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記事2006年4月23日 2019号 (3面) 
トップインタビュー 「教育はこれでよいのか」 音楽で平和な世の中を
ソニー株式会社相談役 大賀典雄氏


【十五歳で将来、 音楽家になろうと決心】
 私が小学校から中学に入学した時、ちょうど太平洋戦争が始まりました。そして、戦争が終わった時、静岡県の沼津にいましたが、ほっとしたのを覚えています。日本は大企業も大きなダメージを受けて、作るものが何もない状態でした。
 将来、音楽家になりたいと思ったのはそのころで、私が十五歳の時でした。東京の日比谷公会堂で行われた、日本交響楽団によるベートーヴェンの「交響曲第九番」の演奏を聴いたのです。音楽の勉強をし直して、音楽によって平和な世の中をつくろうと、決心したのです。

【留学でヨーロッパの社会を学ぶ】
 一九四九年(昭和二十四年)、東京芸術大学に入学しましたが、本格的に音楽を勉強するためにドイツへの留学を考えていました。芸大を卒業後、当時は大学院がありませんでしたので、一年間専攻科に通いながら、留学のための準備をしっかり行い、専攻科を卒業後ドイツへ向かったのです。そのころ、ドイツのミュンヘンには五人、オーストリアのウィーンには七〜八人の留学生しかいない時代です。ドイツは日本と違い、戦後の状況から早く立ち直り、新政府の下で民主化を進めていました。
 音楽留学するということは、本場で音楽の技術を身につけるということだけではなく、ヨーロッパ音楽がどのような背景をもって育ってきたかを理解するチャンスでもありました。留学は有名な先生についてレッスンを受けることができますが、ヨーロッパの文化をはぐくんだ背景を知る上でも大事だと思います。
 私は若いうちにヨーロッパの社会全体を勉強することができまして、感謝しているのです。音楽を勉強していなかったら、留学はしていなかったでしょう。

身につけた能力は消えない
教育には適切な時期

【「絶対音感」について】
 私は、学力について、音楽でいう「絶対音感」と同じようなことがいえると思っています。音楽を志す場合、今の音はどの音かといえるような能力は六歳ぐらいまでに身につけなければならないと思います。この「絶対音感」ともいえる能力は一度身につけば、一生消えないのです。つまり、あることを教えるには何歳が最も適しているかということです。人間は本当の教育をするには適切な時期があると思います。
 何歳までに何を教えることが最も効率よく学ぶことができるのかを、科学的に解明することが必要なのではないでしょうか。その年齢に学べば、身につけた能力は一生消えない、そういう教育の研究が必要だということです。

【学力低下に対して真剣に考える】
 最近、日本の子供の学力低下が叫ばれています。実際、OECD(経済協力開発機構)が発表した調査では、日本の子供たちは国語の読解力や数学的なリテラシーが落ちているということです。日本の将来を考えた場合、たいへん危ぶまれます。小学校では授業中、子供が歩いたり、先生の方向を向いていなかったりして、授業にならない状態の学校があると聞きます。
 例えば、日本では掛け算の「九九」を覚える場合、一けたまでですが、これを二けたまで覚えさせる国もあるほどです。
 こういった意味においても、先ほど申しましたが、一度身につけた能力は一生消えないという教育をする必要がありますし、真剣に考えなければなりません。

中高一貫は素晴らしい制度
自由な発想でチャレンジ

【私立学校に大いに期待する】
 私の中学時代は旧制の中学でしたので、五年制でした。ここでみっちり勉強してから次の学校へ進学するというシステムでした。現在は、中学三年間、高校三年間という制度ですが、しっかり勉強ができるのでしょうか。
 私は、中学・高校六年間を一貫して学ぶことができる「中高一貫教育」は非常に素晴らしい制度だと思っています。中高一貫教育は最近、公立でも少しずつ行われているようですが、私立学校が草分け的存在です。
 率直に言いまして、日本の教育については、私立学校が頑張ってほしいし、大いに期待しています。

【あきないこと、あきらめないこと、あなた任せにしないこと】
 音楽家の道を志しましたが、その後ソニーの創業者である井深大さん、盛田昭夫さんと出会い、ソニー株式会社に入社し、経営者の道へと歩むことになったのです。そして、「電気」と「音楽」という二つにかかわることになりました。
 私は強さとは、あきないこと、あきらめないこと、あなた任せにしないこと、この三つだと思います。好きなことでも、持続するためには強い意志を持たねばなりません。
 そして、志を高く持てば、不思議に応援してくれる人が現れるものです。これからの日本を元気にするためには、自由な発想で新しいチャレンジをしていただきたいと思います。
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