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記事2005年5月3日 1976号 (1面) 
衆参両院憲法調査会が最終報告
私学助成の必要性異論なし 89条改正には賛否
私学振興助成法の充実重要
バウチャー制、会社法人等への助成課題と指摘も
五年に及ぶ衆参両院憲法調査会での議論がこのほど終了し、相次いで最終報告書が公表された。
両報告書は合わせると一千ページを超える膨大なものだが、この中では憲法八十九条の「公の財産の用途制限」と絡んで私学助成の憲法問題も取り上げられている。両院議員とも与野党を問わず私学助成の必要性について基本的に異論は見られないが、八十九条における私学助成の位置付けには様々な意見があり、またバウチャー制導入や会社法人等への私学助成の問題の検討を指摘する意見もあり、今後論議が本格化する教育基本法改正と並んで今後の憲法論議は大きな問題といえる。

教基法改正と並び焦点に

 衆議院憲法調査会(中山太郎会長=衆議院議員)は、最終報告書を作成し、四月十五日に河野洋平・衆議院議長に提出した。報告書は、前書きや資料編を加えると七百ページを上回るボリュームで、「前文」や「安全保障及び国際協力」「国民の権利及び義務」「司法制度」「財政」「地方自治」などについて委員(議員)や参考人等の意見の概要が紹介されている。
 このうち私学助成の憲法問題は、「財政」の中の「公の財産の支出制限」に関して、私学助成は八十九条に違反しないとする意見と違反するとの意見が述べられている。
 私学助成は八十九条に違反せず、合憲とする意見では、「二十六条の教育を受ける権利から、私学助成は憲法上認められるべきである」「政府見解、判例及び学説のいずれからも、私学助成は合憲であるとして認められている」「私学助成が合憲であるという解釈を前提に、私立学校振興助成法が制定・運用されている」などがあり、その一方で「私学助成は八十九条の文言に違反し違憲」との意見があった。
 八十九条の取り扱いについては、「私学助成ができることを憲法上明確にし、憲法上の疑義を払拭すべきだ」「八十九条の解釈としては、『公の支配を』を緩やかに解して私学助成の合憲性を認めるべきであるが、公金の濫費防止という八十九条の趣旨を明確にするために、同条を改正する必要がある」「NPOやNGO等に対する公的助成を認める必要がある」との意見があった。その一方で「私学助成は八十九条に反しないことは明らかであるから、同条を改正する必要はなく、二十六条一項の保障する国民の『能力に応じて、等しく教育を受ける権利』を実質化するために、私立学校振興助成法を充実することが重要」との意見も出されている。
 参議院憲法調査会(関谷勝嗣会長=参議院議員)は、四月二十日に最終報告書をまとめ、関谷会長が四月二十七日の参議院本会議で報告している。報告書は全体で約三百ページ。このうち私学助成については、「私学助成が必要であることは、本憲法調査会における共通の認識である」とした上で、「現行の憲法のままでよいのかという点では見解が分かれた」としている。

憲法上の疑義払拭明確な表現が必要

 憲法条文の改正を必要とする意見としては、「党の新憲法起草小委員会の検討(平成十七年)においては、現行でも合憲とされている私学助成については、違憲の疑念が抱かれないような表現としている」(自由民主党)「八十九条を素直に読めば私学助成は憲法違反といわざるを得ないが、違憲だから全廃せよと言う人はいないであろう。条文が現実と合わず、現実の方が合理的な場合には条文を変えるしかない」「私学助成については、八十九条後段を削除するだけではなく、積極的に私学助成について明記することも一つの方法」などの意見が紹介されている。反対に改正を不要とする意見としては、「八十九条は公教育を担う私立学校への助成を禁止する趣旨ではなく、私学助成は、憲法制定議会以来、憲法上是認されていると解されており、二十六条の立場からも当然の措置である」(日本共産党)などがあった。
 そのほか「政府解釈や八十九条の規定では、私学助成や教育分野におけるバウチャー制導入は不可能になる。二十一世紀の日本に必要な規定か、解釈の見直しにより対応するか、議論を深めるべきだ」(民主党・松井孝治議員)「私学助成については、学校法人という形で公の支配に服しているとの解釈があるが、NPO法人や会社法人の場合はどうなのかという問題提起もされており、このような観点からも考えるべきだ」(公明党・山下栄一議員)との意見が述べられている。
 私学助成については、合憲とされながらも、憲法改正論議ではしばしば八十九条の規定と絡んで憲法改正が必要な理由に挙げられてきた。一連の構造改革や規制改革論議では株式会社等の設置する学校への私学助成実施問題と関連して、八十九条の解釈が文部科学省と規制改革を求める委員との争点となっており、現在もそうした議論が続けられている。憲法論議が進むにつれ私学団体でも再び八十九条の問題に関心が集まりつつあり、研究が始まっている。

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