こちらから紙面PDFをご覧いただけます。



全私学新聞

TOP >> バックナンバー一覧 >> 2005年9月3日号二ュース >> VIEW

記事2005年9月3日 1990号 (5面) 
新世紀拓く教育 (32) ―― 中村中学・高等学校
中高校でキャリア教育実践
人間関係形成能力等6能力育成
本校(小林和夫校長、東京都江東区)は、中学・高校一貫教育を行っている女子校です。中高合わせて生徒総数は五百三十一人の小規模校です。
 今年三月に卒業した生徒は百十一人、国立大学有名私立大学合格率が飛躍的に上昇しました。教科教育については詰め込み教育をしているわけではありません。これは、二〇〇二年度からキャリアデザインをやり始めた、それが実ってきたのではないかと考えています。生徒には大学名ではなく、学部・学科、もっと言えばその学部・学科にいる先生の専門を調べて、自分の志望に一番ぴったりしているところを選ぶという傾向が出てきました。
 中学・高校の六年間で六つの能力を育てるようにしています。中学一年で最も重視しているのが「人間関係形成能力」です。人間関係形成能力を高めていくために構成的グループエンカウンターという手法を取り入れています。構成的というのはリーダーがいて指示を与えて動くという意味です。学年全員五十七人を集め、グループ分けをし作業やトークを行い、いろいろな人間関係を体験する。「自分に出会って、他人に出会う」というプログラムです。これは中一から中三まで続けていきます。この中で例えば、中一対象に「フワフワ言葉とチクチク言葉」というのをやりました。フワフワ言葉は、例えば「おはよう」「やさしいね」というように、言われるだけで気持ちがいい、気持ちがふわふわしてくる言葉です。チクチク言葉は、例えば「きもい」「うざい」「意味わかんない」といった言葉です。それを実際に言い合って、どういう気持ちになったのかということを体験してもらいます。その際、臨床心理士と担任が協働します。
 臨床心理士は治療的カウンセリングができますが、本校では、治療というより、予防・開発的要素が多いようです。臨床心理士がグループエンカウンターをやるのは珍しいことです。
 中二では、「情報収集活用能力」を高めるために職場体験を行っています。生徒は学校が用意した職場に行くのではなく、自分で職場を探すところから始めます。生徒が行きたい職場を探すために我々職員が電話する件数は百件とか百五十件にも及びます。非常に大変ですが、生徒たちは自分で選んだ職場なので、一生懸命体験して帰ってきます。
 体験後は報告書を書いて発表会を行い、全生徒で情報を共有します。学年生徒数が五十七人ですと、生徒たちには五十七通りの職場情報が入ってきます。その多種多様な情報を参考にして、職業観、勤労観を育てます。
 中三では「意思決定能力」です。一カ所の保育園で全生徒が実習します。そうすると友達が幼児にどう接しているか、自分との比較ができるわけです。そうして自己を見つめる作業をしています。
 高校一年では「将来設計能力」を培う目的で、もう一度、職業調べを行います。その際、適性を調べるために、リクルート社の「R―CAP for teens」を採用しています。これはフォーマルアセスメントですし、学問適性・職業適性の両方が出ます。この適性検査をやりつつ、インターネットや情報誌などいろいろなものを調べていくわけですが、高校一年生百二十数人分の職業が挙がってきますので、これも一冊の冊子にし、その後発表会をして、情報を共有します。
 高校二年生では「自主自律型学習能力」を挙げています。私どもは自律ということを最も大切にしていまして、自己抑制・自己コントロールということにプラスして、自分で自由に決定する、選択するということを、体験型プログラムでやっていこうと考えています。例えば、高大連携プログラムとして大学へ行き大学生と同じ授業を受ける、また大学へ行って情報を収集するといったことで、自主的・自律的に学習する能力を高めていくということを行っています。高校三年生は「キャリア探索能力」ということを挙げていますが、受験もありますので、プラン・ドゥ・チェック・アクションというサイクルが自分でできるよう、高三までに育てておきます。
 私たちは生徒の活動をサポートするために生徒の情報ファイルを作って、そこには各教科の弱点や学習習慣、興味・関心などすべてが入っています。これは個々の生徒への対応時の一つの資料と考えています。
 ただ、生徒だけにキャリア教育を行ってもなかなかうまくいきません。そこで、保護者向けに「保護者キャリアガイダンス」を行っています。
 進路決定に際して、保護者の影響は非常に大きく、親の意向で、生徒がキャリアや進路を考える気持ちが少し抑え込まれて、あるいは思い込まされて、気づいたときは遅いということがありますので、保護者の方に「進路というのは大学受験ではありません。お子さんが進む路です」とはっきり申し上げています。
 進路は大学受験ではないので、キーワードとして三十歳の自分を考えていきましょうと言っています。三十歳というのは、女性の平均勤続年数が八、九年ということ、もう一つは、結婚・出産・育児・夫の転勤・看護・介護などがあるということを踏まえて出てきた年齢です。男女平等とは言っても、現実にはそういうことが起こってくる。現実から目をそむけるわけにはいきません。
 もう一つは発達心理学的にもいろいろな学者が三十歳は実現段階に入るだろうと言っていますので、そういうことも考えて三十歳としました。
 キャリア教育の方針は、一つは自主自律の精神の育成、二つ目はキャリアデザインの構築です。これから世の中を生きていくためには生涯学習という概念が大切になります。それを踏まえてまずは三十歳の自分を考えようということで、六年間の中でトレーニングをしていきたいと思っています。六年間で一度キャリアデザインをしておけば、大学に入っても、社会に出てからも、何度でもデザインし直すことができるのではないかと考えています。

 本稿は、同校の永井哲明進路指導部長(キャリア・カウンセラー/上級教育カウンセラー)の講演(5月14日の法政大学キャリアデザイン学専攻開設記念シンポジウム)から作成したものです。


清澄庭園に隣接する中村中学高校

記事の著作権はすべて一般社団法人全私学新聞に帰属します。
無断での記事の転載、転用を禁じます。
一般社団法人全私学新聞 〒102-0074 東京都千代田区九段南 2-4-9 第三早川屋ビル4階/TEL 03-3265-7551
Copyright(C) 一般社団法人全私学新聞