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記事2006年11月13日 2048号 (1面) 
現場に配慮を 全国私学教育研究集会東京大会開催
未履修問題で近藤東京私中高協会長が実態に即し文科省に要請
私学経営部会 財政再建は私学振興から
市川昭午氏が指摘 公教育全体も活性化
 第五十四回全国私学教育研究集会が十一月九・十の両日、東京・港区の新高輪プリンスホテル国際館パミールを主会場に開かれ、全国から参加した私立中学高校の理事長、校長、教員ら約一千人が、私学経営や教務運営など十一の部会に分かれ今後の私学教育を研究協議した。このうち私学経営部会では今年の研究集会を企画・実施した東京私立中学高等学校協会の近藤彰郎会長が高校での「未履修問題」に触れ、学習指導要領の実施に当たっては、各学校ごとに生徒の状況等に応じた調整の必要性を強調、全国一律に学習指導要領の完全実施を求める文部科学省の対応方針に疑問を投げかけた。

 「私学経営について東京からの報告」と題し講演した近藤会長は、未履修問題にも言及、富山県の公立高校での未履修が発端となった今回の問題について「卒業は校長が決めること。(あの校長は)生徒に、卒業させるから心配するなというべきだった。卒業までに履修させればいいこと」とし、「受験後、三月に集中してやらせることが大正解。生徒を不安にさせないことが大事」などとした。また文部科学省の態度について「疑問が残る。現場や生徒のことを考えてほしい」と語った。
 現在、高校への進学率はほぼ一〇〇%。それだけに多様な生徒が入学しており、学校や生徒によっては、小学校の教育内容にまで遡っての学習やレポートによる代替など、少しでも脱落者を減らし学習意欲を引き出す様々な創意工夫が学校現場で行われている。
 反対に飛び入学制度では、高校の二年修了で大学に進学することもでき、さらに高校卒業程度認定試験もあり、生徒の多様化に合わせて様々な対応が取られている。
 一部の広域通信制高校では、いわゆるサポート校が通信制高校の課題の解答を生徒に教えるなど、不正履修といった実態も指摘されている。
 近藤氏の発言は、そうした多様化する高校教育現場、またいかに大学受験が生徒や家庭にとって大きな存在かを指摘した発言と見られ、未履修校を探し回る現在の風潮について「魔女狩りのようだ」と評した。かつて学校五日制の実施が始まった際、五日制を行わない私立学校に当初、文部科学省やマスコミから厳しい批判が集まった。その後、同省は五日制を強要しない方針に転換、最近では五日制への移行が学力低下問題の要因の一つとさえ言われている。
 私学経営部会ではこのほか、「私学の公共性と公費負担のあり方」を演題に市川昭午・国立大学財務・経営センター名誉教授が講演した。市川氏は、私学助成が公共性を根拠に行われていること、その公共性は教育課程や五日制などで私立学校が国公立学校にどれだけ似ているかが問われてきた。しかしこうした要求は私学の自主性を損なうことになると指摘。私立学校が自主性、独自性を発揮してユニークな教育を展開し、どれだけ公立学校と競い合えるかが重要で、私学による教育の多様化が学校教育に革新、生産性をもたらすことを強調した。その意味で、私学振興助成法が掲げる私学助成の三つの理由については説得力を持たなくなってきたとし、今後は私立学校が公教育全体に貢献していること、自治体の財政負担軽減に寄与していることなどを訴えていくべきだとした。仮に私立学校がなければ国と地方がその(教育機会の)分を負担しなければならず、少なく見積もっても負担増は五兆円以上になるとの見通しを明らかにし、国等の財政が苦しいからこそ私立学校の活用が必要だとも語った。

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