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記事2006年7月23日 2031号 (6面) 
新世紀拓く教育 穎明館中学・高等学校
学習評価の改善最優先に一期制
学力と人格形成両立を大原則に
 穎明館中学・高等学校(堀越克明理事長、久保田宏明校長、八王子市)は、今年度から、年間を区切る学期の枠のない一年一期制を実施している。
 二〇〇二年度の学校週五日制の導入を機に、授業日数の確保を主な目的として、三学期制から二学期制に切り替えた学校は少なくない。しかし、学期の枠を全く取り払った一期制の学校は、ほとんど前例がないようだ。
 一期制を取り入れた理由を久保田校長に尋ねると、「学校五日制のために授業日数が足りなくなったことへの対策として、二学期制を選択することが流行現象のようになったが、本校の場合、単に日数を増やすという次元での発想ではない。学習評価の改善を最優先に考えた結果、一期制が目的に最もかなっていると判断したからだ」という。
 同校では、文部科学省の方針よりも数年早く、すでに約十年前から、絶対評価を採用している。生徒に配られるシラバスは、教科別に一冊ずつ作られており、そこには中高六年間を通しての授業内容や指導目標がびっしりと書き込まれている。進学校だけに、どの教科・科目でも、現行の学習指導要領のレベルを超えた高い目標が掲げられている。
絶対評価の信頼性
 絶対評価では、評価の基礎となるのは、それぞれの指導目標に照らして生徒がどの程度まで習熟・到達したかという観点である。その到達状況が「とくに高い程度において十分満足できる」と判断されたときには、「5」の評定が与えられる。穎明館では、「5」に対して「センター試験を受験すれば、九割以上の得点が可能なほどの高い学力」という重みを持たせている。
 それだけの対外的な客観性も備わった絶対評価となるためには、評価試験は十分に洗練された、信頼性の高い内容のものでなければならないが、従来の三学期制のもとでの評価方法には、この点で一定の限界が感じられたという。一期制は、より効果的な試験・評価方法は何かを、一年かけて検討するなかで出てきた構想であって、そのように考えると、「学期制を残す理由はなくなり、むしろ、それが邪魔になることがわかった」(久保田校長)。
 今年度の同校の「教育活動予定表」を見ると、確かに「……学期」という文字は全く見当たらない。四月初めの始業式のあとは、翌年三月下旬の終業式までの間、式典行事は三月初めの高校卒業式だけである。夏休みは、七月二十二日の「授業最終日」と九月一日の「授業開始」の間の期間ということになる。
単元テストの活用
 定期試験は、出題範囲がほぼ半年分の授業内容へと広げられ、実力テスト的な性格を強めたものとして、年に二回だけ実施されるが、定期試験と並んで重要な位置づけを与えられているのが、単元テスト≠ニいう新しい評価試験である。
 これは、一定の学習単元の授業が終了した時点で、その単元内容に関する生徒の理解の程度を確認するために、通常の時間割りの枠内で、教科別、科目別、学年別に単発で実施される。特定の単元に限定しての到達度テストであるから、目標がはっきりしていて、生徒にとってとりくみやすく、また、テストの結果が思わしくなければ、自分の弱点がどこにあるのか、すぐにわかる。
 教員としてもメリットは大きい。学期の枠に縛られた定期試験では、ある単元の授業が完了したかどうかということにはあまり関係なく、試験の時期に合わせて出題範囲を調整しなければならなかった。しかし、学期がなくなり、教科の主導で試験日程を自由に設定する単元テストであれば、時期を気にせずに、じっくりと授業を進めることができる。
 単元テストで基準点に達しなかった生徒には、指名補習などの事後指導を受けることを義務づけ、再テストで基準点をクリアするように努力を促している。このように、全教科・科目のすべての単元を一つひとつ確実に習得していくようにすれば、どの生徒もバランスのとれた、高い学力をつけることができるのである。
学力形成と人格形成
 穎明館が一九八七年に中高一貫教育を開始してから、今年で二十年目となる。開校後まもない草創期には、進学校としての基盤づくりのために、いわば学校主体の教育をおこなわざるをえず、五教科重視のカリキュラムで強力に学習指導を推進した。生徒の自主的な活動としては、あまり活発ではない同好会活動があるのみで、文化祭も生徒会もまだ存在しなかった。
 しかし、このような過程をへて進学校の土台もようやく出来上がったので、久保田校長が就任した一九九八年以降、学校主体から学習者主体≠フ教育へと転換を図り、学力形成と人格形成の両立≠大原則として、毎年、教育内容と施設・設備の両面で、さまざまな改善をおこなってきた。
 中高一貫教育の第十四期生による今年の大学入試成績は、東大・京大十人を含む国公立大合格者八十六人、早・慶・上智大合格者百十九人など、良好な結果であった。一方、部活動や学校行事も年々さかんとなり、学校生活は活気に満ちている。一期制で生じた日程のゆとりを活用して、今年から、マラソン大会が新しい学校行事として加わった。生徒の要望によっては、さらに新たな行事をつくることも考えている。
 一期制の開始に当たって、四月初めに全校保護者会が開かれ、一期制の趣旨や運用について、学校から詳しい説明があった。質疑応答もおこなわれたが、批判や疑問の声は皆無だった。学校に信頼を寄せているからだろう。「大学進学実績が向上しているのも、学力形成と人格形成をうまく両立させたことの結果だと思っています。一期制の定着も、こうした数年来の学校改善の流れに沿って出てきたものです。一期制が定着すれば、学力はいっそう向上し、また、学校生活もさらに充実したものとなっていくでしょう」(久保田校長)。

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