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記事2006年6月3日 2024号 (7面) 
ユニーク教育 (158) ―― 成蹊中学・高等学校
高校生による系外惑星探査
体験を通して知的好奇心、探究心育成
 第二回「小柴昌俊科学教育賞」の最終選考会・表彰式(主催=財団法人平成基礎科学財団)が三月二十六日、東京・東京大学で行われ、成蹊中学・高等学校(谷正紀校長、武蔵野市)の天文気象部(代表=宮下敦顧問)が奨励賞を獲得した。この賞は児童・生徒の基礎科学への興味と関心を高めるため、新しい発想と工夫に満ちた理科教育プログラムを開発・実践し、理科教育に関し著しい教育効果を挙げた団体または個人に対し贈られるものだ。
 同部の研究テーマは「高校生による系外惑星探査」。この研究は、系外惑星探査を同部の望遠鏡で、生徒主体に協調性を持って実行し、トランジット法による系外惑星の観測に成功したプログラムだ。
 「私たちは、学校にある望遠鏡を利用して、見えないものを見る、高校生がだれも見たこともないものを調べるということに挑戦しました」と、宮下教諭は高校生による未知への挑戦に意義を見いだす。
 同校は「個性を引き出し、人格の陶冶(とうや)をはかる」という人格教育の理念を教育の根本に置く。同校が大切にしていることの一つに、体験や実践を通した学習がある。本物を自分の目で確認することで、自分で考える力、知的好奇心、科学的探究心を身につけようとすることだ。
 系外惑星とは、太陽系以外の星にある惑星で、惑星が存在する証拠は発見されており、「地球形成や生命誕生の謎に迫る、天文学・地球惑星科学の最先端」(宮下教諭)の分野だ。同校が採用した、系外惑星を発見する方法はトランジット法と呼ばれるもので、地球から見て惑星が恒星の前を横切る際に、恒星の明るさが少しだけ暗くなることを検出する方法だ。同校の天文ドームには、直径十五aの自動導入装置付きの屈折望遠鏡(一九九九年導入)(写真)が設置されている。部員たちはこの望遠鏡と、冷却CCDカメラ(二〇〇一年導入)を駆使して、二〇〇三年から系外惑星探査に挑戦した。
 「テーマをきちんと選べば、高校生は自主的に研究します。学校の活動の範囲で行っていることで、無理やりやらせてはいません」
 二〇〇四年十二月に行った観測では、HD209458という、トランジット法で系外惑星の存在が確認されている天体について、明るさの変化の検出に成功した。ここで、高校生にも系外惑星探査ができることが証明されたのだ。
 「実は、変光星や超新星など、星の明るさを正確に測る方法は、二〇〇二年の部員たちが取り組んでいたのです。今では大学二年になっている学生たちです。少しずつ先輩から後輩へ伝えていったことが実りました」と成功の秘訣を語る。
 現在、部員は約二十人、コンピュータに強い部員、プレゼンテーションが得意な部員、イラストが好きな部員などが集まっている。週二回、星図を見ながら星の写真を撮ったり、コンピュータで画像処理を行ったり活動している。
 同部員のうち四人は国立天文台が主催する「すばるマカリィ・スクール」に応募した。その結果、世界でトップクラスを誇るハワイ・ハワイ島のすばる望遠鏡で観測するという貴重な体験をした。
 「私は教育的効果を狙ったのではなく、部員が新しいものが見つかるかもしれないという知的好奇心から始めたのが、かえってよかったと思います」と宮下教諭は述べている。

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