に移転した。今年以降も、法政、東京家政、立正、昭和音楽、跡見学園女子、帝京平成、産業能率、国士舘、國學院でキャンパスの移転が予定されており、青山学院も渋谷キャンパスの再開発が計画されるなど、当分、都心回帰が進みそうだ。今年から国公立大の一部で後期試験を廃止したが、私大への影響はほとんどなかったとみられる。

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