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記事2007年10月23日 2080号 (8面) 
ユニーク教育 (177) ―― 湘南白百合学園中学・高等学校
高校生徒による模擬裁判選手権
湘南白百合学園高校優勝、分析力・文章力等を評価
日本弁護士連合会主催の第一回高校生模擬裁判選手権(共催=東京弁護士会、横浜弁護士会など全国七弁護士会)の東京大会が八月十八日、東京・霞が関の弁護士会館で開催され、湘南白百合学園高等学校(水原洋子校長、神奈川県藤沢市)が優勝した。出場校はほかに、公文国際学園高校(神奈川)、都立武蔵高校(東京)、早稲田大学高等学院(東京)で、各校検察・弁護側に分かれて二試合ずつ白熱した論戦を展開した。
 この大会の目的は、刑事裁判の原則の理解と裁判員裁判の周知・普及、及び法教育に取り組む学校・弁護士の交流促進。
 形式は裁判員制度が導入されない現行法下の刑事裁判で、実際にあった窃盗・強盗致傷事件を素材としている。公訴事実は、男が住居に侵入、千円を財布から取り、主婦に発見されもみ合いとなり、指で眼球を突き包丁で手にもけがをさせたというもの。
 実際に作成された実況見分調書や被害者・被告人の供述調書が「教材集」(日弁連が作成)として五月に各校に配布された。各校でそれを読み込み、事前に裁判の争点を整理し、検察側・弁護側の各立場に立って、主張・立証活動を行う。シナリオどおりに「読んで」役を演じる従来の模擬裁判ではないので、非常に見応えがあった。
 この大会を通して一番苦労したのは「初めての企画で、何をどこまでやればいいか全く見通しが立たなかったこと」と話すのは、指導にあたった社会科の熊本秀子教諭。同校がこの大会への出場を決めたのは四月。それからは「学校を挙げて」取り組んだ。高校の全クラスで希望者を募り、応募者の中から中学社会科公民的分野レベルの問題と参加希望理由などを書かせる筆記試験などで選考し、六月初め一・二年生から代表十一名が決まった。
 裁判についてほとんど何も知らない生徒たちは、六月九日、日弁連から派遣された二名の「支援弁護士」(横浜弁護士会所属)より刑事裁判についての説明を聞くところから準備を始め、横浜地方裁判所に本物の刑事裁判の傍聴にも行った。定期試験と伝統的な行事である音楽コンクールで忙しい一学期、部活動が盛んな七月中はほとんど活動ができず時々一時間程度集まって「教材集」の読み合わせをしたり、支援弁護士から「尋問」についてのレクチャーを受ける程度であった。
 学習が本格化したのは八月からで、猛暑の中、朝八時半から終日「教材集」を読み込み分析し、争点や尋問事項について討議を続けた。試合に必要な検察・弁護人双方の冒頭陳述、証人尋問、被告人質問、論告、弁論の一回目の原稿ができたのは八月七日。そこから支援弁護士の指導を受けつつ試行錯誤して書き直しを続けた。十六日には、横浜弁護士会の計七名の弁護士の前で本番さながらのリハーサルも行った。
 この大会で生徒が学んだことは、「法に貫かれている精神、裁判での言葉の重要性、裁判で人が人の人生を左右してしまう重み」。
 同校の優勝は「三カ月間の準備だけで勝ち取ったものではなく、今までの本校のすべての教育の現われであった」と熊本教諭。翻って「今までの本校の教育」とは何か。
 同校は全国に七つの姉妹校を持つカトリックの女子校。幼稚園・小学校を併設し中高は六年一貫。本大会で一番要求された能力は、論理的な分析力と文章力及びプレゼンテーション能力で、同校は審査員にも特にその点を評価されていたが、それは中学から力を入れている「総合的な学習の時間」で鍛えられたものだ、と熊本教諭は分析。しかし何よりも、「極限状態になっても目標に向けて、最後まで最善のものを求めて努力を惜しまない姿勢があったことが最大の要因。それは授業、多彩な行事、部活、そして受験勉強と本当に多忙な学校生活をどれも手を抜かず頑張る、という白百合生の特徴である」とのこと。それゆえ一層学校を挙げて喜びにつつまれているのである。

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